蜘蛛のイト、天のゴウ

森本 有樹

第0話

「ごめんなさい。最後まで我が儘を聞いてくださって……」 

 私は運転手に礼を言うと私は色彩を失った街の暗がりを静かに眺めました。感情は何一つ沸き立ちません。

 何故なら、それは間もなく破壊されるから……

 何故なら、それを壊すのは私だから……

「では社長、お時間はあまりありませんので、お急ぎください。」

 そう気遣いをしてくれた運転手に頭を下げると、

 会社の門を潜らせ社長室を一人で目指します。秘書も従えず無人の建物をさ迷うこと10分、ようやく見慣れた部屋にたどり着きました。

向かうべき場所は分かっていました。入って左の棚の中、探すは一冊の本。子供が乱暴に扱えるよう厚手の紙によって作られた「それ」のタイトル、「子熊とはじめての冬眠」のタイトルを探し終えると、私はそれを抱えてわんわんと子供のように泣いて、思い出の奥底から蘇って来る失ったものを数えることしか出来なませんでした。

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