えっちで可愛い魔法使いの男の娘は嫌いですか?

柴又又

序章 Fool of me

第1話 Head

 唐突だけどぼくは転生した。

 年の頃は十八ぐらいだったと右上を見る。

 気が付いたら無数の扉がある空間の中にいて、同じように流れていく人のような何かを眺めていた。

 みんな、あれだ、同じ扉に入って行くやん。おいらは唯一無二、唯我独尊憲法アチョーの使い手。別の扉に入ってやろうと別の扉に入ってしまった。特に深い考えはなかった。

「うひょーい」

 って奴だ。男なら、やってやれ。

 扉に入ると真っ白な女性体と認識できる陰影があって驚いたのが動きでわかった。

 声にならない声で陰影は自分を女神だと言った。うひょー女神最高。女神最高。と一人と一柱でひとしきり盛り上がった後、自称女神が教えてくれた。

 自称女神って言うなって。

 いや、違う違う。そうじゃなくて、みんなが入って行ったのは地球に転生するための扉だったらしい。通りでみんな一列に並んでよいしょしていたわけだ。

 まぁあれだ。

(なんだ?)

 まぁいいや。

 この扉の向こうにあるのは自称女神様が作った世界なのだそうだ。

 君みたいにちょっと尖がったひとりんボーイやガールがやってくると言われた。

 イラり☆。

 ちょっとイラッとしてしまった。

 自称女神様が言うには、女神様が一から十までの全ての事柄物事を魔力と言う概念を用いて創造し作り上げた世界なのだそうだ。これだけ言えばもうわかるよねと言われた。何がやねん。何なの。

 ちなみにぼくは多分関西圏の人間ではない。ごめんね。うん。ごめん。もう似非関西弁は我慢するね。ほんとすまんね。煽っているわけじゃないんよ。ほんとすまんね。すまんねぇー。

「君って馬鹿なの?」

 って言われてクワッてなった。

 こちとら偏差値九十五やぞ。舐めるでない。

 じゃあ、ほら、君にこの二つの魔術を上げると言われた。

 一つは解析。

 一つは分解。

(後はもうわかるよね?)

 と言われて頭にハテナを浮かべた。

 創造は特権だから。作りたいなら自分で作ってねと言われた。

 まぁ要約すると女神の作った世界には魔術と言う図式があり、全ての物を女神様が魔力で一から作った世界で、魔術とは女神様が世界を作る時に使った設計図の一部を再現するものだから、再現できれば同じ事ができるよって話しらしい。

 じゃあ、楽しんで。

 女神はぼくにそう言った。

(最後に一ついいですか?)

 とぼくは女神に聞き返す。

 いいわよと返す女神様に、キスして欲しいですと言った。

 女神様は微笑むような仕草をした後、キスしてくれた。

 ほっぺだと思っていたら口だったので思わず両手で掴んでキスしまくってしまった。

「良い旅を」

 艶めかしく舌を出す女神にそう言われた。

 クソう舌は入れられなかった。めちゃくちゃ気持ち良かった。

 そうして気が付いたらぼくは男の子だった。

 物心がついていた――赤ん坊と言うのは古い記憶を削ぐ場なのかもしれない。

 一人で立ち一人で歩けた。建物の中で光が眩しかった。何処かゲームの中で見た一室を彷彿とさせる白い石の壁。掘られた彫刻に指を這わせると滑らかで冷たく光沢を浮かべていた。

 空気を感じた。吸って、吐いて、吸って、吐いて――呼吸すら忘れていたと自然に笑みがもれた。

 ただ着ていた服は気に入らなかった。なんだこの、なんだッ。このッ、なんだこの。なんだ。この服は。何かのお祝いなのか戴冠式でもやるのか、仰々しい服装に飾りがガチャガチャしていて鬱陶しかった。

