◆喧嘩した姉弟

「クク……」


 キキのすぐ目の前には、ククがいた。


「だから言ったのに! あの時変に出しゃばるから、こんなことになったのよ!」


 ククはものすごく怒っていた。キキは心配をかけてしまったと、申し訳ない気持ちになった。


「あなた一人のせいで、みんなに迷惑がかかったのよ! 魔法が使えないあなたは、みんなの邪魔よ!」


 邪魔だ。この言葉に、キキは歯止めが効かなくなった。


「違う、あれはわざとじゃない! ぼくはぼくなりに、みんなのためになることをしたつもりだ!」

「みんなのためにっていうけど、結局みんなに迷惑かけてるのよ! もうあなたは戦わなくていい!」


 二人は喧嘩をしたっきり、気まずくなった。

 日が沈んだ後、キキは外へ出て、一人物思いにふけていた。


「どうした? 元気がないぞ」


 声をかけてくれたのは、心優しいドワーフのおじさんだった。

 彼は普段、武器職人として、より強い武器を作れないか研究している。


「実は、色々あって」


 キキはドワーフに、事情を話した。


「魔法が使えない? 魔法がないなら殴ればいい! 枝がなくても、俺の作った斧がある! これを使え!」


 事情を聞いたドワーフは、お手製の斧をキキに渡した。

 ドワーフがいなくなり、キキは、かっとなって言ってしまったことを後悔した。


「枝で接近攻撃ができても、素手で魔法が使えなきゃどうせダメなんだ。魔法が使えるように、もっと頑張らなきゃ……」


 キキはドワーフがくれた斧を置いて、地面に落ちていた別の枝を拾った。

 今度は接近攻撃ではなく、魔法の特訓に取り組むが、当然魔法が使えるようにならなかった。それでも諦めずに一人特訓を続けるキキを見て、ククは苛立って言った。


「キキは戦わなくていいって!」



 夜になっても、キキは特訓を続けた。

 同じ頃、ククは数少ない同性で仲の良いココから話を振られた。


「人は恋をするとね、神様のいうことを聞くのが面倒くさくなるの」

「それって、どういうことよ?」

「今から話すことは、誰にも言わないで」


 そう前置きをして、ココは話をはじめた。


「私には、片想いしている男性がいる。ここからは、恋人とするわね。彼は争いや殺人を好まない人だった。私は、そんな彼の優しいところに惹かれたの。

でもある時、彼は無理矢理、戦争に行かされた。そして私の両親は、恋人と愛し合うことを認めず、別の男性との結婚を強制した。というのも、私の一族と恋人の一族はお互いに仲が良くなかった。それなのに、敵同士で結婚なんてしたら、神の決めたルールを破ることになるからね」


 ココは苦笑いしていたが、その目は悲しげだった。


「あなたにも、いつか恋をする時が来る。相手はもしかしたら、信じられないような人かも知れないけれど」


 話を終えると、ココは自分の寝床へ戻っていった。


「敵同士で結婚? ありえない!」


 話を信じられないククは聞こえないように小声で、馬鹿にして罵った。



 みなが寝静まった後も、キキは徹夜でただ一人、魔法の特訓を続けていた。


「魔法が使えなきゃ、ダメなんだ」

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