第17話 討論、そして…
美海の授業参観に参加する俺と姉ちゃん。参観するのは国語の授業なんだが、「5人グループに保護者を交えて討論」と担当の女性先生が言った。
俺と姉ちゃんは当然美海がいるグループに入る。そのグループは美海を除くと女子2人・男子2人の構成で、全員軽く自己紹介を済ませる。
オレンジのヘアピンが特徴的な
もうそろそろ討論のテーマである『校則について』を話し合うべきだが、木房さんと暗座さんが俺に連絡先のメモを渡した事で、微妙にグループ内の空気が悪くなる…。
「ねぇ、蜜柑ちゃんと栞ちゃんは何でお兄ちゃんに連絡先を教えたの?」
美海は不機嫌な様子で言う。姉ちゃんは表情・態度を変えてないものの、俺を見つめている。
「アタシ年上の男と友達になりたいんだけど、『知らない人とSNSはダメ!』ってママがうるさくてさ…。顔を合わせれば、知らない人じゃないでしょ?」
「…わたしも同じ感じ。わたし、兄妹の末っ子でみんなお兄ちゃんなの。だからお兄ちゃん以外の年上の男の人に興味があって…」
2人は事情を話したが、美海の様子は変わらない。
「そんな事より、お兄さんの連絡先教えてよ」
木房さんは俺にペンとメモ用紙を差し出した。
一方的でも教えてもらったから、俺も教えないとダメか?
「良いけど、俺はバイトしてるから遊ぶ時間はあまりないからな」
一応付き合いが悪くなる予防線を張っておく。
これを聴いて、美海の表情が少し和らぐ。心配の種はそこだったみたいだ。
「わかったよ」
思ったより残念そうじゃないな。期待されてないのか嘘だと思われたのか…。俺は木房さん同様、〇インのIDと番号を書いて渡す。
「ありがと~」
あれ? 暗座さんは訊いてこない? 俺から指摘すると美海の機嫌をまた損なうかもしれないし黙っておこう。
「みんな。そろそろ討論を始めないと先生に怒られるわよ?」
姉ちゃんが全員の顔を見て話す。
「そうだった! お姉ちゃんとお兄ちゃんもどんどん言ってね!」
「わかってるよ」
こういうのは正直苦手だが、やるしかないな。
「アタシは絶対校則はいらないと思う」
先陣を切ったのは木房さんだ。キャラ的に校則は嫌がるだろう。
「みんなはどんな感じ~?」
彼女の問いに他の4人は口を開かない。考えてる最中か?
「あたしはいるかな」
美海は必要派のようだ。俺は…、どっちにしよう?
「…わたしはいらない」
暗座さんは木房さん同様、不要派みたいだな。
「ちょっと男子! 何とか言ってよ!」
「えーと…」
「……」
大川君はかろうじて声を出したものの、坂宮君は黙ったままだ。木房さんは気が強そうだし、2人とは相性が悪そうだ。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんはどう?」
美海が俺と姉ちゃんに話を振る。
「私はいるわね」
姉ちゃんは必要派のようだ。俺も2人の事を考えてそっちにしたいが、不要派を説得できる理由を持っていない。
「俺は…、保留ってことで良いかな?」
「僕も…」
大川君が俺に乗っかり、坂宮君も頷いて意志表示する。
「…情けない」
暗座さんの何気ない一言がキツイ。事実だから尚更だ。
何はともあれ、これで全員の意志は確認できた。校則必要派は姉ちゃんと美海、不要派は木房さんと暗座さんとなる。
見事に2対2に分かれたな…。保留組は終わるまでに決めないと。
「まずさ~、制服着るのだるいんだよね。ださいし。校則があるから、制服着ないといけない訳で…」
制服はオシャレアイテムじゃないんだが…。木房さんらしいな。
「そうかしら? 私は服を選ぶ手間が省けて助かるけど?」
早速姉ちゃんが反論する。
「そんなに手間かな~? 選ぶの楽しいじゃん」
「木房さんはオシャレ好きだからよ。そうじゃない人は毎日選ぶのは大変だと思うわ」
「だったらオシャレすれば良いよね? お姉さんはめんどくさがりなのかな?」
それ、制服着るのだるいの“ブーメラン”になるんだが?