 入って来たメイド服の女性がぼくを見つけると目を吊り上げ、続いて来たメイドがぼくの両脇を掴んで抱えると連れていかれた。いや、この移動はマジで楽ですぞ。

 連れていかれた先には金髪のイケメソがいて、指を差されて唾とよくわからない暴言を浴びせて来た後、ケツを棒でしこたま叩いてきた。この野郎。ケツがッ。お尻が割れる。

 終わった後、放り込まれた部屋の中で尻の痛みに悶えていた。

 あっいたい……マジでケツが痛い。こんな、ひどい、ケツ、こんなオケ痛に会うなんてひどいよ。玉のお尻が……。いあ、まだ見たことないけどさ。

 なんで男の子ってちんこはあるからさ。股間の感触がね。ぶらぶらとね。

 いや、待って、この世界ではちんこがあっても女の子かもしらん。

 はっ……ぼくは重大な事実に気づいてしまった。

 ぼくはいま、もしかして、女の子かもしれない。

(きゃーあたい女の子ダワ。あー世界の真理に到達してしまったわー。黄色い声だわー。あー才能が怖い。この才能が、いずれ世界を混沌の闇に沈めるのだ?)

 そしてうつ伏せのまま、床がひんやりしていて気持ち良かった。

 しばらくそうしていたら、見張りかなんかの声が聞こえて、何となくぼくの事情がわかってきた。

 どうやらぼくはハイレンジア王国ハイレンジア王家の王子らしい。まぁ王子と言っても六番目の王子で偉くも痒くもないらしい。

 ぼくのケツを叩いた奴はこの国の第四王子。

 ぼくの母親は第三寵姫で隣国のお姫様だと言っていた。

 ママ何処ママって芋虫していたけど、どうやらママにとってぼくはどうでもいい存在のようだ。と言うのもぼくには兄が一人いて、第一王子だ。

 寵姫と言っても隣国から贈られて来た側室で正妃は別。

 正妃には第二王子が、一つ上の位の第二寵姫には第三王子、二つ上の位の第一寵姫には第四、第五王子がいてなかなか複雑な作りになっているらしい。

 めんどくせーなおい。

 つまりこの国は跡継ぎ問題でだいぶやべー事になっているって話だ。

 隣国としてはこのまま第一王子に王位を継いで欲しいけれど、自国を蔑ろにする王位はダメだと正妃の第二王子派が争っている。

 おいらのママはクッソ美人みたいで本当は王の寵愛を一番に受けて愛されているけれど、隣国のお姫様だから正妃にはできないし、寵姫としても扱いは三番目だよと言う話しで、もう正妃がキレまくりのようだ。ぼくでもキレる。お尻もキレる。

 はっ……気づいてしまった。はりの痛みってじのいた……なんでもない。

 危なかったー。世界の真理に触れちゃうところだった。

 王が第三寵姫ばかり相手にしていたら他の女性達がブチギレル。だから他の女性の相手をして子供を産ませたのでまた第三寵姫を愛でるよね。結果ぼくが生まれたよねって話。

 まぁつまり、いらん存在よなって話。

 そして第三王子に見つかって何もしてないのにうろついていただけでケツをしこたま叩かれたというわけだ。第四王子だったかもしらん。

(おめぇのケツも三つに割ってやるから覚悟しとけよ‼)

 女神様の言った話が本当なら魔術があるっぽいし、まずは力を付けないとどうにもならんばい。

 こうしてぼくの異世界生活が唐突に始まった。


 結果的に魔術はありました。

 ただ女神様が言っていた魔術体系とは少し違うようで、魔術と言うものはあるけれど、その根本が理解されておらず、魔力があって唱えれば使えるものだ。ぐらいの認識しかされていなかった。

 魔力を使って、女神様の世界創造の一旦、設計図から現象や物を再現するのが魔術だよってそう言う考えはなかった。

 ていうか宗教がね。うん。なんかね。うん。男女の神様がね。世界を作ったってね。うん。そういうことにね。うん。なっているらしいんよね。うん。なんかね。難しい話だよね。


