第15話

 ピエールの屋敷は砦から馬車で五分ほどの場所にあった。


 高い壁に囲まれた豪華な屋敷には警護の為の兵が多数配置されている。


 中も豪奢でシャンデリアに絵画など、王都から買ってきたものがこれでもかと飾られていた。


 出された食事も一流ホテルのそれだ。


 さすがの贅沢にコンラッドは苦笑した。


「田舎者にはもったいないものばかりですね」


「いえいえ。あなたは英雄を育て上げた方。つまりは国を救った救世主です。そんな方をもてなすのにこれくらい安いものですよ」


 ピエールはニコリと微笑んでこれまた高そうなワインを飲んだ。


 コンラッドは柔らかい肉をフォークでぶすりと刺し、口に入れる。あまりにも旨くて涙が出てきた。


 それを見てピエールは心配そうにした。


「どうされました?」


「いえね。息子達にも食べさせてやりたいなと思って」


「それはお優しい。さすがは救世主様。もしよければ住所を教えてくれますか? これと同じ肉をお送りしますよ」


「いやいや。そんなことまでしてもらわなくても。それに高いでしょ? これ?」


「ククク。町民が三日寝ずに働けば食べられますよ」


「そりゃ高い」


 そこで農夫でもあるコンラッドの目が少し真剣になった。


「でもどうやってこんなものを? 屋敷もそうだ。えらく儲かってますね」


 ピエールはナプキンで口を拭き、ニヤリと笑った。


「なに。簡単なことです。魔族の土地は誰の物でもありませんからね。そこを奪って町を作る。今は田舎から出たい者がいくらでもいますからね。そういった輩に家を売って住ませれば税金を納めてくれるわけです」


「なるほど。そのカラクリがあるからあなたはなにもせずに毎晩旨い肉が食べられるわけだ」


「人聞きが悪い。人の上に立つ者は常に知恵を働かせているんです。搾取される側が馬鹿なだけですよ」


 ピエールは悪そうに笑った。


 コンラッドはうっすらと笑う。


「王はこのことを? 土地を広げるには王都からの許可が必要らしいですけど」


「もちろんご存じです。王都の役人達とは仲良くやらせてもらってますよ」


「……なるほど」


 賄賂だなとコンラッドは推理した。


 役人に賄賂を渡して上手く話を進める。こんな辺境の地では滅多に査察もない。


 コンラッドは窓の外を見つめた。そこには削り取られた森の姿が広がっている。


「……ですが魔族達は黙ってないでしょう?」


 ピエールは溜息をついた。


「ええ。それが困っているんですよ。あなたも見たでしょう? あの蛮族共を。特にエルフの女には手を焼いてましてね。懸賞金もかけているのですがこれが中々手強くて……。あいつらさえいなくなれば私はもっと簡単に土地を広げることができるのですが。そこでです」


 ピエールはパチンと指を鳴らした。


 すると部下の男がコンラッドに近づき、テーブルに小さな箱を置いた。


 部下の男が箱の蓋を開けた。するとそこには溢れんばかりの金貨が入っていた。


「どうかあなたにも協力してもらえませんか? 手付け金として五十万ギル。倒していただけたらこの十倍支払います。もちろんやってくれますよね? あなたは魔王を倒した英雄を育てたお人なのだから」


ピエールは醜く笑顔を歪ませていた。

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