おっさんゲーマーやり込み過去プレイデータでレトロゲームのリメイクVRMMOを征する~『アナザー・ダイヴ・リワールド』~

カズサノスケ

ドラグーン・ファンタジアⅠ 遺跡

第1話 おっさんに鞭打ってフルダイヴ

「やぁ、冒険者さんかい? 珍しいの~~。何もない村だがゆっくりしていって下され、お茶でもどうだね」


「ありがとう(モブの)爺さん……。いや、ちゃんと名前があるみたいだな『テスト4021』なんて適当な名前がなっ!」


 俺は笑顔でお茶をすすめてくれた老人の口の中に剣の先をつっこみ、グルグルと回した。


 ※※※ダメージ判定:999ポイント※※※


「お茶、お茶、お茶、お茶でも…お茶、お茶、お茶でもどうかね…どうかね、お茶…。ギギギギギギギ」


「モブキャラのデザインを被ったテストなヤツ。お前、どうやったって”没モンスター”だろ」


 ※※※テスト4021をたおした※※※


 没モンスター撃破、っと。それにしてもどうせ没だからってモブ爺さんのキャラデザを被せるのはやめて欲しかったな…。俺の所業、見た目だけなら完全に老人虐待だぞ…。


「ちっ。没アイテムのドロップは無しか」


 つい、血まみれで死んでる爺さんの前でそう口に出してしまった。虐待した上に金目の物は~的な感じ…、本当にヤバ過ぎるくらいヤバいヤツじゃないか…。


 まだ、フルダイヴ型に馴染んでないな、俺。まあ、今レトロゲームなんて呼ばれる物が新作ゲームだった頃に遊んでいたゲーマー少年だったからだろう。


 今じゃ、おっさんゲーマー、フルダイヴで無理すると翌々日に関節痛の…。


 そんな俺が今プレイしているのは『ドラグーン・ファンタジア』という約30年前のレトロゲーム、通称ドラファンは伝説のRPGだ。


 それが30年経ったらフルダイヴ型でリメイクされた。仮想空間型アミューズメントパーク『アナザー・ダイヴ・リワールド』の中のアトラクションの一つとして。ここではゲーム史に名を残す名作レトロゲームが続々とフルダイヴ化されている。


 俺はドラファンを散々やり込み、レベルカンストはもちろ、全てのアイテムを手に入れモンスターを倒した。いわゆるコンプリートプレイ。俺に達成から得られる爽快感を教えてくれたものはゲームだった。


 しかし、30年経ってコンプリートでもなかった事が発覚…。自己満足の世界とか言われるかもしれないが、俺は真のコンプリートを達成する為にフルダイヴ型として現代に甦ったレトロゲームをプレイしている。


 狙いはただ一つ。当時はプレイする事が許されなかった没データ、その発掘だ!



 おっさんゲーマーの根深蔵人ねぶかくろうどが没データを発掘している『アナザー・ダイヴ・リワールド』について説明しておこう。


 20XX年。海外ゲームソフトメーカーの後塵を拝し続ける日本のゲームメーカーは総力を結集。かつての人気タイトルたちをフルダイヴVRMMOとして甦らせ、アトラクションとして体感出来る夢の複合施設を仮想空間上にオープンさせた。それが『アナザー・ダイヴ・リワールド』である。


 だが、運営サイドが制作コストを極限まで抑え込もうとした事でアクシデントが起きてしまった。レトロゲームの元データを土台にして、生成AIにフルダイヴ化処理をさせた事で、プログラムの奥底に眠らせていた没データまで忠実にリファイン。


 キャラやアイテムに魔法、クエストやシナリオ。ゲームバランスやら倫理観やら大人の事情といった様々な理由で封印されしものたちが甦ってしまったのである。


 しかし、制作コスト削減が至上命題である運営サイドは余計な金がかさむ修正を渋った。プレイヤー達に見つからない事に賭けてみよう、見つかったら見つかったでその時だ、と典型的な日本企業の姿勢で。そして早々に賭けに敗れてしまった…。


 そんなお宝をゲーマー達が見逃すはずもなく、探り当てるプレイスタイルが『発掘』と呼ばれ始めた。やがて、『アナザー・ダイヴ・リワールド』をその名のままに呼ぶユーザーは皆無となり『古代遺跡群』との呼び名が定着していたのである。



 さて、そんな『古代遺跡群アナザー・ダイヴ・リワールド』におっさんゲーマーの根深蔵人が初めて飛び込む辺りまで話を戻させてもらおう。今、彼は受付係のフェアリーと入場手続きのやり取りをしている。


「オクラ様、ようこそ『アナザー・ダイヴ・リワールド』へ。どちらのワールドへご入場なさいますか?」


「ドラグーン・ファンタジアを」


「初めて入場されるワールドですね? もし、オリジナル版をプレイされた事があれば続きから再開する事も出来ますがいかがしますか?」


「再開で」


「こちらは大変古いゲームとなっておりますのでお手数ですが52文字のパスワードを口頭でお願いします」


「りぐむんとせてんやなすがいろく~~さいぶむか」


「…………認証致しました。総プレイタイム893時間、コンプリート率99%」


「転生シークエンスはご利用になられますか?」


「はぁ? それはどういうもので?」


「オクラ様の中の人が何らかの事情でお亡くなりになり『ドラグーン・ファンタジア』の主人公である勇者に生まれ変わるまでのムービーシーンを生成致します。ご利用の場合、まずご希望の死に方を選択して頂く事になりますが」


「どう死にたいか? と……。あぁ、そのサービスは大丈夫かな……」


「プレイしてからの爽快感が増す、とユーザーの皆様に大変喜ばれておりますよ! アカウント情報からお客様が過去にどんなに不幸で悲惨な経験をしたか調べ上げて再現ムービーを生成します。例えば、オクラ様の場合」


「大丈夫~~~~! それ無しでいいから早くプレイ開始で」


「そうですか……。それではドラグーン・ファンタジアへ行ってらっしゃいませ!!」


 あのフェアリー。飛び切りの笑顔でサラっと恐ろしいアナウンスしたぞ…。このゲームワールド、本当に大丈夫かな?


 な~んて不安なスタートだったがすぐにそんな思いはどこかに吹っ飛んだ。おぉ、42歳の俺が13歳の頃まで一気に戻った様な!


 そうそうあの剣だった!最後の盾、意外と店売り品だったな~~。兜も鎧もアレアレ。見覚えのある装備品が次から次へと吸い付いてくる。この感じは戦隊ヒーローの変身シーンっぽい。


 ステータス確認っと。レベル99カンスト。所持アイテムは……さすがに数が多くていちいち覚えていないが多分そっくりそのまま復元なんだろう。


 問題はコンプリート率。当時はなかった表示だが最終的に攻略本と照らし合わせて取りこぼしがなかったので100%だったはず。それが99%に。


 1%分の没データがあるという事か。


 さて、じゃあ行ってみるかな。発掘プレイヤーの間で噂となっている地獄の138番地とやらに。

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