 まずは女神様から授かった解析と分解を試してみた。

 対象を認識して解析と頭に浮かべるだけでいい。ただ正直言って普通の物などを解析によって扱うことはぼくには難しすぎる。石一つとってもプログラムのような文字の羅列がびっしりと並び、文字列一つ一つが石を構成する何かしらの意味を持っている。

 これを一から全て理解するのは人間にはおそらく無理だ。女神様もそれをわかっていたからぼくに解析を与えたのかもしれない。決してぼくが馬鹿なわけじゃないんよ。ぼくが理解できないからいいやって話じゃないんよ。そうだよね。絶対にそうだよね。絶対そうだよ。確信。

 偏差値95だからね。天才だからね。仕方ないね。

 解析するのは無理だけれど、解析した文字列をそのまま利用して魔力を使い、全く同じ石を複製することは出来た。ただ文字列が多いほど消費する魔力が多く、また再現するまでに時間もかかる。手の平サイズの石を再現するだけでも一日かかった。効率的に最悪だ。

 しかも再現した石は魔力の注入をやめると消えた。なんでだよ。こんなのあんまりだ。

 他の魔術に関しては少々異なった。魔術を解析すると数列の文字列しか現れない。

 おそらく魔術は人間が扱いやすいように最適化されている。

 真っ先に解析したのは回復魔術だった。

 回復魔術は三列の構成しかない。ただ別に解析しなくとも回復魔術は使えてしまう。解析する意味があるのか謎だ。

(分解に関してはもううううううう‼ 女神、お前、このッバーロッ‼ ほんとそういうとこだぞ‼ 女神ほんと‼)

 分解ってマジで分解だった。

 物質や現象を全て魔力に分解する。例外なく全て分解できる。何なの。馬鹿なの。なんでこんな危ない能力を与えるのか謎。違うでしょ。そうじゃないでしょ。

 使い道がわかんない。

(何に使うの?)

 何も生み出さないんだけど。

 ちなみに生物も分解できてしまう。本当に怖い。

 ごめんダンゴムシ。ダンゴムシっぽい変な虫、本当にごめん。ただ魂っぽいものは分解できないらしい。ミミズっぽい生き物もごめん。ミミズごめーん。

 ちなみに生物を解析して全く同じ構造の物は構築できる。ただ動かない。まったく同じ構造を持った物みたいに構築させてしまう。

 しかし……魔力を使って操る事はできる。

 でも魔力の注入をやめると消える。だからなんでだよ。

 人間みたいに複雑な物は消費魔力が多いのか、時間があまりにもかかりすぎてしまうのか作り出すことができなかった。

 解析の有効的な使い方はやはり魔術全般に関してなんだと考える。

 回復魔術を習得して色々弄る。それでわかったのだけれど、怪我をした人間を解析すると欠損した部分がある。より細かく解析するには人間全体ではなく、パーツパーツに分けて解析を行った方が良いみたいだ。

 解析的に見れば、回復魔術とは欠損した部位を補完するプログラムのように見える。プログラム的に見ればという話しだ。

 現実では皮膚や肉や骨、神経など複雑に絡まっており、そうたやすいものではないけれど、プログラム的には簡略化されている。

 魔術で傷を癒すという行為は、欠損したプログラムの文字列の文字を継ぎ足し修正し、元の正常な文字列に戻す簡略化された修復プログラムのようなもの。と言う事になるのではないだろうか。それがわかった所でそれが何って話しなわけだけれど。

 ぼくのおつむが弱いわけで、じゃあ、おつむの能力を上げようかと脳を解析して色々弄ってしまった。なんかやべぇことしたかもしれない。


 脳に関して、ぼくはこの時、自分が何を弄ったのかよく理解していなかった。結果的にそれはとてもよろしくない事になる。この脳を弄った結果によってぼくはネオテニー化してしまった。ネオテニーとは幼形成熟のことであり、ぼくの体の成長は中学生ぐらいで止まってしまった。不完全(遺伝子配合)を完璧に再現したプログラムを弄ってしまった。

