第25話 ミレーナとの行動

 翌朝、滞在中の宿を出て洋館に向かった。

 冒険者であればギルドに通うのかもしれないが、旅団の一員である自分は洋館が拠点になっている。


 いつもの部屋に行くと、ウィニーとミレーナがいた。

 二人は何か話していたが、こちらの存在に気づいて振り向いた。


「おう、カイト」


「おはよう」


「新しい依頼があってな。ミレーナと行ってくれるか?」


「それはいいけど、ジンタは?」


「今日もルチアと一緒だ。ちなみにサリオンは別の依頼で出払ってる」


 ウィニーに手招きされて、会話の輪に加わる。

 窓際に目をやるとエリーの姿はなく、彼女も不在のようだ。


「今度はどんな依頼? 古城は埃っぽくて大変だったよ」


「ははっ、少しは慣れてきたか。今回はミレーナ一人で十分なんだが、カイトの実力を測る意味もある」


「悪いけど、最初からそこまでの実力はないから――」


 途中まで言いかけたところで、ウィニーがまあ待てと手で制した。

 何か言いたそうなので、彼に会話のバトンを託す。


「ずっと下っ端はイヤだろ? 今後は可能性が見こめる分野を見極めて、それを育てたらいいと思うんだ。そうするには色んなことを経験した方がいい」


 ウィニーの言葉はもっともだった。

 ずっと下働きを続けるようでは役に立っているとは言いがたい。

 何か希望が持てるのなら、それに越したことはないだろう。


「納得できたよ。ちなみに仁太はルチアに付きっきりなのは何か理由が?」


「ああ、そのことか。あいつの仲間であるお前に言うのは微妙な気もするが、ジンタは運動神経がいまいちなのに加えて素直じゃない。ルチアの指示に従わないこともある」


「えっ、そうなの?」


 少し頑固なところがあるのは知っていたが、それは内川が好きな分野へのこだわりを見せる時だけだと思っていた。

 異世界に召喚されて環境が大きく変わり、性格や考え方にも影響が出たのかもしれない。


「こう言っちゃなんだが、お前の方が伸びしろを感じる。できる範囲で依頼を経験させて、成長させたいっていうのが本心だ」


「そうなんだ。ありがとう」


 きっかけはウィニーがイチハ族と勘違いしてスカウトしてきたことだったが、自分のことを考えてくれるのはうれしいことだ。


「ミレーナは口数は少なくても頼りになる魔法使いだから、仲良くやれよ」


「今日はよろしく」


「うん」


 ミレーナは薄い反応でテーブルの上に置かれた紙を眺めている。

 明らかに日本語ではないものの、何らかの力がの効力で内容は理解できた。


「これが今回の依頼書だね」


「ああ、そうだ。ミルランの村で村人が行方不明らしい。村の人間が周辺を探したところ、村外れの森で消息を絶ったことが分かった」


 ウィニーが依頼書に目を向けながら言った。

 そこに書かれている内容はほとんど一致している。


「そんじゃあ、この件は任せた」


 我らが団長は手短に言って、部屋を立ち去った。

 あまり話さないミレーナと二人きりになり、何だか緊張してしまう。

 彼女の様子を窺っていると依頼書を荷物に入れて、立てかけてある杖を手に取った。


「今から出発する」 


 ミレーナが部屋を後にしたので、自分の荷物を抱えて彼女に続いた。

 

「馬は乗れる?」


 二人で洋館を出たところで、ミレーナが口を話しかけてきた。

 彼女はどこかへ向かおうと歩いている。


「いや、乗ったことないかな」


「そう」


 ……いまいち会話が弾まない。

 これから馬に乘る流れなのは察したが、サリオンと比べるとやりづらい感じがする。

 行き先がミルランの村ということは分かるのだが、詳しいルートは聞いていない。

 

 ミレーナがどうするつもりかは想像できるものの、及び腰になっている自分に気づく。

 水色の髪をしたクールビューティーであるミレーナは高嶺の花のような存在なのだ。

 彼女が腕のいい魔法使いということも謙遜してしまう理由になっている。


「ちなみに村にはどうやって?」


 ぐるぐると考えた末、遠慮がちにたずねた。

 ミレーナはこれまでと同じ態度で口を開く。


「馬に乘って街道を移動する」


「うん、そうだよね」


 彼女の返答に分かりきったことを聞いてしまったという自責の念が生じた。

 こちらをバカにする様子は見られないのがせめてもの救いだった。


 洋館から王都の路地を歩いた先に馬小屋みたいなものが見えてきた。

 考えるまでもなく、ここで馬を借りるだろうというのは予想がつく。

 

「ここで待っていて」


 ミレーナに指示されて待機する。

 それから少しして、彼女が馬を引いて戻ってきた。


「すごい。立派な馬だね」


 黒茶色の毛並みに黒いたてがみ。

 力強さを感じさせる一頭だ。


「この馬は普通料金。同じような馬は他にもいる」


「へえ、これで普通なんだ」


 異世界だと発育がいいのだろうか。

 日本の競馬に出てきそうな体格なのに普通とは。


 そこからミレーナが馬を引くかたちで街中を少し歩いた。

 やがて城壁が見えてきて、彼女もサリオンと同じようにすんなり通過した。

 門番の兵士はお伴の俺にも優しい対応だった。


 街道に出たところで、ミレーナは軽い身のこなしで馬に乘った。

 物静かでインドア派な印象だったが、運動神経はいいようだ。


「私が手綱を握る。カイトは後ろに」


 ミレーナは鞍の後方をポンポンと叩いている。

 彼女のように飛び乗れないので、装具に足をかけてゆっくり上がる。

 どうにか鞍に腰を下ろしたところで、一つの疑問が浮かんだ。


 ――どうしよう、目の前の背中を掴む以外に手の置き場がない。

 

「離れてると危ない」

  

 ミレーナは振り向いてこちらの手を引き、腰の辺りに手を回させた。

 彼女の髪からはいい香りがして、自分の鼓動が速くなっているのを感じる。


「移動中は揺れるから、しっかり持っていて」


「うぃっす、了解です」


 気が動転して、変な返事になっていた。

 前途多難ではあるが、ミルランの町に向けて出発した。



 あとがき

 ウィニーがミレーナについて紹介する場面がありましたがここでもう一度。

 ミレーナは魔法学院で優秀な成績を収めていたものの、魔法の威力が強すぎて設備や備品を何度か破壊してしまいました。

 その結果、才能がありすぎて退学する羽目になりました。


 お読み頂き、ありがとうございます。

 本日18時頃にもう一話更新予定です!

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