十月五日

「大赦する?」

「はい、しかも皇子様と同じ日に生まれた者には全員、物を賜る……みたいです」

 弟から話を聞いていた兄は、呆れたように半笑いになりながら、仕方が無いなと首を振って言葉を返す。

「余程お喜びなんだな、大君は。聞いた事がないぞ、そんな………対応」

「まぁまぁ、我々にとっても嬉しい事ではありませんか!」

 弟の方は心底嬉しいのか兄の引いた顔をよそに満面の笑みで演説するかのように仰々しく言う。

「我らの妹についに皇子が!しかもその子を大君は大層可愛がられ、心の底から喜んでおられる。こんなにも良い事は無い!」

「このままいつも通り、いつにも増して、仲良く行ってくれたら良いけどな」

「なんです?心配事でも?」

「いや?」

 兄は南の方を見て、ひとつため息を吐いた。そんな兄の様子など無視を決め込んだ弟は愉快そうに兄に告げる。

「それじゃあ、兄上も喜んでいた。今度会いに来るらしいって伝えておきますね」

「なんだ。お前、今日会いに行くのか?」

 抜け駆けはずるいぞ!俺だって会いに行きたいのに。尻すぼみになったそんな言葉を弟の背中に投げかけて、兄は己の仕事場へ戻って行った。

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