 さらに女性ホルモンが増大し、男性でありながら女性化を促してしまう事にもなる。

 この結果、ぼくの外見は遺伝子に沿ったマッチョでイケてる男性から、ちんちくりんになってしまった。

 ネオテニー化と難しい事を言っているけれど、早い話が早熟だ。


 でも自分の体を弄ったおかげで、人間の構成にはある程度の理解度を得た。

 色々なものを解析しながら過ごす生活は楽しかったけれど、この頃ぐらいから虐めに拍車がかかって来る。

 主に使用人によるいじめだ。

 足をかけられるとか、押されるとかは結構ある。後は嫌味や陰口もある。露骨なので陰口ではないのかもしれない。食事を弄られたこともあった。

 第三王子からのイジメも露骨になってきた。

 訓練と称して木剣でボコボコにされた。危なかった。回復魔術が使えなければ即死だった。

 背後を向けた王子の脳天に木剣を叩きつけてボコボコにしたら幽閉された。

「ちょっとまって‼ 違うの‼ 違うのー‼ 背後向けた王子が悪いのー‼ あたい悪くないのー」

「何をしたのか理解しているのですか⁉」

「は? やってやったぜ‼ それがどうしたざまあみろ‼」

 母親の使いだと言う使用人が来て折檻された。

 ぶっちゃけ言うと正妃+第一寵姫+第二寵姫vs第三寵姫の構図に見えて、第一寵姫と第二寵姫にも思惑があるらしくめっちゃ複雑だ。

 今回はぼくが第三王子をボコボコにしたから、母親はこの件で揚げ足を取られる形になって責められた。

 ぼくの行いをうまく利用されたと言うわけだ。

 使用人複数が大声で罵声を浴びせ、ぼくの腕を掴み、しなる棒で足や尻や腹を叩かれた。

 母親もオカンムリらしい。

 分解を使って全員の服を分解して真っ裸にしたら全員部屋から出て行った。

 さすがにやりすぎたかもしれなくて、ぼくは離れに移される事になった。いや、本当はそのあとに庭でミミズをしこたま掴まえて母親の部屋に放り込んだのがダメだったかもしれない。ほんのジョークなのに。

 いや、違うかもしれない――ぼくの婚約者としてどうかと紹介された女の子がいたんだけど、隣国のお姫様とか何とかで、容姿は整っていたけれど、性格がクソだったのでミミズを両手に沢山持って追いかけたら婚約はお破産(破断)になった。これが原因かもしれない。

「あなた、うまになりなさい‼ はやくうまになりなさいよ‼」

 思い出すだけで耳がキンキンしてくる。

 いや、まって、もしかしたら父親の襟首にミミズをしこたま入れたせいかもしれない。だって父親がマジクソなんだもん。面倒くさい事からは逃げて寵姫のとこに通い詰め、ほとんどの祭りごとは母の一族が取り仕切っていた。もう乗っ取りですぞ。正妃激怒なんですけど、もう泣いてるよ。本当に可哀そう。

 いや、違うか。新たな婚約者として紹介された公爵令嬢の服の中にミミズをしこたま入れたことかもしれない。だって高飛車で腹立ったんだもん。ぼくがゴキゲン中飛車だバーロー。

 関係ないけどミミズだと思っていた生物は、アシナシトカゲと言うトカゲらしい。

 他にも王宮には珍しい生き物が飼われていて、データーだけはとっておいた。

 ぼくは頭のおかしい子供として離れに移され監禁された。

 まぁ、王になんてなりたくないし、その内、身内同士の争いを避けるため、廃嫡もされるはずだ。廃嫡が合っているかどうかわからないけれど、王となる資格を剥奪される事は決まっている。

