第27話 

◇◆◇◆◇


 竜真と攻略隊の一行は隊列を組み直し、竜真を先頭にジャングルの中を進行し始めた。


 先程彼らが居た結界が張ってあった場所は、既に結界を博幸が解いており痕跡も消してある。

 魔物に追跡されない為だろう、列の最後尾では探索者の男が皆の足跡などの痕跡をスキルで消していた。


 それを俯瞰視で見ながら竜真は感謝する。


(助かるなぁ……あの男の人、黙々とした表情で足跡消してるじゃないか。消費魔力大丈夫か? 後で《魔力回復ポーション》一本あげよ)


 竜真は迷いなく足を進める。なぜなら竜真の所有する探知系スキル【魔力探知】【地形把握】が次の階層への階段を見つけて出していたからだった。


 攻略隊の面々は竜真が堂々と歩いている姿に、少なからず不気味さを感じていた。

 それも仕方ないだろう。竜真は先頭を任されると「あちらの方向に次の層への階段がある。付いてきてください」と言ったっきり一言も喋らず歩いているのだ。

 橋本は、何かが壊れたのか「先頭は竜真に任せる。だから竜真のいう事を聞け」と完全に他力本願をしていた。


 攻略隊のごく一部は竜真が橋本を操っているのでは? と思う者まで出てきていた。だがそれを口に出すと竜真の高出力な攻撃で塵も残さず消されるのではないかと考え、口をつぐんだままだ。


 そんなことを露知らず、竜真は階段に向けて歩く。道中に現れる魔物を一撃で破裂させて。


 それも最初は博幸を除いて攻略隊の人間は「ヒェ」と恐れ慄いていたが、十回見る頃には流石に落ち着いていた。


 そんなこんなで歩き始めて二十分経過した辺りで、竜真たち攻略隊は次の階層への階段に辿り着いた。


“すげぇ……”

“本当にあった……”

“マジでコイツ何者だよ”


 ダンジョン配信サイトでは、ドン引く声が多数コメント欄に流れて行っていた。

 そして攻略隊の面々の反応も同じようだった。


「嘘やん……」

「マジであった……」


 その呟く声を竜真は聞いて心の中で呟く。


(うわ、俺信用されてねぇーー)


「取り敢えず前に進みましょうか。俺が先に行くので皆さんは慎重に付いてきてください」


 竜真は苦笑いしながらそう言い、階段に足を踏み入れる。


 そして数十歩降りると竜真は瞬間的に、空間が歪曲したような感覚を感じ取った。

 直感的に振り返り叫ぶ。


「皆さん! 前言撤回です、早くこちらに来て!!!!」


 そう言われた攻略隊の面々は、竜真の先程の冷静さからかけ離れている表情に気が付き、急いで竜真のところまで階段を駆け下りる。


「なんだ、どうしたんだ隊長」


 一番早く階段を駆け下りたS級の藤崎が問う。


「今、階段を下りた時空間が歪んだ様な感覚に襲われまし――!?」


 竜真が最後まで言いかけた瞬間、攻略隊の面々が降りてきている階段が突如、壁になった。

 まだ降りている最中の男二人の姿が完全に見えなくなったのだ。


“は?”

“壁? なんで?”


 階段が壁に変わる前に、降り終えていた面々が「えっ……?」と困惑する。


「有村と秀樹は……?」


 誰かがそう呟いたのを皮切りに皆の表情が青ざめていく。


 もしあの壁の中に自分が取り残されていたら……?

 そう考えてしまっていた。


 青ざめた面々で唯一冷静なのは竜真だ。

 携帯を取り出し、ダンジョン配信サイトの先程見ていたページを開く。

 するとそこには、目の前が壁になって焦り困惑する二人の姿があった。


『なんだよこれ……! おい! おい! おい……』

『くそっ、なんで俺等だけ』


 有村という男は目の前に突如出現した壁に拳を叩きつけ、冷汗を流していた。


“うわああああ”

“やべぇよ。有村氏と秀樹、もしかしてこのまま……”


 コメント欄も阿鼻叫喚だ。


 竜真は壁くらいなら壊せると考え、壁に近付こうとする。だが——気付いてしまった。

 この壁の先に彼らはいないと。

 そう竜真の【熱源探知】が壁の向こう側に二人がいないと示していたのだ。


 (どういう事だ? 何故壁の向こう側に彼らがいない? まさか……この階段ごと俺達は転移させられたのか? 取り敢えず、分断された彼らの為にも一刻も早く攻略しないと……!)


 竜真はそう考え、前を向く。そして階段降りて直ぐだったこの空間から移動しようと一歩を踏み出した。


 青ざめていた攻略隊の面々も、竜真の足音に気付いたのか少し気後れしながらもその後に続く。


 長いざらざらとした石造りの壁の道を進む竜真達。すると真っ白な空間に出た。

 余りにも異質なその空間に攻略隊の全員が、辺りを見回す。

 そして一人が気付いた。


「い、今通ってきた道がない!?」


 背後に道を塞ぐように現れた真っ白な壁をぺたぺた触って男はそう叫ぶ。

 それは竜真も同じタイミングで【地形把握】により気づいていた。

 

(階段や他の通路が見当たらない……! 【看破】を以てしても他の隠し階段などが見つけられないという事は、閉じ込められた!? ……そうだ、なんで今まで忘れてたんだ。晶に教えてもらっていたじゃないか、ダンジョンの壁を鑑定すると何層か分かるって)


 竜真はその方法を思い出し、真っ白い壁に近付く。そして手をかざし【鑑定】をした。


=====

《■-J-SSS-■-300 白壁》

等級:EX

ク■ァル■■スの■■下にあるダンジョン白壁。

■位を冠する者のみ破壊可能。

=====


(300層!? 米国のS級ダンジョンの最終階層と同じ!? という事はあくまで可能性としてだが、ここが最終階層かもしれない。皆に伝えなくちゃ――!?)


 竜真がそのことを伝えようと振り返った瞬間、この真っ白な空間に圧倒的覇者が現れた。

 黒紫色の髪に、爛々と輝く殺気の入り混じった黄金の瞳。それだけで竜真はこの現れた存在が人型になれる上位の龍種だと、前世の記憶が教えてくれた。


 その登場に伴ったオーラと威圧に吐き気を催したのか、攻略隊の面々が膝をついて口を押える。


『始めましてだな? 貴様らよ。我が名はクヴァルティス。彼の世界に十四体存在する九頭龍が一体だ。我に会えた事、光栄に思うと同時に後悔するといい』


 クヴァルティスは名乗りを上げ、より一層威圧を強めたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る