第6話—休暇1—

「うん!よく似合ってる!」

 —どうしてこうなった—シルヴィアはそんなことを考えていた。彼女は今、薄い紫色のワンピースを着せられていた。本人は気恥ずかしそうにしているが、誰がどう見ても似合っている。向かい側のテーブルにはロークとギルがニヤニヤしながら見ていた。彼女はもう羞恥心で固まってしまっている。ことの発端は1時間前に遡る。

~1時間前~

「あれ?レオじゃん。何してるの?」

振り返ってみると、少し大きな荷物を持ったレオがいた。

「ちょっとした護衛任務が終わったところかな?シルヴィアは?」

「役所でずっと事務作業。おかげで腰が痛いよ。それはそうとその荷物は何?」

「ん?これは—」

 そう言いかけた途端、今まで見たことのないほどの満面の笑みでこちらを見つめてきた。

「あの、レオさん?」

「シルヴィ、ちょっと付き合ってもらえないかな?」

「何に?!」

 レオは有無を言わさず、彼らが所属するギルド“蒼の陽炎”まで引っ張っていった。中にはいつもの飲んだくれどもが騒いでおり、その中には、ギルバートの姿もあった。

「またお酒飲んでるの?ほどほどにしときなよ。」

「わかってるよ!ていうか今日これ1杯目だぞ。」

そう言いながらちびちび飲み始めた。

「さてと・・・この服着てもらえないかな。」

 そういって、薄い紫色をしたワンピースを取り出した。よく見ると、刺繡なども細かくされており、かなり高品質な品物だ。私なんかには勿体ない。シルヴィアはそう思ってしまった。

「・・・よくできているけどこれどこで買ったの?」

「いや俺が作った。」

そうあっさりと言われ、思わず目を見開いて固まってしまった。

「なにその目?信じてないでしょ?」

「いや信じていないわけじゃないけど・・・」

 そういって目線を下にそらした。そしてあらためてワンピースに目を向けた。よくできているし、恥ずかしいけど私の趣味にも合う。そんなことをシルヴィアは冷静に分析し始めた。しばらく悩んでいると、

「夕飯おごるでどうだ?」

といって奥の部屋からクライドが出てきた。どうやら仕事終わりらしく、武器を持ってきていた。

「・・・そこまで言うのなら・・・」

・・・そして今にいたる。

 最初はノリノリで着ていたシルヴィアだったが、いざ着てみると恥ずかしさが込みあがってきた。なにしろ鏡を見ると本当に自分だとは思えないからだ。いつからいたのか、ロークがずっとニヤニヤしてみているのが腹が立った。

「馬子にも衣装って感じですねー」

「脱ぐ。」

そういって奥の部屋にいこうとした。

「あ、その服はよかったらもらってよ!俺としては誰かに着てもらえるほうがうれしいな。」

—本当に醜いものだな!—

 彼女は数年前の出来事を思い出していた。あんなことを言われていた私が、こんな贅沢をしてよいのか、私だけがこんな良い思いをしていいのか。

「・・・私なんかの偽善者にはもったいないよ・・・贅沢すぎる・・・」

 そういって自嘲気味に笑った。その様子を見てレオはシルヴィアに近づき、まっすぐな目でこういった。

「あんまり上手つたえられるほうじゃないんだけどさ・・・シルヴィアはもっと自分の幸せを見つけていいと思う。俺にとってシルヴィアは大切な人だから!」

そういわれ、シルヴィアは何か憑き物が落ちたような顔をした。

「そうだね、ありがとう。」

そういうとにっこり笑った。顔はほんのりと赤くなっており、

「お話の腰をおりますが、このあと消耗品の補充に向かうのですが、みなさんもどうでしょう?」

 そうロークが持ち掛けてきた。たしかにこの前ラグナカング戦でまとまったお金が出来た。

「そうだね。じゃあせっかくだし。」

他の面々もどうやら賛成らしい。ギルバートはエールを片付け始めた。

「それでは今から30分後にまたここに集合しましょう!」

「りょーかい!それじゃちょっと着替えてくるね!動きやすい格好に。」

 そういって、一度自室へ戻っていった。取り残された男性陣はそれを見届けたのち、レオのほうに顔を向けた。

「よかったなー、ちゃんと渡せて。」

「二週間ぐらい前から作っているものですしね~」

 そういいながらギルバートとロークにニヤニヤした顔をされたので一発かましてやろうかとレオは思ってしまった。

「っうるさい!」

口ではこんなことをいっているが、彼の顔は安堵と喜びの顔で溢れていた。

「で?いつからだ?惚れてたの。」

「はっきりとは覚えてないけど・・・初めて一緒に依頼を受けたときかな。何か大きな出来事でというよりは、気が付いたら好きになっていたし・・・」

「いっそもう告白してみるのはどうでしょう?」

「————?!~~——————————————」

 思いもよらなかった爆弾発言にレオは固まってしまった。確かにシルヴィアのことは好きだ。ただそれは自分の思いなだけであって、彼女の気持ちは考えたいから・・・そんなことをぐだぐだ考え始めてしまった。

「なんだ怖いのか?」

「ちっ違う!自分勝手に感情を押し付けるはよくないと思うから様子見るだけだよ!」

 そう言い残すと、自分の部屋に戻って行ってしまった。取り残されたギルバートたちも一度準備のため解散した。一人最後まで残っていたロークは誰に言うわけでもなく呟いた。

「まぁ、自分勝手ではないんですがね。」

**************************************

「・・・・・・・・」

 部屋に戻ったシルヴィアはもらったワンピースに皺が付かないよう一度脱ぎ、ベッドにダイブし、そのまましばらく枕に顔をうずめていた。顔はリンゴのように真っ赤に染まっており、いかにも恋の病にかかっているようだ。

(まさか服とか作れるとは思わなかったな・・・やっぱりさっきもらった服着ていこうかな~せっかくだし。)

 そんなことをずっと考えていた。彼女がレオに惚れたのはつい先ほどの言葉だ。そのせいでどんな格好をしていけばいいのかわからなくなってしまっている。しかし—

「あ、ギル達もいるんだっけ?じゃあいつもの格好でいいや。」

第6話—休暇1—完



次回予告

シルヴィ「ようやく恋愛要素がでてきたところで切り上げかぁ~」

ギル「メタいからもう終わろう。ローク、頼む」

ローク「次回第7話—休暇2—お楽しみに」

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