エピソード0×7 岐部漢太と七人の嫁

 式場の扉がにぎにぎしく開かれると、フランス革命前の貴族のごとき服に身を包んだシャモが神妙そうな顔で花道はなみちを歩き始める。

 その隣には、ロココ調のドレスに身を包むプラチナブロンドの長身美女。


〔青〕「皆様、新郎・岐部漢太きべかんたさんと第七夫人・シホリンヌさんにどうぞ盛大な拍手を」

(仏)(第七夫人って何だよおおお。いつから日本は重婚じゅうこん可能になったんだ。つうかシャモどんだけえええ)


〔青〕「新婦・シホリンヌさんに続いて入場するのは五人の岐部きべ夫人たちです」

 青柳のアナウンスにたがわず、色違いのドレスに身を包んだ五人の女達が後ろに続く。


〔青〕「そして誓いの首輪を捧げ持つのは第一夫人のしほりさん。竜田川千早たつたがわちはやとしてご活躍中の演芸界の大看板です」


(仏)(あれ全部シャモの嫁?! えっ、誓いの首輪って何だ。竜田川千早たつたがわちはやってあの死にかけ牛筋バアサンだよな。何あれ転生したの。美容整形でもああは若返らないぞ)


 身動きの取れない仏像が目だけをせわしなく動かしていると、両手指に七本の指輪をめたシャモが中央ステージに案内される。



〔青〕「それではこれより、誓いの首輪のり行います。皆様、カメラの準備はよろしいでしょうか」

 騎士のようにひざまづいたシャモに、スマホのカメラが向けられる。


 いやに儀式めいた手つきで第七夫人のシホリンヌがシャモのスカーフをほどくと――。


(仏)(首長族かよ?! 何で誰も疑問に思わねえんだ)


 シャモの首には六本の首輪。

 真鍮しんちゅう製らしきそれには、それぞれ六色の宝石がはめ込まれていた。


〔青〕「第七夫人となるシホリンヌさんに、誓いの首輪が渡されます」

 第一夫人のしほり(竜田川千早)が捧げ持った首輪を受け取った第七夫人。

 彼女は六本の首輪の上部のすき間にねじ込むように、オパールのはめ込まれた首輪をめる。



〔仏〕(痛い痛いっ、首しまるうううう)

 見ているだけの仏像がうめいていると、目の前の第七夫人が頭頂部からオパールのあしらわれた首輪の鍵を取り出した。


〔青〕「さあ、誓いの首輪に鍵がしっかりと掛けられました」

〔女A〕「マジエモくない?」


(仏)(エモくない! 虐待ぎゃくたいダメ絶対。重婚ダメ絶対。これは夢だやっぱり夢だ早く覚めろって。うわ何すんだ寒いっ)


 仏像が悪夢から一刻も早く覚めようとしていると、望みをかなえるように仏像の布団がめくりあげられる。


〔うい〕「れんちゃーん。これおいしそうら」

(仏)(やめろ、見るな。俺はTシャツパンイチなんだよ恥ずかしいっ)

 フレンチトーストの布団をはぎ取られた仏像は、Tシャツパンイチ姿で丸まりながらガタガタと震えた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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