第11話 もつべきものは幼馴染みと幼馴染み(またか)
「ハルさぁぁぁぁぁんっ!あたし出家するーーーーーっ!!」
『………今年イチでひでえ冗談だな』
別にハルさんとは毎日ボイチャしてるわけじゃなく、まあ先方のカレシ第一主義に鑑みて一人で暇してそーな時を狙って話しかけてるわけだけど、今日に限ってはそんな余裕もなく、オンラインなのを確認したらそっこーでいつものチャンネルに突撃かましたのだった。
『なんだなんだ、佳那妥が壊れてるのはいつものことだけど今日はまたいつもより酷いな』
そして、それが失敗のもとだった。どーもあたしは恋人のスイートタイムに突撃おまえがあたしのオカズだしてしまったようで、雪之丞の野太い声まで聞こえてきたのだった。
「あり?もしかしてお邪魔だった?」
『いや、別に。というかいつも言ってるけど、このチャンネルは三人のものなんだから俺に遠慮なんかするな、って言ってるだろ』
「あたしが遠慮してるのはハルさんであって、別に雪之丞のことはどうでもいい」
『おいカナ。あーしのカレシに何いってくれてんの』
「うふ。あたしをー、雪之丞くんのぉ……二号さんにぃ……し・て?これでいい?」
『いいわけあるかドアホ!』
雪之丞は爆笑していた。
まあ、あたしら三人はこーいう関係だ。
ちなみに佐土原雪之丞。あたしらとは同い年。雪之丞なんて雅な名前に似合わない、身の丈六尺三寸の大男。家が古武道の道場で、道場主の爺さまにしごかれて育っているものだから、生傷が絶えない生活をしている。
だもんで、基本的には厳つい筋肉ダルマの大男。こんなんにハルさんは惚れ込んでるんだから、まあ世のギャルってもんとはほど遠い恋愛してるよなー、って思うのだ。まあそんなことはどうでもいい。
『で、今日はなんだって?まーた例の二人と何かあったのか?』
『お、例の二人、っていうと佳那妥の毒牙にかかったとかいう不幸な少女二人のことか?』
「あたしは真剣真摯に二人を愛でているだけだってば。いやそんなことよりも、いやそんなことじゃなくてそんなことのど真ん中なんだけどっ!」
『あんた今日はいつもにもまして話の入口がまどろっこしいな。雪之丞にも聞かせていい話だってんなら別にいいけど、そうでないなら雪之丞追い出すよ』
『女の友情に負ける彼氏ってのも珍しいなあ。威張っていいか?』
「あたしとハルさんの愛は雪之丞にも妨げられないのサ。ハルさぁん……来世でも一緒にお願い……ね?」
『あんたとの腐れ縁は今世で十分だっつーの。ていうか話が進みやしない。ほら、なんでもいいからとっとと話せ、あほ』
大体昔っからこーいう調子なもんだから、とにかく話が始まるまでに時間がかかる。かいつまめば三十秒で済む話を、相変わらずあたしの脱線含みでたっぷり五分はかけて、卯実にむかってしでかした不始末の件を話した。
「というわけで…あたしはもうお終いだ……」
『全然深刻そうに感じないんだが、俺の気のせいか?』
『同感だけど、こうなった時のカナは面倒だからなあ』
『ううむ……』
ヘッドセットの向こうで二人分のため息。そのため息要る?
『いやだってさ、あーしらにとっては今更過ぎてどうしてそこまで深刻になるのか全っ然わかんなくて』
「そんなぁ……」
ぜつぼー。この苦しみをハルさんですら分かってくれないとは。
『というよりどうして佳那妥が深刻に感じるか、を分析したほうがいいんじゃないか、この場合』
『うん?それどういうことよ、雪之丞』
『俺と春佳が深刻に思うポイントと、佳那妥が深刻に思うポイントが違うってことだろう、要するに今の認識のズレってのは』
まあそれはそうだろうね。っていうか雪之丞のくせに一言であたしを納得させるとか生意気だ。
『ふーん。一理あるね。やるじゃん、雪之丞。じゃあカナがさ、こうなったら困る、っていうのはドコのことよ。ちなみにだけど、あーしと雪之丞が深刻に感じるのは、カナがひどい目に遭うこと、だけど』
「うーん……」
あたしが深刻に思ってる、というかこうなったら困る、っていうポイントは……。
「……あたしとしては卯実と莉羽に絶交されるのがイヤなの……あああそんな目で二人を見てたって知られたらあたしはあたしはもぉぉぉぉぉっ!!」
ヘッドセットの頭頂部を覆うバンド部分ごと髪を掻きむしりながら悶絶。
だってさあ……百合とか今風にキレーに言っちゃっても要するに同性愛よ?どーせーあい。友だちに「そういう人なの?」って思われるの、結構………その、困るっていうか……うう…。
『というかだな、俺も友人にそういう風に見られたことあるしな』
「ほえ?」
『あー、そういやなんか去年言ってたね』
なんと。初耳だ。ん?てことは百合じゃなくてBLの方か?
『ああ、なんかびーえるとか言うらしいな。いや、クラスメイトにやたらと華奢なヤツがいてさ。なんか俺と並んでいると、セメとかウケとかがどうのこうのとか』
「……イヤじゃなかったの?」
『そりゃあ感じよくはなかったさ。あまり話もしないやつだったし、そういう事実も無かったからな。けどまあ、そう言ってた奴は吹聴したりの囃し立てたりのはしなかったし、どうせそんな話題になったところで当人同士の関係に影響なんか無いからな。放っておいたら俺の耳には入らなくなっていた』
まあナマモノは取扱い注意、ってのは愛好家の間では不文律だしね。
『そうだね。で、カナのお友だち二人は実際そういう関係なんだし、カナにそういう認識で見られたところで特に気にはしないだろ、多分』
「そうかなあ……あたしが面白がっているって知ったら、やっぱり気分よくはないと思うよ……」
『で、カナとしては今でもただ面白がってるだけ、なのかい?』
どうなんだろう。もちろん愛でて楽しんでいるところはあるけれど、名前で呼び合うようになっちゃったり、家に上げてもらったり、あとどうして互いにそう想い合うようになったかなんて話を聞いて感情移入しちゃったりしたから、面白がってるだけ、ってことはないと思う。
『だろー?カナは親しい人間が相手だと特に、考えてることがだだ漏れするタイプだし、薄々勘付かれているよ。面白がっていることも、その二人を大事に思ってることも、ね』
『だな』
ううう、幼馴染み二人があたしのこと分かったようなこと言ってくれるよぅ。ていうかあたしもそうだと嬉しいな、とは思うし。
『ま、明日明後日は休みなんだし、その間向こうから何も言ってこなければ、特にどうとも思ってないだろ。なんなら自分から連絡してみれば?』
「そこまでする度胸はないからやめとく……」
そんなことを心細く言ったらハルさんと雪之丞には笑われたけど。
でもお陰で気持ちは楽になって、あとはいつもの配信者のライブとかも見ながら、機嫌良く過ごせる週末になったのだった。
-今日ヒマだったら遊びにこない?-
……ただしそれも、次の日の朝、莉羽からSNSのDMでそんなメッセージが届いたのを見て青ざめるまでの間は、のことだったけれど。
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