第四章 父との話し合い⑥
さて……私のスラム救済計画だが、かなり無茶なものである自覚はある。
スラムの人だって、スキルの秘匿くらいの常識は持っている。
だから説明会では、
「そんなの……私たちの立場じゃ、選ぶ余地もないじゃないか!」
と言われるかもしれない。だが、そんな我儘を言う奴は、こちらからお断りである。
そういう奴に限って、他力本願な奴が多いのだ。厳しいようだが、取捨選択はさせてもらう。
新しいことを始めることに伴う責任は、
あぁしかし……なにをするにもお金お金お金!やはり先立つものは金である。
「お父様、私は今回の話し合いで、やはり財政難の見直し……金策が必須だと痛感しましたわ」
ガーディア領の名産品などの案も浮かぶが、とにかく今は、領内をどうにかしないといけないわけだ。
「確かに領地を立て直すには、財政の見直しが一番だろう。そして、親として子に頼るのは情けないが、前例を作ってしまったしな」
そう言って、ニヤリと笑う父。さっきのスラムの全権譲渡の件かな?
「カティアの力があれば百人力だろう。だが私は、カティアが商業ギルドに提案する商品を、見たことがない。調味料は、他の商会でも販路があるのだ。スラムの件を任せたたが……他を圧倒するなにかがなければ、そう簡単に金策など……生易しいものではないぞ」
「あら、お父様。お言葉ですが、お父様は私が何者か忘れましたの?」
私自身の力じゃないけど、ちょっと自信ありげにドヤって見せる。
「何者ってそりゃ……はっ!?……そういうことか。カティア、お前は前世の知識を武器に、商会を興す気だな?」
隅に置けない奴め……みたいな、ニシシ……とした顔で見られてもな。私の武器は、スキルを除外すればそれだけである。
「御名答!せっかくですから、その一部をご覧にいれますわ。今日のおやつ休憩は、お母様と過ごされまして?」
「……あぁ。カティアのことも気にしておったから、報告がてら一緒に休憩することになっている」
情報の共有ですか。
それがどうした?とばかりに首を傾げる父に、私は、父の『商業ギルド登録に足る商品』の一つを試食してもらおうと決めた。
「お父様に二つお願いがありまして……」
「カティアのお願いか……なんだ?」
多少頬がひきつっている父の気持ちも分かるけど、いい加減、さっさと私に慣れて欲しい。
私は、甘味の試食を作る為の厨房使用許可と、裏庭の畑や温室の設置許可を貰うため、口を開いた。
「調理場の使用許可を下さいな。冒頭で申し上げた甘味を作ってまいります」
「カティアはまだ五歳だ。火の扱いは危ないだろう?」
「アリサがおりますもの。調理の火は、彼女に手伝って頂きます。厨房の隅っこで構いませんわ。料理人の方たちも、夕食作りで忙しいでしょうし」
「うぅむ……」
父はカティアを心配しているが、私は引く気はない。母を味方にしたとはいえ、父にも気持ちよく納得してもらいたいから。
「……分かった。おやつの時間の試食ということは、昼食後から作るのだろう?料理長のワイズには、私から話を通しておこう」
「ありがとうございます!必ず『美味い』と言わせてみせますわ」
「甘味はあまり好きではないのだが……異世界の料理は興味は興味がある」
「ふふっ……そうですわ。異世界の料理です」
「承知した……それでもう一つはなんだ?」
父よ……だから、恐る恐る聞かないでよ。
「もう一つめは、屋敷の裏庭の使用許可を頂きたいんですの。甘味の材料である調味料の砂糖を作りたいんですの」
「砂糖を作るには、広大な土地が必要だぞ?確かに裏庭は森に面した場所で、あまり使っていないが……そこまでの広さはない」
「お父様の仰っている農産物は、砂糖イネですわよね?」
こちらでは
「……砂糖イネ以外に、砂糖が採れる植物があるというのか!?」
「……それはまだ秘密ですわ。ケイトに聞けば、まだこちらでは知られていない情報したの」
