第9話 新天地

第9話


ソフィリアは今日、ある場所へと向かうために神々が集う宮殿へと足を踏み入れた。

風光明媚で煌びやかな宮殿は天界においての権威の象徴でもあり、神々の憩いの場でもある。


「数日ぶりだな、ソフィリア。進捗はどうだ?」


紫色の美しい髪をなびかせながらある男はソフィリアへと接触する。男の名前はゼノン、風を司る神であり、シードの一神でもある。

常に厳格な雰囲気を醸し出しているため、どこか近寄り難い印象を民には抱かれている。


「これはゼノン様、今のところは順調に進んでいると思っています」


「何よりだ、今日は何しにここへ来た?」


「ええまぁ、少し…ちょっとした交渉をと思いまして」


今日ここへ来た目的は勿論ゼノンでは無い。

この天界で最も輝かしい存在といっても過言では無い“光を司る神”に会うためである。


「ふむ。アテラなら先程確認済みだ、こちらからここへ来ることを命じよう」


ゼノンは耳に手を当て、遠く離れたアテラとの連絡を済ませた。

神々はなんと便利なもので念じることで通じ合えることができる。


「すみません、手数をかけてしまいまして」


「気にするな、また何か用があれば奥の部屋へと訪ねてきてくれ」


頼もしい背中を見届け、ソフィリアは待ってる間“アウロラ”へ向けてのメンバー確認を始めた。


現状として神からはアクア、人間からはアリサ、騎士からはガオウ、ケシャ、ユナというメンバーで構成されている。

残りの期間を考えたとしても上々と言ったところだろう。懸念点としては既に宛にしていた人員の半分を使っているということだ。

だからこそ今回はその懸念点を払拭すべくある種族への勧誘を試みる。そのために必要なのは……。


「おまったせぇ!」


はきはきとした威勢の良い声がその場の空気を照らし、ソフィリアの耳へと貫通した。

腰あたりで結った美しい黒色の髪、巫女装束のような服装で身を纏った背丈の低い彼女こそが、“光を司る神”アテラである。


「アテラ様、ご無沙汰しております。ソフィリアです」


「ソフィ!やっと余の嫁になる気になったのかな!?」


出会い頭にアテラは自身の唇をソフィリアの唇へと運ぼうとしていたが、あっさりと制止され額を指で弾かれてしまう。


「アテラ様も変わらないですね…」


「ソフィは変わったよねぇ、一段と可愛くなったって言うか〜」


「それはどうも…」


軽口を叩き続けるアテラに呆れながらも、話を進めるため個室へと誘導した。


「ソフィ…いつでも来ていいんだよ」


アテラは宮殿の個室に入るや否や、自身の服をはだけさせ、貧しい胸元を露出する。

ソフィリアにとってはそれすら見慣れたような光景であったため、気に止めることも無く話を本題へと進めた。


「最強のサムライをご紹介願います」


アテラに会う理由、それは地球上に存在している国ニホンにかつて存在した“サムライ”という種族に接触するためである。


ソフィリアの言葉にアテラの顔つきが変化する。


「ほう、主からそんな願いが出るとはな」


「生憎と私はニホンについての知識が手薄でして、ニホンの神であるアテラ様のお力を借りしたいのです」


天界にもニホン町と題してニホンの文化が取り入れられている場所が存在する。

ソフィリアは数多の教養を受けてきたが、ニホンへの関心はあまり深くない。理由は管理職としてニホン町は管轄外の所に位置しているため、関わることはほとんどないからである。


「それはもしや、アウロラとやらに必要なわけか?」


アテラの勘は鋭く、見事に的中した。

ソフィリアがそれ以外のことで接触することなど極めて稀有けうなことのため当たり前と言ってしまえば当たり前だが。


「ええ、その通りです。サムライという種族は聖騎士にも匹敵すると聞きましたので」


同じ武具を極めた者として騎士とサムライは近い存在である。貴重な戦力であるためここでみすみす捨てるわけにはいかない。


「いいだろういいだろう、ただし条件がある!」


身を乗り出し、食い気味に条件の取り付けをソフィリアに迫る。


「条件ですか…」


「よければおっぱいを揉ませ…」


間髪入れず、ソフィリアはアテラの頭上に拳をぶつけた。


「いたい!ソフィ…神に向かってなんと、不敬だぞ!」


大袈裟に頭を抑え、喚くアテラに軽蔑の眼を向ける。


「虫が止まってましたよ、虫が」


アテラは天界の中でも屈指の変態的嗜好を持ち合わせているため、ソフィリアが絡む時はいつもこの調子である。その為、ソフィリアのアテラに対する扱いはいつも通りである。

アテラはどこか不貞腐れつつも、身なりを整え、小さく咳払いをした。


「それじゃあ向かうとしよう」


アテラの声色は一段と高くなり、手足をばたつかせながらソフィリアの手を取る。

まるで遊園地に来た子供のようなキラキラした瞳でソフィリアを一点に見つめていた。


「え、いえ紹介文だけでも書いてくれたらそれで十分ですので」


「何を言ってるのだ?ソフィとせっかく会えたというのに、ここでお別れなぞ余は嫌じゃ」

「それに、主が思ってるほど奴らは甘くないからな」


アテラの微かに頬を緩め、ソフィリアを一瞥いちべつした。

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