16 新王子✑爆誕

【ロトエイト(麺棒眼鏡めんぼうめがね/二年) ペン回し】


〔客A〕「この曲を使うとなれば、構成は日本選手権の時と同じか」 

〔客B〕「ロトさんのパフォーマンスがこんなに間近で見られるなんて。マジ鳥肌」

 エレクトロニカサウンドに包まれた会場で、つてを頼って入場券を手に入れたペン回しマニア達が小声でささやき合う。



〔下〕「何あのしゅっとした王子様。あれ、マジで麺棒めんぼうさん?!」

 暗転幕あんてんまくが上がりきると同時にスポットライトを二方向から浴びたロトエイトこと麺棒眼鏡めんぼうめがね


 ベネチアンマスクに黒いマオカラースーツ姿で赤と黒のペンを天井に向けて高く投げ上げるさまを、下野しもつけは口を半開きにして見つめる。



〔あ〕「リアル黒服仮面じゃん」

〔シ〕「塩顔イケメン王子爆誕」

 曲がビックビートを刻むのに合わせてペン回しを始めたロトエイトは、いつもの麺棒眼鏡めんぼうめがねとはまるで別人のような王子様オーラを放っている。




〔客A〕「おおっとここで【ロトエイト夢幻むげんターン】と【走馬灯そうまとう】のコンボ」

 大写しにされた手元にどよめきを上げるペン回しマニアたち。


 余りの高速回転にペンが見えなくなったかと思うと、逆にペンが静止しているかのようなギリギリの低速回転でペンをたくみに操る。


〔客B〕「そこからの【黒鳥こくちょう】と【プリンシパル】のコンボ。決まった!」


 右足をつま先立ちにして左足裏を右膝につけたままペンを三十二回転させる【黒鳥】》。

 まるでバレエダンサーのごとく優雅に右手を宙に放ってペンを投げつつ飛び上がり、その長い指に投げたペンが吸い付くように収まる【プリンシパル】。


〔客B〕「まさかここで【パ・ド・トゥ】だと?! 嘘だ」

〔客A〕「【黒鳥】【プリンシパル】【パ・ド・トゥ】の三連コンボを決めれば世界初!」

 両手で赤と黒のペンを二本同時に交差させながら回す最高難易度の【パ・ド・トゥ】を決めるロトエイトこと麺棒眼鏡めんぼうめがね


〔客A/B〕「三連コンボ決まった! これでワールドカップ制覇せいはも見えてきたっ」

 締めに新体操のこん棒よろしく赤と黒のペンを空中高く放り上げてクロスキャッチを決めると、会場は万雷の拍手である。




〔シ〕「マジでペン回しで飯が食えるレベルだ。たまげたわあ」

〔あ〕「めちゃ王子様キャラじゃん絶対人気出るって」

 下野しもつけ達の後ろで舞台を見ていたシャモとあさぎちゃんは、立ち上がってロトエイトを見送る。


〔下〕「俺もこれぐらいすごい特技があったなら、女の子にモテるんかな」

 元サッカーU15日本代表候補にして横浜マーリンズジュニアユース三連覇メンバーの下野しもつけは、自分の経歴をすっかり棚に上げてエアペン回しを始めた。




 元落研のモブキャラだったはずの現放送部員・麺棒眼鏡めんぼうめがね(本名)。

 助っ人として落研に出戻った彼が全てをかっさらった後に大トリを飾るのは、新・顔役総務(部長格)の餌(伴太郎はんたろう)である。


 単衣ひとえにパンダのシールワッペンを紋代わりにあしらった餌は、軽快な足取りで高座(舞台)に向かった。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。作中のペン回しシーンの技やレギュレーション等についても筆者の創作であり、実際のペン回し大会等に則ったものではありません。


※エレクトロニカサウンドはUnderworldの『Born slippy Nuxx』をイメージしています。



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