第25話 魔力回復ポーション
「……うぇ」
やっぱり吐き気を催す味だ《魔力回復ポーション》は。
でもそのおかげか、やり場のない悔しさや後悔、怒りなどの感情が収まっていた。
「竜真君、今飲んだポーションは何だい? 随分不味そうな顔をしているけど」
「あーこれは……」
「なっ……!」
俺が歯切れの悪そうにしていると、空になったポーションの瓶を【鑑定】したであろう、博幸さんが固まった。
「鑑定、したんですね」
「あぁ……どこでこんなものを……まさか作ったのかい?」
俺はその問いにコクリと頷く。すると博幸さんは額に手を当てて天を仰いだ。
そして俺の方に顔を向けてくる。
「すまない、竜真君。無理を承知で聞くが、そのポーションまだあったら分けてくれないだろうか? この結界を張るので私は殆どの魔力を消費してしまったんだ」
「いいですよ。ですが、これクソマズなので死ぬ覚悟して飲んでくださいね」
俺はポケットから《魔力回復ポーション》を取り出し、博幸さんに渡す。
「あ、ありがとう。そんなになのかい?」
「はい」
「じゃ、じゃあ頂くとするよ」
博幸さんは瓶のコルクを開け、二滴だけ口の中に含んだ。
「うわぁ……これ、限りなく不味いね」
博幸さんは青い顔をしながらそう感想を述べる。
分かる、分かるよ……。ここまで不味いポーションって中々存在しないからね。今度時間を見つけて、不味くなくなるように改良しよ。
「デスヨネー」
「あっ、でも本当に魔力が回復してる……! 凄いよコレ!!」
博幸さんは自分のステータスを見たのか、控えめにはしゃいで青かった顔を明るくさせる。
「よかったです」
すると皆に声を掛けてまわっていた、橋本さんが近寄ってくる。
「どうしたんだ? 何かあったのか」
そう声を掛けられ悟る。
これ、控えめに博幸さんがはしゃいでいたとしても、周りが静かだから騒いでいるように見られたのかもしれん。
「いやぁ……あの、その――」
「橋本君、見ておくれよこのポーション!」
「え」
「ん? 妙にテンションが高いな水無月……。なんだこの色。見た事のないポーションだな」
「それもそのはずだ! このポーションは魔力回復の効果があるものなんだよ」
「なに? それは本当か? ……水無月が嘘を吐くはずがないか。どれ、少し飲ませてくれ」
「いいかい? 竜真君」
「あ、はい……」
もうどうにでもなれ。
橋本さんは博幸さんからポーションを受け取ると、一気飲みする。すると吐きそうになって口を押えた。
そして橋本さんの喉仏が動いた。
「おぇえ……なんだ、このポーション、クソマズ、どころじゃ済まない味してるぞ……」
橋本さんは息も絶え絶えにそういう。だが、ステータス画面に目を向けると固まった。
そして震える手で虚空を指す。自分のステータス画面を指さしてるのだろう。
「魔力が全回復している……!?」
「どうだい? 味こそ不味いが、効果は素晴らしいものだろう?」
「ああ、……これをどこで手に入れた?」
橋本さんが博幸さんに向かってそう聞くと、博幸さんは俺の事を目で指す。
「竜真君が?」
「はい、……俺が作りました。秘密にしたかったのですが、非常時なのでアイテムの出し惜しみはしないので出しました。できればこの三人で秘密にできませんか?」
すると橋本さんは難しそう顔をして、口を開いた。
「……それは無理だな。なぜならこの様子は全世界に配信されているからだ。今頃、配信のコメント欄は地獄絵図になっているだろう」
「……え?」
そう言えばこのダンジョンに入る前、『攻略映像を配信する』とかなんとか言っていたよな気がする。……という事は。
俺はポケットからスマホを取り出して、ダンジョン省管理下にあるダンジョン配信サイトへ飛ぶ。
因みにダンジョン内ではどういう原理が知らないが、ネットが繋がる。なのでサイトに飛べるわけだ。
すると目に映ったのは、膨大な数のコメントが流れる様子とそこに映る俺達だった。
“見ってるぅ?wwwww”
“魔力回復ポーションを開発したって本当ですか!?”
