第3話 魔力測定って、意外とチョロイね

 さて、ここで僕の生まれについて整理しておこうと思う。


 僕の生まれはここ、シグルス王国辺境に位置する田舎貴族ヨワイネ男爵領の一人息子である。


 そして、僕の名前はネオ・ヨワイネというらしい。何だか凄く弱そうでダサいけれど、生まれや育ちを決められないのだから仕方がない。


 父であるマスタード・ヨワイネと、母であるネイチャート・ヨワイネの間に生まれた。何か弱いを極めた父親と、どっかの科学雑誌が雑魚みたいに言ってる母親みたいで申し訳ないけれど、別にふざけているわけじゃない。


 むしろ、父と結婚して旧姓を取られた母を憐れむべきだろう。因みに、母の旧姓はサイエンスらしいから驚きである。


 辺境を領地として与えられるだけあって、うちの地位はあまり高くない。領民がそんなにいるわけでもなく、経済力が富んでいるわけでもなく、かと言って素晴らしいコネや人脈があるというわけでもない。


 一般家庭と比べて少しはお金があるけど貧乏なのに変わりはなく、領地経営を含めて生活はカツカツだ。にも関わらず、僕に続いて二歳離れた妹を出産するというお盛んさである。


 因みに、妹はユイナ・ヨワイネ。こっちは苗字を除けば普通の名前で良かった。


 メッチャ・ヨワイネみたいな名前だったら呼びにくいし、我が妹ながら不名誉すぎて可哀想だからね。一緒に暮らす良き隣人として、できれば良好な関係性を築いておきたい。


 さて、時が過ぎるのは早いもので三歳になってしまった。生まれてから毎日、泣くか、食べるか、クソするか、もしくは寝るくらいしかできる事がなかったので安心して魔力を鍛える事ができた。


 歩いたり、ある程度は外出できるようになってからは鍛錬もさらに捗り、隠れて筋トレやストレッチ、走り込みをしながら魔力を更に練り続けた。


 そして迎えた魔力測定の儀式。儀式と言っても教会に赴いて聖女さんや神父さんに囲まれながら仰々しくやるわけではない。


 本来なら、そうするべきなんだろう。祝詞を捧げて、祝福を受けながら神とやらに請い願いながら測定器を使って……みたいなことを両親は話していた。


 でも、何度も言うように家にはお金がない。だから、教会に頼んで正式な儀式を行うなんてできるはずもなく、雰囲気だけシスターのコスプレをした母が測定器となる水晶玉を僕の目の前に置いてやることになった。


「大丈夫、ネオ。あなたは魔王なんかじゃないわ」


「そうだ、だから安心して手を置くといい。儀式の後は少し疲れるかもしれないけれど、私たちがついてる」


 事前に聞いた話によると、水晶玉の色彩変調によって魔力の保有量が分かるらしい。保有量はゼロだと透明のままで、そこから赤、青、緑、黄、紫、黒と変化していくようだ。


 さて、この水晶玉の仕組みをざっと魔力の流れから調べてみよう。


 ……どうやら、水晶玉に触れた人間の魔力を吸い上げて色が変化していくみたい。魔力の自然回復には本来時間がかかるから、このシステムが有効なのだろうけれど。


 僕みたいに無くなった側から大気中の魔力を補充していたら永遠に吸い続けることになる。そうなれば、黒どころでは済まないだろうけれど、例え供給を一時的に絶ったとしても黒に変化させる……いや、水晶の耐久限界を超えて割ってしまう自信がある。


 今や、僕の魔力量はそれくらい膨大なのだ。もしもこのまま何もせずに手を置いてしまったら、その時点で人生終了のお知らせとなる。


「どうしたんだ、ネオ。早く、手を置きなさい」


「できないなら、私がやります。ほら、いくわよ」


「あ、ちょっと……」


 僕が止める間もなく、母が右手を強引に掴んで水晶へと引き寄せる。僕の掌は冷たくツルツルな感触に触れ、やがて水晶の色が……。


「変化しない、だと?」


「どういうこと? 測定器が壊れてるのかしら?」


 しかし、いくら待てど暮らせど反応はなかった。すると、両親の顔に呆れというか、哀れみのような感情が浮き彫りになってきた。


「……これが、結果なんだな」


「そうね。貴族の生まれなら、平均して青。平民でも最低限の赤くらいの魔力は持ってるはずだけど……。この子は、水晶玉ですら感じ取れないくらい魔力が少ないか、もしくはないのよ」


「……いや、だが魔力は成長と共に増えると言われている。まだ望みはあるぞ」


「そうね。この子がちゃんと才能を開花できるように、愛情を込めて育てましょう」


 僕は二人に撫でられ、抱きしめられ、とにかくその日は優しくしてもらった。晩御飯には大好物のクリームシチューが出たし、何だかんだで得した一日になった。


 自室に戻り、ベッドに身を投げ天井を見上げながら魔力測定の時のことを思い出す。


「いや〜、本当に危なかった。あのままだったら首チョンパ確定だったよ。咄嗟に思いついた方法だったけれど、上手く行ったお陰で首の皮一枚繋がったって感じか〜」


 やっと本音を話す事ができて、肩の荷が降りたみたいに全身が軽くなった。やっぱり、嘘を吐くっていうのはスリルがあって面白いけれどやり過ぎには注意しないとね。


「魔力測定に使われる水晶玉は、本人の魔力を吸い上げる事で保有量を測る。だから、急激に魔力がなくなると魔力枯渇を起こして疲労感に襲われる。本来なら、だけど」


 僕は水晶玉に魔力を吸い取られないように、綱引きの要領で抵抗したのだ。思っていたよりも引っ張られる力が強かったので全力で対抗するしか方法がなかったから調整をミスった辺り、まだまだ修行が足りていないと反省する。


 お陰で魔力が殆どない一般人以下の存在に認定されてしまったけれど、魔力は成長と共に増加すると言っていたから徐々に力をつけていった風に演出すれば問題ないはずだ。水晶玉の管理場所も把握しているし、こっそり使えば魔力の加減も分かってくるだろう。


「魔力測定、意外とチョロくて良かった。今夜は枕を高くして寝れるぞ〜」


 大きく背伸びをして、自分の腕を枕代わりに目を閉じる。腕に感じる痺れるような感覚も、何だか生きてるって感じがして心地良い。


 無事に魔力測定を乗り切った僕は、その後、安らかな眠りのひと時を堪能したのだった。

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