評論:「葬送のフリーレン」の魔法使いたちはイノベーションの夢を見るか?

絵茄 敬造

1.一般攻撃魔法「ゾルトラーク」におけるイノベーション

 アニメ「葬送のフリーレン」が絶賛放映中ですが、この作品世界における「魔法」の描写について、ちょっとだけ気になることがあったので、メモ代わりにここに書いておきます。

 別に作品を批判したいわけではないので、念のため。


 さて、アニメの第4話で、フリーレンとフェルンが、封印されていた魔族と戦う場面がありました。80年前に戦った時には倒しきれず、やむを得ず封印魔法で閉じ込めた相手だったのですが、その封印が経年劣化で解けそうなので、今度こそは確実にぶっ殺……息の根を止めにフリーレンがやって来た、というお話です。


 フリーレンの弟子であるフェルンは、封印されていた魔族クヴァールは、「ゾルトラーク」という強力な攻撃魔法を持ち、それで数多くの相手を葬ってきた恐ろしい存在である、という話を事前に聞いていました。しかし、実際に封印が解け、彼が放ってきた恐怖の必殺技であるはずの「ゾルトラーク」は、彼女にとってはただの「一般攻撃魔法」であり、よく知られた普通のものでしかありませんでした。80年の月日の間に、「ゾルトラーク」は解析され、人間の魔法使いたちにとっては「普及している通常の技術」になってしまっていたのだ……というオチでした。


 ですが、私はこの魔法の説明に、少し違和感を覚えました。この作品中の描写によるならば、「葬送のフリーレン」の世界においては、魔法とは「イノベーションが起きる技術」である、ということになります。つまり、魔法使いという技術者たちが常に研究を重ね、日進月歩で技術が進歩していく。そして「古い技術」は誰でも知っている当たり前の知識となり、陳腐化し、そしていつかは廃れる、ということです。


 80年前には脅威の必殺魔法だった「ゾルトラーク」でさえ、魔法技術の進歩によって陳腐化し、(天才であるフリーレンの薫陶を受けているとはいえ)新米魔法使いのフェルンにすらあっさり防がれてしまった。これは、技術が進歩していき、古い知識は役立たずになっていくという、現代産業社会と同じ世界観である、と言えます。それは、まさに、先進国に生きる文明人である私たちが置かれているのと同じ、「イノベーション」が起きる世界観、同じ時間の流れです。


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