第25話 モルモットにエサをやり、レポートを考える

 昼食を終え、人心地がついた俺たち。

 屋内の爬虫類棟で涼み、あまり動かない爬虫類たちを堪能した。


 外にはバカでかいリクガメがいる。

 動かない。

 ずーっと日向ぼっこをしている。


「ひと仕事終えて、気が抜けてしまった」


 俺はリクガメを眺めながら呟いた。

 冷やし蕎麦で補給した栄養が回るまで、まだしばらくかかるだろう。


「どうしたんだい迎田くん。まだ日は高いというのに。随分お疲れのようじゃないか」


「ハハハ、ちょっと野暮用が終わりましてね」


 先輩をチャラいマッシュルームの魔手から守るため、奮闘したのだ。

 ペンギンの餌やりの時、常にマッシュと先輩の間に挟まりながら俺は走り回った。

 凄まじい集中力を、餌やりタイムの間ずっと要求されたのだ。


 だが……俺はこの戦いに勝った!!

 先輩は無事だ!!

 まだ純粋な先輩のままなのだ……。


「なんか迎田くんが優しい目で見つめてくる……」


『ナツミの知らぬ場所でハルキは戦い続けていたのだ……。そして勝利した。今はハルキを祝福してあげてほしい』


「そうなの? おめでとう迎田くん、お疲れ様」


「そう言われると全てが報われます……」


 俺はじーんとした。

 今回のデートは成功と言っていいだろう。


 そんな俺たちの耳に……。


『これより、モルモットたちがふれあい館にやって来ます! 皆さん、モルモットちゃんたちに餌やりをしてあげましょう!』


「なんだって!?」


 先輩が大きな声を出した。

 この人、どうやらかわいいものに目がないらしいぞ。

 モルモットと聞いて目の色が変わったもんな。


「迎田くん、いいだろうか」


「いいでしょう、行きましょう!」


 俺は力強く応じる。

 若さは幾らでも無茶をさせてくれるのだ!


 いつでもマッシュが出てきていいように、俺は戦闘態勢に入る。


『恋とは戦いだな……!!』


「そうだぞダミアン。俺は今、愛に生きるソルジャーだ」


「迎田くんとダミアンが何かかっこいいことを言っているなあ……」


「男はいつでもソルジャーなんですよ」


「女だって戦いだぞ」


「そうかも知れませんねえ」


 そんな話しをしていたら到着してしまった。

 ふれあい館!


「それでは! モルモットたちの登場です!」


 ウワーッと飛び出してくる、キューキュー鳴く毛玉たち!


「うわあああああああ」


 先輩が震えた。

 モルモットの可愛さにやられているのだ。


 この隙に、できる男を目指す俺は目的のブツを探した。

 動物園の職員の方が声を張り上げる。


「モルモットのエサはこちらでーす!!」


 ほう、ボールに載ったレタスの一部が100円ですか……。


「3つください」


「300円です!」


 ということで、俺は素早くレタスを確保。

 先輩に手渡した。


「迎田くん……!!」


「たっぷりエサをやってください。存分に、心行くまで……!!」


「ありがとう!」


 こうして、先輩はモルモットにレタスを差し出す。

 最初は人間を恐れていたモルモットだが、差し出されたレタスを見ると、鼻をヒクヒクさせながら近寄ってきた。

 かぶりつく!

 もしゃもしゃ食べる!


 これを見て、他のモルモットも寄ってきた。


「た、たくさん来た……! モルモットがたくさん……! あっ、レタスを持っていかれる……!」


「先輩、次弾を! 次のレタスを使うんです!」


「わ、分かった! うおおーっ!」


 裂帛の気合とともにレタスを突き出す。

 モルモットは先輩の気合に驚いていたようだが、レタスが出てきたので鼻をひくひくさせながら寄ってきた。

 かぶりつく。

 もしゃもしゃ食べる。


 こうして、先輩は存分にモルモットにエサを与えたのだった。

 餌やりタイムが終わり、モルモットたちは行列になって巣に戻っていく。

 この帰宅の様子も動物園の名物なんだろう。


 うーん、壮観だ。

 たまに立ち止まって物思いにふけるやつがいて、そうすると渋滞が発生する。

 おお、毛玉が立ち往生だ。

 動け動け。


 後ろからぎゅうぎゅう押されて、物思いにふけっていたモルモットも動き出した。

 これを見送る、俺となつみ先輩なのだった。


「ああ、良かった……」


 俺も良かった。

 マッシュルームはここに合流しなかったようだ。

 きっと今頃、美来に振り回されていることであろう。


 可愛さの過剰摂取で放心状態になった先輩と、パラソルの下の座席で一休みする。


「迎田くん」


「なんですか」


「実は私の家は、父が猫アレルギーで」


「あー」


「私は毛のある生き物が大好きなのだが、毛のある生き物を飼えないんだ……!!」


「それは……。心中お察しします……」


「いや、だから、動物園に誘ってもらえてとても嬉しかったんだ。その、高校生で動物園に行きたいなんて、子どもみたいに思われるかなと心配していたから……」


「良かったですねえ先輩……。俺もかわいい先輩を見られたので大変ハッピーでした……」


「そう、そうか。君も楽しんでいたのか。だったら良かった。良かったあ」


 へなへなする先輩。


『とてもいい雰囲気だ。ハルキ、チャンスだぞ!! 行け!』


「お前が割と大きい声でそれ言うから今台無しになったよ?」


 俺たちのやり取りを聞いて、先輩が笑った。


「いや、私らしくなかったな。ありがとう迎田くん! 今日はとてもいい日だった。そしていい日の締めに……。私たちは物理部として、今回の活動内容をレポートにまとめる必要がある……」


「ほう、このどう見ても動物園デートでしかない一日を、活動記録として……!?」


 無茶を仰る。

 どこに物理部らしさが……?


『良かろう。ハルキとナツミのために、ダミアンが少しずつ吸っていたドウブツエンのメモリー内容を開示しよう。レポートとやらに活かすがいい!』


「ダミアン! お前ってやつは……!」


「君は頼れるやつだなあダミアン!」


 俺と先輩で、ダミアンをなでまくったのだった。

 メモリーは解析データの形で俺たちのスマホに送られてきて、これを使って動物園を訪れる人々の傾向と情動の動き、みたいなレポートデータをでっちあげたのだった。


 よし、部活動らしいことをしたぞ。


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