第11話—真夜中の襲撃者—後編
「何あれ?」
魔物に関する知識のないギルバートは相手が強くなったとしか認識できていなかった。カレンも同様で何か危険が迫っているとしかわかっていなかった。
「人間風情ガ!石ニナッテイロ!」
次の瞬間、ギルバートの腕が石化し始めた。完全とまでは言っていないようだが、明らかに動かしにくそうだ。
「ガルルル(どうにかしてじっちゃんがくるまで持ちこたえないと・・・)」
カレンはそう言うと、トカゲのような魔物に3連撃を食らわした。それなりの打撃を与えたが、決定的な一撃にはならなかった。焦りを覚え始めたカレンの攻撃はどんどん単調になっていった。時間が経つにつれ、技の精度は落ちていく。いつも一人で戦っているため、疲弊でやられるのを恐れ、短期戦に持ち込むのがいつもの彼女の戦闘スタイルなのだが、今はトカゲの魔物の攻撃が強く、初めて死を覚悟した。しかし彼女の目は好奇心で染まっていた。
(外の世界にはこんな強いやつらがいるんだ!・・・もっと戦いたい!もっといろいろな人と出会いたい!・・・だからこんなところで・・・死ぬわけにはいかない!)
そう自分に鼓舞すると、勢いよく跳躍し、渾身の一撃を放った。とかげの魔物は、直撃し2、3歩よろけると、鬼の形相でカレンを睨んだ。
「小娘ゴトキガ調子ニ乗ルナ!ヴェス、フォルス・ル・バン。シャイア・エルタリア―」
「【アストラルバーン】!」
トカゲの魔物が魔法を放とうとした途端、横から第三者の禍々しいマナの塊が飛んできた。驚いて振り返ると、そこには傷だらけのレオとシルヴィアがいた。
「カレンのおじいさんからきいて駆けつけたよ!ひとまず回復させるね!」
レオが回復魔法を唱えている横で、シルヴィアはしばらくトカゲの魔物をみていたが、やがてため息をついた。
「バジリスクじゃん・・・どうりでギルが石化しかけているわけだよ・・・よく完全に石にならなかったね」
目線のさきのギルバートは不機嫌そうな顔をしながらトカゲの魔物—バジリスクを睨んでいた。
「わかりやすく殴り合いと攻撃系の魔法だけにしてくれ。」
「いや無理でしょ。」
レオにばっさりと言い捨てられ、ちょっと傷ついた顔になったギルバートだったが、すぐさまクーゼを一振りした。ようやく終わりが見えてきた。バジリスクはもう一度石化の視線を向けたが、今度は誰も石になることはなかった。
次の瞬間、バジリスクの頭は胴体と離れていた。
「・・・最後、持っていかれちまったな。」
ギルバートが誰となく呟いた。最後はレオが一振りで倒した。最後の一撃を与えたかったギルバートはどこか不服そうだ。
「もうマナぜんぜん残っていないよ~」
シルヴィアは急いであたりを確認し、他に敵がいないか見回した。幸いにも、もう敵は撤退を始めているようで、戦闘はもうないだろう。
「・・・お願いします!村のゴタゴタが落ち着いたら、パーティに入れてください!」
そういって、くもりなき眼差しでシルヴィアを見つめた。彼女はにっこり笑うと、カレンの頭を撫でた。正確に言うと耳もだが。
「ちゃんと両親には話付けてきてよ。」
「いつでも待ってるよ。」
「後悔するんじゃねぇぞ」
レオとギルバートも口々に言い、歓迎の意を示した。朝日は昇り始め、村の復興が始まった。
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レオ達とバジリスクの決着がつく数分前、ロークはアルボルとの戦闘をすでに終えていた。周囲の他の蛮族もあらかた倒し、いざレオ達の援護に向かおうとしていた。
(思ったよりも時間がかかってしまいましたね・・・被害は大きいですが、さすがは戦士の集落。みたところ、死者はいないみたいですね。)
そんなことを考えていると、走っていたロークの足が止まった。目線の先には、黒いフードを被った男が立っていた。
(明らかに村の者ではありませんね・・・一応聞いてみますか・・・)
そんなことを考えていると、向こう側が振り向いてきた。武器は何も持っておらず、どうやら戦士ではないようだ。
「おや?レオという少年をご存じないですか?少々縁がございまして・・・」
声からして男性とみて間違えないだろう。しかし顔は見えていないので断言することはできない。この世界には、声をかえる道具があるからだ。それと同時に、姿を偽る道具や魔法もある。したがって、この者がその手の道具や魔法をかけているかはわからないのだ。
「知っていてもあなたには話しませんよ。まずは素性を明かしてください。まずはそのフードから。」
ロークはきつい口調でそういうと片手をホルスターに近づけた。
「仕方がありませんねぇ。では伝言をお願いします。“紅鴉にこないか?”と」
気が付けばロークの後ろにおり、ホルスターにかけていた手を掴まれていた。その瞬間、ロークは感じた。この男には勝てないと。
「それでは伝言、お願いしますね?実験用ルーンフォーク〈ディスティニー03〉さん」
なぜそのことを?—そう思ったが、次の瞬間には、黒フードの男はおらず、朝日が昇り始めているのであった。
第11話—真夜中の襲撃者—後編 完
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