“レシピ独占すんなカス”
アージリカバリー社:“我が社にレシピを売ってくれ。それで助かる命があるんだ”(英語コメント)
“(このコメントは削除されました)”
“そのポーション、杏ちゃんにも飲ませてあげて!!”
“イケメンの困惑してる顔助かる”
“レシピ独占すんなカス”
“今北産業。これどういう状況?”
“そのポーション皆に配っていたら、死者数が減ったかもしれないのに……”
“(このコメントは削除されました)”
“これって本当に魔力回復ポーションなのか?”
“このコメ欄カオスすぎwww”
荒れたい放題のコメント欄を見て俺は呆然とする。
「これは収拾つかなさそうだね……」
「ああ」
俺のスマホを覗き込んでいた二人がそう言う。
取り敢えずコメントにあった、杏さんに《魔力回復ポーション》を飲ませてあげて的なコメントが気になるので、俺は杏さんがいる所に向けて歩き出す。
すると二人も後に付いてくる気配があった。
杏さんが居る所を見ると、いつぞやの晶を勧誘したパーティーのリーダーと、木にもたれ掛って辛そうにしている。
「あの、杏さん大丈夫ですか?」
俺は明らかに顔色が悪い杏さんに向かって話しかける。
すると横に座っていたリーダー、原田さんが反応して頭を上げる。杏さんの反応はない。目線だけこちらを向くだけで、喋らないようだ。
「君は……っ、すまない。あの時は本当にすまなかった……! そして助けてくれてありがとう」
原田さんは地に頭をつける勢いで謝る。心なしか体が震えているように見える。
「彼と何かあったのかい?」
横に居た博幸さんが聞いてくる。
「いや、特に何もありませんよ」
あの時と言うのは、恐らく晶を勧誘していた時の事だろう。あの一件は特に被害もなかったし俺は許したつもりでいる。だが彼の中の俺は許していないようだった。
そして原田さんの体には傷が無数にあった。魔物によってつけられた傷の様だ。治っていないのは、先程の回復の呼びかけに応じず、治療を求めに並ばなかったからだろう。
「……《中位回復魔法》」
俺は原田さんに回復魔法を掛ける。するとみるみる傷が塞がっていく。
するとばっと原田さんが顔を上げた。
「傷が……本当にありがとう……!」
「で、杏さんはどうしてこんなに体調悪そうなんですか?」
一応そばにいた、原田さんに杏さんの体調の悪さの原因を聞く。
実はもう既にコメントから予想はしているが。
「杏のこれは、魔力枯渇だ」
「やっぱりですか」
俺は橋本さんと博幸さんと顔を見合わせ、頷く。
「原田さん、杏さんに《魔力回復ポーション》を飲ませてもいいですか?」
「何!? そんなポーションが存在するのか!!!! ぜひ飲ませてやってくれ!!」
「ちょ!」
原田さんの大声に、辺りの攻略隊の探索者がこちらを向く。
「なんだって……?」
「今、魔力回復ポーションって、聞こえたような……」
ざわつく探索者たち。
「取り敢えず飲ませますよ? ……杏さん、口を開けれますか?」
「……」
杏さんは無言で口を開けた。そこにポケットから新たに出した《魔力回復ポーション》のコルクを開け、一滴杏さんの口の中に垂らした。
「…………まずっ! あれ……? 魔力が溢れてくる……!!」
杏さんはそう言って、木にもたれた状態から立ち上がる。
「一滴でこの効果ってすごいわね!! そのポーション!! 一つ売ってくれないかしら?」
「お、おい杏。大丈夫なのか?」
「そのポーションのおかげで完全復活よ!」
先程まで死人のような顔をしていた杏さんと思えない、テンションだった。おかしいな、このポーション、ハイになる成分とか入ってない筈なんだけど……。
すると近寄ってくる探索者の気配があった。
「あの……私にもそれ飲ませてくれませんか? 魔力が枯渇気味で……」
そうふらふらしながら話しかけてきたのは攻略隊の三人居る中の一人の女性、遥さんだった。
この人を筆頭にどんどん、俺にも飲ませてくれって声が出てきたので俺は順番に一滴ずつ飲ませて回ったのだった。
そして皆さん口をそろえて「まずっ」と言っていた。
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