シーと唇に人差し指をやれば、父は少し困った表情をした。
「家族に秘密とは……まだ五歳なのに、やはり女は女なのだな」
嘆きながら「成長が早い」とボヤく父に、私はうげぇと表情を歪ませる。(泣き落としかよ……)とカティアは思うが、これがマジの、愛娘への愛だったら恐ろしい。
「お嬢様、顔、顔」
後ろから聞こえてきたアリサの小声に、私は頬をマッサージして凝りをほぐした。
「とにかくっ!栽培に成功すれば、ちゃんと披露致しますわ。それにアレも、栽培、加工の工程が大変な作業なのに変わりありませんわ。栽培、収穫は良くても、加工の試行錯誤でどこまで純度をあげられるか。その手立てが得られれば、事業として、領都周辺の村への業務提携も考えておりますの……それで、裏庭の使用許可は頂けますの?」
ちゃんと先々まで考えた計画であることを説明して、父に返事を促す。村で仕事が増えたり、辺境伯領の特産品が出来れば、御の字だからね。
「仕方ない。商業ギルドに登録が免れんのならば、いずれどこからか探りも来よう。それまでに、しっかりと警備体制を整えんといかんからな。その為には、カティアのアレを栽培成功して、前例を作ってもらわなければな!裏庭ぐらいいくらでも使ってかまわん」
「ありがとうございます、お父様!」
私はお父様の返事を聞いて、言質ゲット!とにんまりするのだった。
「あっ!午後の厨房にいる料理人たちの箝口令を、お願い致しますわ」
商品の試作品を作る場で、商会を興す前から情報流出とか笑えないからね。真剣な顔で父が頷いた時、
「ゴーンゴーンゴーン」
と、お昼を報せる鐘が鳴り響いたのだった。やっぱり、午前中だけでは時間が足りなかったなぁ。
「お父様、どうやら時間切れですわね。気になるとは思いますが、おにぃ様のスキルについては、また後日に時間を取って頂けますか?」
「ぬぅ……仕方ない。とても気になる言葉だが、時間がないのも事実。出来るだけ早く時間を設けるとしよう。決まり次第、シルベスタを報せにやろう」
「承知しましたわ。ヴィクター、貴方はおにぃ様のところに行って『今日は、おにぃ様の話まで詰めれない事態発生の為、おにぃ様の話は次回に持ち越しです』って伝えて来てちょうだい」
「畏まりました」
ヴィクターは、一礼して執務室から出て行った。それを見送ってから、私は父に視線を戻した。
「お父様、アードルさんに渡すトイレの『着工許可証』を頂けますか?」
「そうだったな。なぁ、カティア」
シルベスタに視線で合図しながら、私を呼ぶお父様。その声に、少しだけ張り詰めたような音が感じられるのは、気のせい?
「……なんですの?お父様」
「お前は簡単に、領民やスラムへの支援を訴えるが、どんな構想が頭にあるんだ?カティアも嫌と言うほど身に沁みしているだろうが、支援には金が莫大にかかる。領地の整備でも同じことが言える。もし、神から与えられた固有スキルがなければ、どうするつもりだったんだ?」
「私の構想については、後ほど書面に纒めて、次回の時にお渡ししましょう。最後の質問ですが、私にすれば愚問ですわ!」
「どういう意味だ?」
「もしスキルがなくても、出来ることから探して、少しずつ改善していくに決まっていますわ。その道が困難なものになるのは目に見えていますが、皆がいればきっと大丈夫ですもの!」
個の力は微力でも、皆が集まれば、その可能性は無限に広がる。それに中世的レベルの世界で、自分がどれだけのことが出来るか……という知的欲求もある。
「あっ、もちろんですが、皆とは領地の人=みんなですわよ?」
♢
カティアはそう言って、大輪の花のように微笑んだ。
(神よ、貴方の力は偉大だが、カティアはそれがなくても、世界の進歩の一助になったのではないだろうか?)
ガスパールは人知れず、そんなことを考えていた。
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