第11話 ゴブリンの村 パート2
⭐️ ガロファー視点になります。
アザレアは人間の赤ん坊を連れて帰ることにした。俺にはそれを止めることはできなかった。アザレアは子供を失ってからずっと塞ぎ込んでいて、ろくに食事も取らずに家に閉じこもっていた。今回は少しでも気分転換をさせる為に、近所のコブリンを連れて無理やりアザレアを外に連れ出して狩りに出かけていたところだった。
人間の赤ん坊を抱きかかえたアザレアの顔はとても生き生きとしていた。いくら俺が慰めの言葉をかけても癒すことが出来なかったアザレアの心を、赤ん坊は笑顔一つで以前のアザレアの明るい笑顔を取り戻させたのである。しかし、人間の赤ん坊をプポンに連れて帰るのは危険だ。プポンは一年前の盗賊団【
「アザレア、ダグネスには人間の独特の匂いがする。これを着させてくれ」
人間は異様な匂いを発している。俺たちは人間が近くに来るとその匂いでわかるのである。俺は獣皮で作られたフード付きの服を赤ん坊に着せるように言った。この服はコブリンが着ていた服を借りたモノである。サイズは大きめだが人間臭を消すためには必要である。
「わかったわ」
アザレアは獣皮の服をダグネスに着させた。
コブリン達は人間の赤ん坊のことなど全く気に留めずに、木に登ったりして遊びながら帰路に就く。
「ガロファー様、人間の赤ん坊を連れて帰っても本当によろしいのでしょうか」
フラーゴラは心配そうに俺に尋ねてきた。
「カレンドゥラ様に相談する予定だ。カレンドゥラ様の判断が出るまでこの事は秘密にしてくれ」
カレンドゥラとはプポンの村長である。
「わかりました。しかしカレンドゥラ様が人間の受け入れを賛成するとは思えません」
「わかっている。俺がなんとか説得をする」
プポンに戻る前に俺は、フラーゴラと二人で草原に転がっている全ての死体と馬車を焼却してから大きな穴を掘り、燃え残った鎧や骨を埋めることにした。ここで起きた事件を無かったことにするためだ。こんな偽装工作がどこまで人間に通じるのかわからないがこのまま放置するよりかはマシだと俺は判断した。俺達は全てを綺麗に片付けた後、先に村に帰って行ったアザレアとコブリン達を追いかけることにした。
プポンに戻ると俺は1人でカレンドゥラの家に向かう。カレンドゥラはゴブリンオーガであり、俺よりも10歳年上でこの村で最強の戦士でもある。力に自信がある俺でもカレンドゥラには一度も勝ったことはない。
「カレンドゥラ様、ご報告があります」
「思いつめた表情をしているが何かあったのか?」
カレンドゥラはいつもとは違う俺の表情を見て森で何か起きたのかと察知する。俺は森での出来事を詳細に説明をしたが、人間の赤ん坊のことだけはふせていた。
「何かきな臭いことに巻き込まれたみたいだな」
「はい。人間達の狙いはわかりませんが警戒を強めた方が良いと思います。1年前の惨劇を繰り返すわけにはいきません」
1年前俺達はダグネスを村の者に預けて、ゴブリンオーガからゴブリンキングに進化したモルカナ様を祝福する為にエルデの村に行っていた。もしもあの時村を留守にしていなければダグネスを守ることができたのかもしれない。
「そうだな。俺たちがモルカナ様のところへ行っている隙に、この村は襲われたのだ・・・」
村長としてカレンドゥラは強い責任を感じている。
「はい。盗賊団【大欄蜘蛛】と共闘した冒険者達が、欲望の限りを尽くし村をめちゃくちゃにしました。恐らく私達がいない時を狙った襲撃だと思います。今回の事件の黒幕は誰なのかわかりませんが、殺された王国の騎士の仇を討つために王国騎士団が攻め込んでくるかもしれません。時間稼ぎになるのかわかりませんが死体や馬車は穴に埋めたので、すぐに攻め込んでくる可能性はありませんが、早急にモルカナ様に報告する必要があると思います」
「そうだな。早急に知らせる必要があるな。・・・ガロファー、他にも何か言いたいことがあるのだろう?」
俺の心はカレンドゥラに見透かされているようだ。
「実は・・・
俺はカレンドゥラに人間の赤ん坊について説明した。
「・・・」
カレンドゥラはダグネスを失ったアザレアの悲痛な姿を1年間見守っていた。優しい言葉で励ますこともあったが、アザレアを救うことはできなかった。しかし、1年前の事件で死んだのはダグネスだけではないし、3名のコブリンの女の子が誘拐されている。悲しみに暮れているのはアザレアだけでない。
「どうすればいいのだ。人間の赤ん坊をこの村に置いてもいいのか?後々トラブルにならないのか」
カレンドゥラは頭を抱えて悩み込む。ここに住む全員が人間を憎んでいるだろう。特に子供を誘拐された親は、人間を見たら殺したくなるほど憎んでいるはずだ。俺も同じ気持ちである。もし、俺の目の前に人間が姿を見せれば迷わずに殺してしまう自信がある。いや、あったと言うべきなのかもしれない。アザレアがダグネスのように可愛がるあの赤ん坊を見ているうちに、いつしか俺もあの赤ん坊が愛おしくなっていたのであった。
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