異世界から日本のスマホに転生した■■、魂生を楽しむ (仮題)

ボンジュール田中

第1話 目覚め

 外から薄っすらと小鳥の囀りが聞こえる。ふと窓の方を見やると、カーテンの隙間から日の光が部屋に差し込んでいた。

 朝だ。


 でもおかしいな。何故か天井が下に見える。……天地がひっくり返った? いやいや、俺が宙吊りになっているのか。


 俺は【念力】で自分の体を掴み、正常な向きに戻す。傍から見たら俺が浮いているように見えるだろう。

 このまま浮いているところをお母さまに見られたら、間違いなく俺は捨てられてしまう。

 なので俺は主に気付かれないよう、そっと枕元に体を下ろした。




 ——約一時間後


 体を枕元に戻してからは主の寝返りに落とされることはなかった。そのことに大分安心を覚えている。

 それは何故かって? 念力で具現化されている手は視認可能だからだ。万が一見つかったらまずい。


 あっ、そろそろ時間かな。


 俺は自分の体内時計を見て、そう思う。


 よし、今日もスタンバイOK……3……2……1……!


 心の中のカウントダウンが終わった瞬間、静かな部屋に突然大音量で男性アイドルグループの曲が流れ始める。

 すると枕の上で静かに寝息を立てていた主に反応が見られた。


「んんぅ、ん?」


 少し悩まし気な声を出して、俺に手を伸ばす主。


「もう、朝か」


 眠そうに目を擦りながら俺を見てそういうと、「よいしょっと」と体を起こす。

 そして俺をタップしてアラームを止めた。


 主は欠伸をしながらベットから降り、立ち上がると背伸びをして壁に掛けてある制服を手に取る。

 寝巻から制服に着替えるようだ。


 衣擦れの音が聞こえる中、俺は思い出す。



 俺がこの体に転生のは今から約一ヶ月前。丁度今くらいの朝の時間帯に意識が芽生えたと思う。


 俺は――スマホだった。


 俺は透霧とうぎり明日香あすか——今は主と呼んでいる――という少女に鏡の前で持ち上げられ、そう悟った。


 何故即座に自分がスマホだと分かったのか、それは前世の記憶に薄っすらと残っていたスマホという物と自分の姿が合致していたからだ。


 最初は、せめて生物に転生させてくれよぉおおおお!! と嘆いたものだが、意外とこのスマホという体も慣れれば快適で、例えば主が授業中俺を触っていない時間等は自由に意識中でネットサーフィンができる。


 ネットサーフィンをしていると、この世界にはつくづく面白いものが溢れていると思う。そして前世とは大違いだと感じた。


 前世の記憶は……ぼんやりとしか覚えていない。ただ確かなのは、この地球よりも一部文明が発達していない世界に住んでいたという事。

 そして、この地球と同じくダンジョンなるものが存在していたという事だ。


 俺が若干キメ顔(※スマホに顔は無い)して思い出していると、着替えが終わったらしき主に拾われる。そしてそのまま主は自室を出た。


「うぅ~寒っ」


 そう言いながら透霧宅の二階の廊下を歩く主。

 それもそのはず、今日は一月の中旬。暖房も付いていない廊下が寒いのは当たり前だ。


 さて今日も彼から声が掛かるだろう、と思い念話の準備をしておく。すると――


『よぉ! 元気してるかい? スマホ君!』


 と陽気な声が魂に直接響くように聞こえてきた。

 主が反応していない所を見ると、やはり【念話】で俺だけに話しかけてきているのだろう。


『おう、元気だよこっちは。そっちはどうだい? ドアノブ君』


 そう、彼はドアノブ。喋るびっくりドアノブだ。そしてこの家で俺の意識が芽生える前から意識を持っている先輩にして友達でもある。


『元気いっぱいさ! 今日もスマホ君はその主様と一緒に学校かい?』

『うん、一緒に行けなくて残念だよ』

『そうか……まぁ、君の分までレベルアップしてくるとするよ!』

『そか、頑張って』


 そう返した俺は念話を切り、意識を主に向ける。すると主は階段を降り終わるところだった。


『おっと、話はまだ終わりじゃないよ? ……今日の夜、時間空いてたら一緒に行かないかい? ——ダンジョンに』

『マジ? 行く』

『よっし! 決まりね! じゃあまた夜になったら念話するから』

『りょーかい』


 今度こそ念話を切ると、俺はお母さまと挨拶を交わしている主に意識を向ける。


「朝ごはん出来てるから、お顔洗ったら食べちゃいなさい」

「はーい」


 主は間延びした声でそう返事をすると、洗面所に向かう。そして顔を洗うと、ダイニングルームに戻って自分の席に着く。


「いただきまーす」


 胸の前で合掌するとそう言って朝食を食べ始めた。すると洗い物が終わったらしきお母さまも席に着き朝食を食べ始める。

 その二人の視線の先はテレビだ。


『本日未明、……市で今月27件目のダンジョンが発見されました。ランクはDとの事。近隣の住民の方は自治体、協会の指示に従って行動してください』


 へぇ、ランクDダンジョン。丁度ドアノブが狩りに行くって言っていたダンジョンもD級のはずだ。流石にできたばかりのダンジョンには挑まないだろうから、別のだろうけども。


「なんか、最近ダンジョンの出現頻度めっちゃ高くない?」

「そうねぇ、昨日くらいだったかしら。お昼の情報番組でも同じことを専門家が言っていた気がするわ」

「でしょ?」


 主が言った通り、最近のダンジョンの出現頻度が高いらしい。日本での先々月の出現頻度が月に5~10だったのに対して今月はまだ中旬なのに27件。これはスマホの俺から見ても異常だと思う。


