第四章 両親それぞれのご乱心(ギャグ回?)

 謎の勢いで書き上げてしまいました。後悔はありません┌⁠(⁠・⁠。⁠・⁠)⁠┘⁠♪



「お父様、今日はよろしくお願い致します」

「う、うむ。まぁ、座りなさい」


 なんだろう?少しおどおどしているお父様に、私は首を傾げる。


「一つ聞きたいことがある」

「なんでしょうか?」

 

 んんっ!と咳払いをして、口を開いた父から出た言葉に、私は笑いざる負えなかった。


「ファルチェの肌がきめ細かくしっとり吸い付き、髪がとても艷やかになっていたが、あれはカティアの仕業か?」

「…?どういう表現の仕方を5歳児にしているんだ!と怒るべきですか?それとも、策略に嵌りましたわねと、ほくそ笑むべきですの?」


 笑いを堪えてぷるぷるなりながら、言葉を紡ぎ出す。


「昨夜は大変だったんだぞ!?私は今日の為に、早めに休むつもり『お館様!それ以上はいけません!』…えぇい、止めるな、シルベスタ!カティアのあのニヨニヨ顔を見ろ!絶対に狙ってやったに決まっている」

「お館様、カティアお嬢様は、ニヨニヨなどしておりません!」

「外面ではない!内面の話だ」


 え〜?なんのこと?淑女たる私の表情は、至ってすまし顔である。どちらにしろ、シルベスタに無理強いするな、父よ。


――事は昨夜に遡る。


「取り敢えず、お母様が早々にお父様に伝えてくれたおかげで、面会が早まったんだもの!お礼が出来て良かったわ!」

「…報酬サービス?の質問が目的じゃなかったんですか?お礼とは?」

「シャンプーとリンスとボディソープとフワッフワタオルを、見本を理由に渡したのは、お母様に幸せお風呂タイムを満喫してもらう為よ!」


 お風呂上がりのお母様の肌に、ベッドライトが反射する!光沢がある肌に変身した艶かしいお母様の身体は、さらに光り輝く!その様は、さながら女神の神々しさを醸し出すだろう!それを見たお父様は、浴室石鹸グッズの威力を思い知るだろう!面会前の、商品予定の効果を知るには丁度いい衝撃力だ。こういうのは、思わぬ場所で知らしめる方が、効果は抜群なのだ!グフッ…グフッ…。


「……狙いは、本当にそれだけですか?」


 私の含み笑いに、胡乱げな視線を投げかけるアリサ。失礼なっ!私はまだ見ぬ商会立ち上げの為に、人肌脱いだだけだもの!


「それだけよ!お父様に恩を売ろ…ゲフンゲフン、ビックリさせたいなんて、一ミリも思ってないわよ?」

「一ミリとはなんですか?」

「…あぁ。これっっっくらいの長さを、一ミリと言うのよ!」


 私は目を細めて、親指と人差し指をくっつけないように調節する。これ、くっつくかくっつかないかの瀬戸際で、手が震える〜。


「お嬢様がなにを考えているのか、よく分かりました」

「実にえげつないやり方ですね……。これから、5歳児の貴族令嬢だからと、見た目に騙された人たちの末路が、目に浮かぶようです」

 

 ヴィクター、貴方の次回の賞与査定を楽しみにしているといいわ。

 カティアは賞与する気満々だが、まだなにも決まっていない。しかも、その考えは、めっちゃ私怨込みである。


「もう…失礼ね。こんな可愛い銀髪幼女を捕まえて!……いいじゃない。別に私は、閨のお膳立てをしたわけじゃないもの。百貨店の商品の素晴らしさを、お母様で証明しただけだもの」


 その後の行動は、本人次第じゃない?知らんけど。大人の方は、自己責任で行動をお願いします!


 なんて話していると、ドンドンドン!「開けなさい、カティア!」

 と、母の怒涛のドアノックが響いた。


 あの温厚な母の珍しい行動に、私とアリサは顔を見合わせるが、ヴィクターは冷静にサッと動き、ドアを開いた。


「おかあ『カティア!何故こんな素晴らしい物を、私に先に渡さないの!?』…は?」

「こんな素晴らしい石鹸は、王室に献上しなくちゃ!…あぁ!?どうしましょう!私が先に使ってしまったわ!」


 完全に錯乱しているな、これは。母をよく見てみれば、簡易なワンピースだが、髪がふんわりしている。きっと、湯浴み後に慌ててやってきたんだろうな。ふとそこで、私に悪魔の尻尾悪戯心が芽生えた。


「…お母様。それを使ったのは、この世界でお母様が初めてです」

 

 私がコソッと囁やけば、彼女は妄想に入った。


「私が世界で初めて?美容の第一人者として名前が残っちゃう?…いいえ、駄目よ、ファルチェ。娘の功績を取るようなことをしては……はっ!?そうよ!私はこれを王室に献上する為に、登城しなくてはいけないわ!……カティア!」

「はい!」

「この石鹸類は、商会で販売予定なんでしょう?」

「はい、そうです。販売前に、アリサ達から感想を聞きたくて『それはまだ駄目!』…はい?」

「先に王妃様へ献上してからよ!でないと、石鹸類の扱いが分からないもの!」

「…扱いが分からない?……どういうことですか?お母様」


 饒舌だったお母様は、私の声音が低くなったのを感じたようだ。


「…あっ、そのね?別に独占するつもりはなくて…」


 興奮していたお母様が、気を持ち直したようだ。あわあわと、言い訳をする様は珍しい。


「分かっています、お母様。この素晴らしい商品を、王妃様にも使って頂きたいという敬仰けいぎょうな思いからなんですよね?」

「そうなの!私と王妃様は、学年が一緒で、共に学んだ仲なのよ!」

「つまり、お友達ですか」

「そうなの!…あぁ、この石鹸について、早く教えてあげたい!」


 なるほど。女子によくある共有感ですね。しかもそれを共にする相手に、王妃様を選ぶとは…立場もあるでしょうけど、親友的立場でしょうかね?


「お母様の気持ちは分かりました。ですが、お父様の許可なしでは、商業ギルドに登録出来ませんし、石鹸も卸せません」

 大きな商い…個人での売買は、商業ギルドで禁じられていますし。相手が王族では、流石に不可能だ。つまり、王妃様に石鹸を献上するには、商業ギルドの登録が不可欠。


「…っ!!絶対に認めるように、ガスパールを説得するわ!」


 フンッと鼻息荒く、決意を込めるお母様のなんと頼もしいこと。いつの世も、まつりごとの裏に女性の影ありってね。



「思っていたような展開と違ったけど、結果オーライかな?」

「……やっぱりなにか企んでたんじゃないですか」


 お母様が去っていった後の私の呟きを、げんなりした様子で聞いたアリサであった。



――――



「それにしても、お父様のこの狼狽えよう……お母様ったら、どういう説得の仕方をしたのかしら?」


 私の呟きを逃さず聞いた父は、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、

「…っ!?…やっぱり二人で結託してやがったな!?」

 などと、悔し紛れのように吐き捨てる。


「ふっ…」

「あっ!?鼻で笑いやがったな!?コノヤロー!」


 罠に嵌まるのが悪いのだ。しかし、ここまで勘に障っている父も珍しい。本当に、母はどんな説得をしたのか?


「お館様、言葉遣いを気をつけて下さい!」

 シルベスタは、今日も通常運転である。



―――後日談。



「お母様、お父様が偉く喚いてたけど、どうやって説得したの?」

「え?どうやってって……そりゃあ、あの手この手でね?」

 ふふふ…と意味ありげに微笑む母を見て、(あっ、これ以上聞くのは野暮だ)と、瞬時に理解するカティアであった。


 そりゃ、父も男のプライド形無しだわ。沽券に関わるってか?事後の絶望的な表情が目に浮かぶ…成仏してね、父よ←死んでない。


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