第24話—予期せぬ邂逅—

 迷宮を攻略してから次の日、レオ達はジュモー地方エクスクルド王国の城下町に買い物に来ていた。しかし—

「・・・トラストーン商会のほうが品揃えよかったなぁ・・・」

「文句言わないの、ギル。これでもエドガーさんのおかげで少し得させてもらっているんだから」

「そりゃそうなんだけどよ・・・ここの物流、あんまよくねぇからさー、シルヴィアも気が付いているだろ?より高濃縮された魔晶石は売っていないじゃん」

「それは・・・まぁそうだけど・・・」

「なんだよ、そんなにレオと周れなかったのが不服か?悪かったな思い人じゃなくて」

「そこまでは言ってないでしょ!というか思い人じゃなっ・・・」

「けっ・・・リア充爆発しろ!・・・」

 上記からわかる通り、シルヴィアとギルバートが買い物に来ているのだが、レオは諸事情あって別行動する羽目になり、たまたま買うお店が一緒だった彼女らがいっしょに行くことになったのだ。余談だが、ギルバートはそこまでカップルを憎んでいるわけではないが、ライバル視していたレオが最近両片思いでずっとうじうじしているのに腹を立て始めたのだ。

(そりゃ確かに俺は好きな人とかいねぇけどよ・・・人並みに嫉妬くらいするぞ。まったく・・・)

 とはいっても俺の春もきてほしいとも思ってしまうギルバートなのであった。

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「はぁ・・・・・・・・・帰りたい・・・」

「それは私も一緒です。というより、あなたに巻き込まれたというほうが正しいです。なので文句は私が言いたいです・・・ってきいてませんね?あなた・・・」

 先ほどまで話題に上がっていたレオは今“軍”に先日の迷宮攻略の事情聴取に巻き込まれていた。

「悪いね。早く帰りたいのならば、見た情報をすべて教えてほしい」

 中年ほどの人間の男性—ハーマンーが、苦笑交じりにいった。脇には副官らしき男が記録用紙を片手に持って立っていた。

「では始めさせてもらおう。レオ ラザフォード君、君はさきの迷宮攻略で魔剣“東雲”を手に入れたそうだが・・・それに間違いないかね?」

「えぇ。今俺が腰に吊っている剣がそうです。先に言っておきますが、渡すつもりはありませんよ?いくら“軍”とはいえど、冒険者のルールには従う掟のはずです」

 レオはきつい目線でハーマンを見た。ハーマンは苦笑しながらそんなつもりはないとでもいうように首を振った。

「もちろん横暴に持っていくようなことはしないよ。もっとも売ってくれるのなら話は別なのだがね。どうだろう?46000Gで渡してくれないだろうか?」

 破格の値段にロークは驚いた。いくら魔法の品だといえども、それでも高すぎるからだ。いったいどれだけ遊んで暮らせるのやら・・・

「申し訳ありませんが、“東雲”を売るつもりはありません。これは自分で使わせていただきます」

 それを聞くとハーマンはかなり残念そうな顔をしたが、納得してくれたようでそれ以上は何も言ってこなかった。その後しばらくの間質問攻めを食らったが、どうにか解放されることになったレオなのであった。

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「やっと解放された・・・・・・・・・!」

 1時間後、レオとロークはようやく事情聴取が終わっていた。

「まったくです。ひとまず私は弾買いに行くので先に戻っていてください」

「わかった。また宿で・・・」

 そういって一度ロークと別れた。さて自分はどこに寄り道しようか考えていると、一人のフードを被った男が近づいてきた。

「はじめまして、“蒼瞳の獅子”レオ ラザフォードさん。ようやく一人になってくれましたね」

 一目見てレオは悟った。戦ってはいけない相手だと—

「そんなに身構えなくて結構ですよ。ただ私はあなたを勧誘しに来たので・・・ってそれも怪しいですね~」

「・・・ロークが言っていた“紅鴉”に入らないかという話ですか?」

 レオは恐怖に負けず、まっすぐとフードの男の顔(見えていないが)を見た。

「おぉ!ロークさんはちゃんと伝えてくれていたのですね!それならば話ははやい。どうです?我々とともに、新しい時代を作っていきませんか?あなたはその資格がある」

「お断りします。これ以上、仲間を裏切るようなことはできません」

 レオはきっぱりと言い放った。その目は覚悟を決まった目だった。前のパーティの時の後悔を二度としないためにも、今を大切にしたい。それが彼の思いだった。

「それは残念。しかしいつでもあなたのことを待っていますよ。気が変わったらぜひ我々とともに」

 男はあっさり引き下がると、レオに背を向けた。二、三歩歩いたが不意に振り返ってこういった。

「申し遅れましたが、私はファルシュといいます。以後お見知りおきを。・・・では」

 ファルシュが見えなくなったのを確認し、レオは大きく息を吐いた。思いもしない邂逅により、精神が持たなかったのだ。

(なんか、甘いもの食べたいな・・・ロークにだけは相談しておこう・・・)

 レオは立ち上がると、どこか喫茶店を探しに町を歩くのであった。



 レオがいなくなると、二人の少年少女が物陰から顔を出した。ギルバートとシルヴィアだった。二人はただ心配そうにレオの後ろ姿を見るのであった・・・

第24話—予期せぬ邂逅—完

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