第47話 未来をも蝕む置き土産

「……あの男、とんでもない置き土産を残してくれたね」


 サンダルフォンが語った衝撃の事実にイフティミアはこめかみを押さえ、ユスフは震え上がる。


「つ、つまり、禁書を処分すれば魔城が出現することは無くなり、その影響で吸血鬼は衰退していき、人々は穏やかな日々を送れるようになる可能性はとっくの昔に失われていた……ということですか……?」

「ああそうだよ、腹立たしいことにね」


 こめかみを引っ掻きながらイフティミアは深い溜め息を吐く。


「うちのご先祖さんたちが浮かばれないな。苦労して女王吸血鬼を倒したのに、後の世がこの有り様だなんて」

「恨むなら吸血鬼どもの厄介さを恨みな。特にナルシスのようなとびきりの問題児をね」

「もう死んでる奴を恨む暇があるなら魔城を復活させない方法でも考えてる方が建設的じゃないか?」

「……尤もな意見だよ」


 頭を抱えて右往左往するユスフを横目に見つつ、イフティミアは肩を竦める。


「そういや魔女さん、もう一個聞きたいことがあるんだが良いか?」

「何だい?改まって」

「転移の魔法陣を出してるのは誰だと思う?」

「……順当に考えるならパンフィリカだろうね」

「魔女さんもそう思うか」

「他の心当たりでもあるのかい?」

「いや、俺もパンフィリカの仕業だろうと思ってる」


 サンダルフォンが素っ気なく述べた一言にイフティミアは目を丸くする。


「何だい、賛同者が欲しかったのかい?」

「……そんなつもりは無かった」

「まぁ良いさ、お前さんは今やるべきことに専念しな」

「ああ」


 光が消えたブローチを懐に入れた後、サンダルフォンは淡く輝く魔法陣に目を向ける。


「パンフィリカは俺……モーリエの狩人が魔城に来るのを待っていたのかもな」

「そうとしか思えないぐらいには状況証拠が揃いすぎてるね」

「未練がましいにも程がある……」


 ぶつくさと文句を言いながらサンダルフォンは魔法陣を踏み、雪原地帯へと移動する。


「……寒い」

「大丈夫かいサン坊?人間は寒いところに長くいると凍え死んでしまうんだろう?」

「吹雪が来なけりゃそうすぐにはやられないさ」


 白い息を吐きながらサンダルフォンは銀世界に真新しい足跡を刻んでいく。


「しかし、どこもかしこも真っ白だな……」

「こういう開けたところの方が迷子になりやすいって話を昔聞いた覚えがあるよ」

「目印に使えそうなものが何も無いからか」

「小休止に使えそうなものは今し方見つかったけどね」

「……そうだな」


 安堵の息を吐いた後、サンダルフォンは壊れかけの彫像に祈りを捧げた。

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