 兄の代わりにはなれない。血は繋がっていても、ぼくは第六王子だからだ。

 兄が死んだからと言って代わりに担がれることもない。だからこそ母は兄に神経質なのだと考える。

 もし万が一兄に何かあったのなら、ぼくは間違えなく暗殺されるだろう。

 こうしてぼくは離れに軟禁されてしまった。

 離れはちょっと古い建物で木造、使用人は一人。周りは雑草だらけで手入れもされていない。ここから出ないように言われた。

 出るって言っても谷底にあり、周りを崖に囲まれていて、入り口は一つしかない。その入り口にも見張りがいて、ここから出るなんてどうやってと言う話しなのだけどぼくは出られる。出られるよ。だって魔術使えるし。

 一人の使用人がぼくの世話係兼見張り役として配属された。

 とある侯爵家の三女だと紹介された。

 彼女は口を利くことのできない用に魔術で脳に楔を穿たれていた。

 ぼくなんかのために可哀そう。ほんとすまんね。すまなすぎてすまない。

 金髪碧眼、肌は白く、落ち着いた佇まいだった。

 抱き着いても怒らない。胸に顔を埋めても彼女は怒らなかった。スカートをめくってもパンツの上から股間に抱き着いても彼女は怒らなかった。少し困った顔をするだけで、興味が少し出た。

 前世の記憶はあまり無いけれど、ぼくに女人の知識はほとんどない。

 少し良心が咎めるけれど、それよりも知的好奇心と欲望を抑えることができなかった。

 そして重大な事実に気が付いた。

 ぼくはどうやら女の子ではないらしい。

 ブラのようなものはなかったので服の上から胸に吸いついてみたり、喉にキスしたりして過ごした。

「おっぱいみせてー」

 そう言うと彼女は服をたくし上げて胸を見せてくれた。表情が少し戸惑っていて、それが可愛らしかった。セクハラおじさんだった。最低だぞお前。でも待って。落ち着いて。もしかしたら、ぼくは女の子かもしれない。

 もしかしてシュレディン……あっ怒られそう。

 しかし見たことの無いタイプの乳だった。これが美乳と言う奴なのかもしれない。

 彼女の仕事は忙しい。

 朝から水を汲みに行き、ぼくの朝食を作り、洗濯掃除をして、午後になったら街に買い物へ。ぼくは街に出られないけれど、彼女は必要な物を街に買い出しにいけるように手配されていた。

 だから朝からセクハラしながら一緒に水を汲み、一緒に朝食を作りながらセクハラし、洗濯掃除とセクハラし、買い物中は魔術の研究、帰ってきたらセクハラして過ごした。ほぼセクハラだった。

 夜、疲れた彼女をベッドへ横たえさせて、胸を気が済むまで堪能させてもらった。ついでに解析魔術で彼女の体を解析、回復魔術と併用して疲労に関する知識を開拓した。

 最初はくすぐったそうにしていたけれど、何日かすると口元を手で押さえて顔を隠すようになった。彼女からは何時もハッカを少し苦くしたような匂いがしてそれが好ましかった。

 小さなおっぱいを堪能させてもらった。

 別の日にはパンツ越しの股間に口を当ててフガフガしながら過ごした。

 なんだろう。キスって気持ちいい。ぼくは彼女の体のあらゆる所にキスするようになった。

 手の甲や足の裏など、隅々までキスをする。音を立てて何度もキスをする。キスをするのが気持ちいい。でも口だけは避けた。

 股間に顔を一晩中埋めて過ごした日は多い。

 ずっとキスしたり、舐めたり吸ったりしながら過ごした。たまに彼女の体が跳ねて、我慢するように震えていた。それがまた一段と可愛らしかった。跳ねて震える様子が可愛らしい。

