第10話 魔獣蔓延る昏き森

「──また一つ、赤い薔薇の扉に施された封印が解けたようですね」

「残りは三つ、か」


 攻略が済んだ青と黒の扉を横目に見つつ、アンヘルは肩を竦める。


「そういえば黒い薔薇のコサージュには強化の魔法を施したってイフィーが言ってたよな」

「はい、常時効果を発揮するようにしたとも言っていたので次の戦闘時にその恩恵を実感出来るかと」


 少し考え込んだ後、アンヘルは徐に口を開く。


「そういやすっかり聞き忘れていたんだけどよ、クリスを作ったのはイフィーなのか?」

「いいえ、私を作ったのは吸血鬼を憎むとある職人です」

「……その職人のとこからイフィーの工房へ行くまでの間に何があったんだ?」

「かの職人には魔城の攻略に挑めるだけの実力が無かったため、自身が作り上げた武器を相応しい相手に届けてくれる者……イフティミアに預けました」

「で、今は俺の相棒として絶賛大活躍中と」

「お褒めに預かり光栄です」

「じゃあその職人のためにも頑張らないとな」


 そう意気込んで橙色の薔薇の扉に触れようとした瞬間、アンヘルは強烈な悪寒を覚える。


「な、何だよ今の……」

「……アンヘル、この扉の向こう側から強い魔の気配が漂っています」

「生温い気持ちで挑んだらすぐ死ぬかもしれないってことか、上等だ」


 低い声でぼそりと呟き、アンヘルは扉を勢い良く開ける。


「墓地、河原と来て今度は森の中か」


 周囲を警戒しながらアンヘルは獣道を歩く。


「今回もどこを目指せば良いのか分かりませんね」

「河原の時と違って大雑把な方針を立てることも出来ないから余計に面倒だな」

「では目印を付けながら進みましょう。何もしないよりはマシな筈です」

「そうだな、じゃあまずはそこの木に付けておくか」


 そう言って手頃な木に近寄ろうとしたその時、獣の遠吠えが森の中に響き渡る。


「な、何だ?」


 突然の事態にアンヘルが戸惑う中、複数の足音が迫ってくる。


「アンヘル、上に退避を!」

「"跳べ"!」


 アンヘルが跳躍の魔法を発動させて木の枝に飛び乗った直後、無数の獣が木の根元に群がる。


「久しぶりに手荒い歓迎をされましたね」

「もう受けたくなかったけどな」


 溜め息を吐き、アンヘルは辺りを見渡す。


「とりあえずあいつらを撒くか」


 跳躍の魔法を駆使して枝から枝へと飛び移り、獣の足音が聞こえなくなった辺りでアンヘルは地面に降りて後ろを見遣る。


「これでようやく落ち着いて探索が出来るな」

「アンヘル、そこに彫像があります。傍で休んでいきましょう」

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