 何かの前兆とか……? いや、まさかな。


『次のニュースです。先日、ダンジョン協会が発表した新たなS級探索者、原田雅人はらだまさとさんがパーティーでのB級ダンジョンの攻略に成功しました!』


 S級探索者。あのドアノブ君も目指してるって言ってたっけな。まぁ、探索者にならないといけないし、俺達にはちょっと厳しいよね。


 人外とも呼ばれるS級探索者に選ばれている、この原田雅人って人も信じられないくらい強いんだろうな。


「私も探索者目指そうかな……」

「あんた馬鹿な事言ってないでさっさと食べなさい」


 主のお母さまはそう言って、いつの間にか食べ終わって空になった自分の食器を手に席を立つ。

 主はそれを横目に食べる速度を少し早めた。


 てかお母さまの食べる速度早くね? 三分も経ってないんですけど。まぁ、食パン一枚にそんなに時間かけないか。


 朝ごはんを平らげると主は「ごちそうさま~」と言って席を立った。

 そしてその足で自室に戻ると、リュックを持ち、ハンモックに掛けていたマフラーとコート取って身に着け、鏡に映る自分を見てから部屋を出た。


『お、もう行くのかい? 今日は早いね?』


 ドアノブが気まぐれか話しかけてきた。確かに今日は部屋を出るのが早い。主はいつもは食後、部屋に戻って20分ほど推しの動画を見ているか、友達をメールをするはずだ。


『うん、今日は珍しく早く行くみたい』

『そかそか、行ってらっしゃい~』

『行ってくる~』


 若干緩めな会話をドアノブと交わし終えた頃、主は丁度玄関で靴を履いていた。


「行ってきまーす!」


 主はお母さまの返事を待たずに、玄関を出て行った。

 

 そしてすぐ俺はコートのポケットに入れられる。歩きスマホをしないご主人はとても偉いと思う。

 ただこれじゃあ周りの景色が楽しめないので、魂を一旦スマホから離脱させて、主の周りを漂う。よし、これで周りの景色が見えるようになった。


 この魂の離脱は、ドアノブに教えてもらった手段だ。

 『俺達物じゃ、自由に散歩もできないからね~動きたい、動きたい! って思っていたらいつの間にかその願いが叶って、魂だけ離脱できるようになってたんだよ~』

 教えてもらう際、そうご機嫌に言っていたのを思い出す。


 ふと主を見ると、手が悴んでいるのか白い息を手に吹きかけている。とても寒そうだ。

 俺は今魂だけの状態なので、全く寒さなどは感じない。スマホの時もそうだ。


 主は何を思ったかスマホを取り出し、お天気アプリを開く。するとそこに書いてあったのは“2℃”という文字。

 俺はそれがどんなに寒いか感じたことはないが、主が「うわっ……」って顔をしているのを見ると相当寒いのだとわかる。


「手袋持ってこればよかったかなぁ……」


 と嘆く主。


 スマホを右ポケットの中に戻し、そのまま右手はポケットの中にイン。そして左手もポケットに入れた。


 おっとこれは、凍結した地面で転んだら頭からいってしまうやつではなかろうか。

 ……仕方ない。先回りして凍結した地面に《温風魔法》掛けとくか。まぁ、それでも躓いて転んだらアウトだけどね。リスクは潰しといた方がいいだろう。


 


 そんなこんなで主は学校に着いた。

 主は下駄箱から内履きを取り出しそれを履き、外履きを下駄箱の中に入れ歩き出した。

 そして教室に辿り着くと中に入っていく。


「あっ、透霧さん、おはよー」

「おはよー」


 主の友達を思しき人達と挨拶を交わしながら、席に向かう主。

 着席するとリュックを机の上に下し、教材を机の中に入れていく。スマホも机の中に入れられた。


 そこからはほぼ俺のスマホとしての出番はないのでとても暇だ。時々スマホから魂を離脱させて授業を聞いていたりするが、それは暇な時だけ。今日はやることがある。


 俺はスマホから魂を離脱させたまま、教室の窓を通り抜けて空中散歩をする。




 そして約30分後、俺は都内にあるD級のダンジョンに居た。


 主が通学中、俺が凍結した道を溶かした後、ネットサーフィンして知った場所だ。

 

 因みにドアノブは俺が今日ダンジョンに行くことを知らない。彼もD級ダンジョンに行くと言っていたので、家から最寄りのD級ダンジョンではなく、朝ニュースで流れていた新しくできた方のD級ダンジョンを選んだ。


 周りを見ると職員や探索者が忙しなく動いているのが分かる。

 それを横目に俺はすんなりダンジョンの中へ入った。


 普通ダンジョンには探索許可証――ダンジョン省探索者カード――を持っていないと入れない。なぜなら講習を受けていない一般人やステータスを持たないがダンジョンに入ると即、殺されてしまう可能性があるからだ。


 だけど俺はすでにステータスを持っているし、何より機器にも人の目にも映らないので無断で立ち入れてしまうのである。


 因みに俺のステータスはこれだ。


=====

個体名:なし 性別:無性 年齢:■■ 種族:■■

称号:■■■■ 他■■個

Lv.■■■■■

HP:??/??

MP:??/??


筋力:??

頑丈:??

俊敏:??

体力:??

魔力:??

精神力:??

知力:??

運:??


SKILL 【■■■/Lv.■】他■■■個

装備:なし

=====


 なんか殆ど『??』なんだよなぁ……。それにスキルとか年齢、種族・称号とかもなんか文字化けしてるし。……これって実体がないから表示されてないのかな? 

 そうだと思いたい。

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