 解析も行っており、脳に関するダメージを確認した。神経系統の仕組みなどをより詳しく理解することが出来た。

 解析も進み、脳を立体的な映像として捉え、何がどうのように起こっているのかを視認できるようになった。脳の形、初めてみた。ぼくの脳と彼女の脳は似ているようで大きく違う。

 でもこれ、彼女にとっては地獄の日々の始まりだったのかもしれない。

 彼女の家事を邪魔して過ごした日もある。

「今日は一日中、キスさせて」

 そう言い、彼女の体に一日中キスして過ごした。服の上からでも全身にキスした。白い肌なのに、顔が赤くなるほど血が頭に昇っていて怒っているのかもしれない。でもそれが可愛かった。

 彼女の全身を舐めまわした。

 脇の下も、耳の裏も、もう全身キスしていない場所を探すのが難しく、舐めていない場所を探すのが難しかった。

 行為に満足して行為をやめると、すぐに肌寂しくなり抱き着いて行為を繰り返した。間違っても本番はしていない。彼女は嫁入り前だもの。

 秘所に一晩中キスしながら過ごすのは脳が蕩けそうなほど気持ちよかった。

 最初は普通に臭いと感じていた匂いも、慣れてくると好きな匂いに変わって来る。彼女の体が痙攣するのも面白いし、その時の彼女の表情がなにより可愛かった。

 朝を迎えると彼女は虚ろな目をし、口を半開きにして失神していることもあった。

 膝の上に乗せて丹念に彼女の体を回復魔術で補っていく。治していく。もっときれいに、もっと丹念に、もっと繊細に、壊れたものを治せば直すほど、より綺麗に治せるようになっている気がした。

 それらの結果から回復魔術を二つ作ってみた。

【継いで補修する】

【継いで再生する】

 解析から人体とその回復に使用される回復魔術の文字列を組み合わせてこの二つを作った。

 文字列を直線とし、その直線を利用して新たな文字を形成、複雑な意味を複数持った一つの直線を生み出す。

 ぼくが作った魔術をぼくが使うには条件がある――このままでは作っただけで使えなかった。これを解析したぼくの脳の記憶一覧(海馬)文字列の中へ埋め込んで記憶し初めて行使することが可能になった。

 女神様の作った回復魔術は完璧で完璧に最適化されている。

 だから作っておいて何だけど、これを作った意味がわからない。

(なんでなんで? なんで作ったの?)

 これがわからない。 

 膝の上で目を覚ました彼女は恥ずかしそうにお風呂場へ。ついて行き、お湯を魔術で作って体を万遍なく洗った。肌を寄り合わせて手で彼女の体を丹念に洗いながら揉み解す。

「ぼくに見られるのに慣れて?」

 ぼくに見られるのには慣れて欲しい。

 解析の理解度は進んだ。

【継いで補修する】は怪我などの欠損が続いている細胞より繕い修復、復元する魔術。

【継いで再生する】は切れた腕などを根本から繋いだ細胞情報を元に再生、復元する魔術だ。

 この二つの魔術はただの回復魔術と違う。細かい調整や肉体情報を遺伝子レベルから修復する魔術だ。

 骨盤のズレや神経の痛みまで丹念に修復、再生する。体の細胞を入れ替えたり癖により生じる体の歪みを正す。

 彼女の白かった肌は血行が良くなることで赤味が増し、柔らかく温かみのある色へと変わっていった。血行の良い肌色だ。

 愛でても良い。愛でても拒否されない。受け入れられるというのは良い物で、綺麗になった彼女を座ったベッドの上で後ろから抱え、ひたすらキスや愛撫で愛で続けた。

 くっついているだけなのにぽかぽかする。

 どうやらぼくはやっぱり男の子のようだ。ちんこあるしね。仕方ないね。ちんこあるからね。

 魔術の研究は進み、中空に水を留めてお湯に温め、回して汚れた衣類を放り込み丸洗いする魔術を作った。【中空で踊れ】。

 彼女の生理現象時や気圧の変化によって生じる片頭痛より脳に受けるダメージと痛みを解析し、人の気分や気持ち、頭痛などを癒すオーラを全身から放出する魔術を作ったりした。【依存して】。