「木房さんの言う通りね。私、オシャレに疎いから…」
姉ちゃんは挑発に乗らず、淡々と答える。
こういうのが最年長の余裕なんだろうか?
「…わたしは友達いないから、校則があると暇な時に携帯でゲームできない…」
俺も高校の昼休み中にするから、暗座さんの気持ちはわかる。
「でも、携帯が好きな時に使えると変なイタズラができちゃうよ?」
美海が心配する気持ちもわかる。道具は使い方次第だよな。
「…携帯でそのイタズラを撮れば良い…」
“毒を以て毒を制す”って感じか? それもわかるな~。
「大地。そろそろ討論に参加して」
姉ちゃんに催促された上に、全員の視線が俺に集まる。同じ男子の大川君と坂宮君に良いところ見せなくては!
「えーと…、校則はいるよ。校則と制服がセットだから、俺達生徒は気を引き締める事ができるんだ」
互いを補完し合ってると言うべきだったか?
「? 関係ある? その2つ?」
「…私服の人はいつも緩んでるの…?」
木房さん・暗座さん共に首をかしげている。恥ずかしすぎて穴に入りたい!
「私にはちゃんと伝わったから」
「あたしもお兄ちゃんの言いたい事わかるよ!」
姉ちゃんと美海が励ましてくれた。ありがたいような触れないで欲しいような…。
「もうそろそろ、グループ内で結論を出して下さい!」
女性先生の大きめな声が教室に響く。
今のところ、校則必要派は3人・不要派は2人になっているが、大川君と坂宮君が意見を述べていない。これではまとめる事ができないぞ。
「2人とも、ゆっくりで良いから自分の考えを話してちょうだい」
姉ちゃんが優しい声のトーンで男子2人に話しかける。
俺の失敗を活かしてくれよ! 大川君。坂宮君。
「そうですね…。僕は制服を着て、その学校の一員と思いたいので校則は必要だと思います」
「大人になると守らないといけないルールがたくさんあるから、校則は練習のためにいると思う…」
大川君と坂宮君が意見を言い終えた。不要派の2人が反論したいように見えるが、時間的にこれ以上の討論は厳しいだろう。
連絡先うんぬんの件がなければ何とかなったかもな。
「校則必要派は4人・不要派は2人って事で、このグループは“必要”が多数で良いよね? お姉ちゃん?」
「ええ。みんなよく頑張ったわね」
こうして、討論の時間は幕を閉じた。グループ内で決まった結論を述べるために代表者が教壇で話す流れになったんだが、美海がグループ内の多数決で代表者に選ばれた。
俺は散々な結果になったものの、終わり良ければ全て良しだな。
全てのグループが結論を話し終えた時、授業終了のチャイムが鳴る。これで授業参観は終わりだ。精神面の疲労が半端ない…。
「保護者の皆様、お忙しい中ありがとうございました!」
教壇に立っている女性先生が頭を下げる。
それを見た他の保護者も頭を下げたので、俺も一応下げておく。
「パイプ椅子はそのままで構いません。…気を付けてお帰り下さい」
だったらお言葉に甘えよう。そう思って立ち上がろうとした時…。
「お兄さん、後で見て」
木房さんが俺に何かを手の中に入れてきた。
よくわからんが、今はポケットに入れておこう。
教室を出て、来客用出入口から校外に出る俺と姉ちゃん。
「さっき木房さんが渡した物って何?」
「気付いてたのか?」
「当たり前よ。…私にも見せて」
俺はポケットに手を入れ、さっきの物を取り出す。…小さいメモ用紙みたいだ。連絡先が書いてある奴とは別の種類で、なかなか凝ってるな。
って、そんな事は後回しだ。俺は姉ちゃんと一緒にチェックする。
『お兄さんの高校の文化祭に行きますね♪』
「なっ…」
制服で俺の高校はバレている。文化祭の日程は公式サイトとかでわかるはずだから、俺が連絡しようとしまいが関係ないな…。
「のんびりしてはいられないわね…」
姉ちゃんが謎の独り言を発した。
「何の事だ?」
「何でもないから。…そろそろ帰りましょうか」
「ああ…」
俺と姉ちゃんは中学を出て、家に向かって歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます