第20話
「竜真殿! こちらへお座りください」
正道さんにそう促されて、入ってきた襖から見て左側、真之介さんの対面の席へ座る。
俺から見て真之介さんの右横に正道さん。その対面に未羽さんが座っている。つまり未羽さんは何故か俺の隣の席に座っている。貴方対面側じゃないですかね?
他の席に座っている人達は、控えめにわいわいと喋っている。それには俺に関する内容もあった。
「あの人が竜真様? めっちゃイケメンじゃない!?」
「確かにイケメンだよな。だけどあれ作り物なんだろ?」
「竜真様の魂デカすぎない? 尋常じゃないんだけど」
「ばっ、お前、竜真様は少なくとも王霊級のお方だぞ? デカくて当たり前だろ」
そんな話の内容が聞こえてくる。
俺ってイケメンなのか? 割と普通な方じゃね? 晶の方がクッソイケメンだったと思う。……因みに俺を煽ててもドロップ品しか出てこねーぞ。
それよりも……!
この目の前に並ぶ豪華な料理たちは何!? とんでもなく豪勢な和食がひしめき合ってるんですけど!?
そんなことを思っていると、正道さんがパンパンと二回手を叩いて注目を集める。
「はい、皆さん静粛に。今日、ここにおられる竜真殿が探索者A級試験に合格された。改めて竜真殿、おめでとうございます。それでは皆さま、お手元にグラスをご準備ください」
俺は直ぐ近くに置いてあった、麦茶が入ってるっぽいグラスを手に取る。
「それを祝して、そして霊能力者の繁栄を願って――乾杯!」
『乾杯!!』
俺も合わせて「乾杯」と口にする。そして周りの席の方々とグラスを合わせた。
そしてぐびっと飲む。ネットで見たお酒独特の喉越しがない。やっぱり麦茶だったようだ。
俺はグラスをテーブルに置き、割り箸を手に取る。
さて、どれから食べるか迷うなぁ……。よし、最初は近くにあった寿司からにしよう。
俺は取り皿を持ち、近くに置いてあった菜箸でマグロ? の寿司を二貫掴み、取り皿に乗せる。
取り皿の端に少し醤油を入れ、寿司を付けて口の中に運んだ。
うっまい!!!
なんだ……? これ! 鮮度がいいというか、生臭さがないというか! 口の中でとろけるようで……最高かよ!! これ本当にマグロか? ダンジョン産の物じゃないよな?
「こ、これ……ダンジョン産かってくらい美味しいですね」
「ふふ、良くお分かりになられましたね。これはB級ダンジョンでドロップしたマグロですよ」
「マジですか。どおりで美味しい訳だ!」
周りの方々を見ると、ほぼ夢中になって料理を食べている。美味いもん、やっぱそうなるよね……はっ! 周りを見ている時間がもったいない! もっと食わねば!!
俺は取り皿にあったもう一貫の寿司を食べ、寿司がのせてあった大皿に置いてある菜箸に手を伸ばそうとして気付く。
あれ? 寿司がない!! この短時間で誰だそんなにとった奴は!
そう思い、周りを見渡すと未羽さんの皿に五貫のっているのを見つけた。そしてそれを一瞬で平らげる未羽さん。
一体その細い体のどこにそんなに入っていくんだ?
そう思いながら未羽さんを見つめていると、視線に気付いたのか首を傾げて未羽さんは口を開く。
「どうしたの? あ、もしかしてお寿司食べたかった?」
「いや、何でもないです……」
俺は誤魔化すように他の大皿に乗っていた海老を取り醤油に着けて食べる。
う~ん! これはトロトロ、ぷりぷりで美味しい!!
こんな調子で俺は食べて食べまくった。……つもりだったが、明らかに未羽さんの方が俺より食べていた。
料理も大分減ってきて、お開きムードになってきた時、正道さんから話しかけてきた。
「そういえば、今日未羽に案内させた部屋はどうでしたか?」
「綺麗な部屋でした。敷布団も敷いてあって何から何まで有難うございます」
「いえいえ。それで、もしよければあの部屋は好きに使ってください。泊っていない時でも部屋はそのままにしておきますので、ご自由にどうぞ」
なんと! 理想的な提案だ。だが本当に身内でもない俺が使ってもいいのか?
そう思ったので、若干遠慮気味な返事を返す。
「え、そんな悪いですよ」
「いいんです。部屋は余るほどあるので」
そこまで言うなら……。
「じゃあ、有難く使わせて頂きます」
「ええ」
正道さんは優しく微笑んだ。
「では俺はもうそろそろ部屋に戻らさせていただきます」
「分かりました。お休みなさい」
「おやすみなさい。未羽さん真之介さんもおやすみなさい」
「お休み」「お休みなさい」
そう言って俺は会釈して食堂を出た。
廊下を歩き、階段を上って部屋に戻る。
さて、どうしようか。時間が出来たな。取り敢えず、中級以上の回復ポーションを量産して暇をつぶすか。
俺は材料を異空間収納から取り出し、傍に置く。そして生産を始めた。
生産しながら俺は思う。
今頃、主はどうしてるかな。流石に寝てるだろうか? 結界の効果は長続きするはずだとは言え、ちょっと心配だな。今夜、澄鳴家の人々が殆ど寝静まった後、転移しよう。
約五時間後。やっと気配が静かになったので、敷布団に肉体を寝かせておいて魂だけの俺は転移で澄鳴家を抜け出す。
透霧家の玄関前に転移した俺は、家の壁をすり抜けて主の部屋に移動する。
そう言えば晶はどうしているだろうか? あれ? でも晶の気配がない。今日もダンジョンに行っているのだろうか? まぁ、それはさておき主の結界の具合を見よう。
ふむふむ、結界の効果は途切れてないし、ダメージを負った形跡もない。これは主はこの二日間ダンジョンに行ってないと見ていいな。
念の為も一重に結界を張って、お母さまの方にも結界を張って主の家を後にする。
転移で澄鳴家の用意された部屋に戻ると、肉体に魂を戻す。
そして俺は敷布団の気持ちよさに意識と体を預けたのだった。
えーおはようございます。
まさかの俺、寝れました。俺、寝れないと思っていましたが、寝れることが分かりました。びっくり。
そして俺は大変お恥ずかしながら、未羽さんに起こされて朝食を取りに廊下を歩いている最中だった。
昨日とは別の部屋の前に未羽さんは止まり、中に向かって入っていいか確認する。
「入りなさい」
そう許可を得ると未羽さんは襖を開けて、中に入っていく。俺も中に入った。
部屋の中は昨日と違って、こじんまりとした部屋だった。部屋のど真ん中に食卓が置かれており、真之介さんと正道さんは着席済みだった。
「おはようございます」
「おはよう、竜真殿」
「おはようございます、竜真殿。昨夜はよく眠れましたか?」
「おかげさまでよく眠れました」
「それは良かったです」
俺は挨拶をしながら席に着く。
席に着いたのを見計らって正道さんが手を合わせて「頂きます」と言ったのでそれに倣う。
朝ごはんは、白飯に鮭の塩焼き。それに味噌汁とリンゴ二切れだった。
俺達はそこまで話さずにそれを平らげ「御馳走さまでした」と言う。
「竜真殿、後大体二時間後程したら呼びにまいりますので、それまでにお着換えの程よろしくお願いします」
「分かりました」
俺は部屋に戻って着替える。
勿論昨日まで来ていた服なので汚れがあると思い、《クリーン》を掛けて着る。
そして部屋でしばらくポーション作りをしていると、正道さんの気配が近づいてくるのでポーションの材料などなどをしまい、立ち上がる。
「竜真殿、準備はできましたでしょうか?」
「はい、できました」
俺は返事を返しながら襖を開け、廊下に出る。そこには外行き用の服に着替えた正道さんが立っていた。
なんか、こうビシッとしている。
「では行きましょうか」
「はい」
俺は正道さんの後に続いて玄関の外まで出て、玄関近くに止まっていた例の黒塗り高級車に乗る。
その後はダンジョン省のロビーに入るまで、完全にデジャヴだった。
ロビーに入ると、俺達は真っ先に空いている受付に向かい、受付嬢に話しかける。
「すみません、この竜真殿を準S級ダンジョン攻略隊の選抜に登録して頂きたいのですが」
「承りました。……竜真様、探索者カードはお持ちですか?」
「あ、はい。これです」
俺がカードを差し出すと、受付嬢はモニターに映る何かと見比べながら確認している。
「はい、問題ありませんね。選抜試験の方には登録完了いたしました。他に何かご用事はありますか?」
「いえ、ありません。有難うございました」
「有難うございました~」
受付嬢はそう言ってぺこりと頭を下げてくる。俺もそれに会釈を返しつつ、正道さんの背中を追った。
ロビーを出て、車に乗り込む。
後部座席に乗り込んだ俺は、流れる景色を見ながらぼーっとする。
「竜真殿、今日は何かご予定はありますか?」
「そうですね……スマホを買いに行こうと思っています。後パソコンも」
「そうなのですね、そういうことでしたら我々にお任せください」
「え? いやいや、大丈夫ですって自分で買いに行きますよ」
「お任せください」
わお、なんか圧みたいなのを感じた。これは取り敢えず任せるしかないか。こんなことで関係の不和になりたくないし。
「は、はあ。そこまで言うならお願いします」
「今日中に買ってきますので、お待ちください」
「はい」
取り敢えず頷いておく。
さて今日は本当に何しよう。ネットで販売するためにポーションでも作り続けるか。
澄鳴家に着いた俺は、玄関で正道さんと別れ部屋に戻る。
そして俺は治癒ポーションから回復ポーション、解毒ポーション等々のポーションを作り続けた。
そして作業を続ける事六時間。突然正道さんから念話が入った。
『お任せいただいた、PCとスマホが届きました。今から部屋に運びますが、よろしいでしょうか?』
『お願いします!』
そうして届いたPCは、見るだけでもわかる感じの高性能PCだった。スマホも最新鋭の物だし……。あれ? お金足りるかな……。
「これって、全部でいくらしましたか?」
「はは、知らなくても大丈夫ですよ。こちらは差し上げます」
「え゛、流石にそれは……」
「これは私共からの厚意だと思って受け取ってください。それでは」
「有難うございます。……」
正道さん、それは厚意と言う名の重すぎる期待では?
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