 特に【依存して】を発動しながら彼女を愛でると彼女は蕩けるような表情で眠りにつき、ぐっすり眠るから人にとってかなり効果が高いと踏んでいる。

 身体を向上させる魔術は難しい。

 体の材料が変わらない限り、体を硬化させるには限界がある。と言うよりも無理だ。筋肉をどんなに鍛えても素体が素体である以上斬れる。関節だってあるしね。動きが阻害されていたら意味がない。

 結論から言って空気を纏う事にした。高密度に圧縮した空気を体に纏う事である程度の攻撃を弾き飛ばすことができる。風船を纏っている状態と言えばいいだろうか。ボヨンボヨンだ。風のおっぱッ違うから。違うから。うっふ~ん。【守って】。

 身体能力の向上に【活性化】を覚えて【順応して】で活性化した状態で順応することで体の能力をギリギリまで向上させる。

 この【順応して】がヤバい。活性化した状態に順応してそれが通常状態になる。五感がうるさくなるから過度な使用はやめたけど、匂いに関してかなり敏感になってしまった。

 【順応して】から五感を抜いた。人間の五感は生まれたままより少し鋭敏程度で良いと言う教訓だ。だけど【順応】はクソ便利だ。もうこれだけでいんじゃないかな。順応できるものなら何でも順応できる。


 それにしても彼女の飯は普通だ。

 お昼になると彼女は買い出しに行く。

 崖の入り口にいる二人の見張り、騎士だろうか。

 男性の騎士が一人、女性の騎士が一人いて、二人のうち何方かが付き添って街へ行く。二人とも美形だった。

 街に行った後の彼女の事をぼくは知らない――それが少しモヤモヤする。

 ぼくは彼女を自分の物のように考えて独占欲を働かせている節がある。嫉妬しているんだ。見張りの男と二人で買い物に行っていると考えるだけで焦げるように喉が渇く。

 彼女はぼくの物ではない。彼女には自分の意思がある。彼女の行動や時間を自分の都合でぼくは塗りつぶしている。それを少し申し訳ないと。今更だけれど、脳を弄ったことで何か変わってしまったのかもしれない。

 人と人との付き合いは、お互いの意思でお互いを塗りつぶし合う行為なのかもしれない。

 ぼくは彼女を塗りつぶしている。

 彼女が買い物に行っている間にエレメントについての魔術を研究した。

 一般エレメント攻撃魔術を一度も見ていないぼくに、一般エレメント攻撃魔術を扱うことはできない。

 そもそも魔術とは魔術書から獲得するものなのだと聞いた。

 一度使用された魔術書は消失すると聞いた。

 つまりぼくが脳に魔術式を組み込んでいるのと同じ仕組みなのだと考える。回復魔術は実際ぼくの脳にいつの間にか刻まれていた。

 魔力とは――ぼくは何気なしに魔術を使っていたけれど、無尽蔵という事はないだろう。

 火、水、金……はなんとなく理解できた。

 しかし風は無い。風と言うのは二次的に発生する現象だからだ。空気が物体の移動によっておこる余波。風事態を魔力で作り出す事はできない。

 風を使えない……と言うわけではないけれど。

 元素……元素記号に記載されるような元素があるのかどうか。

 すべてが魔力によって作られた、魔力のみが元素の世界だ。

 火を起こし、水を作り、灯し、穿ち、落とす。

 空間と時間は魔力では干渉できない。この二つは魔力で作られていない。いない……と考える。断定はできない。

 疑似空間を作り、中の時間の流れを遅くしたとして、ぼくがその空間の中に入ったところでぼくの時間の流れは遅くにはならない。この空間の中で遅くになるのは、この空間で生まれた物質だけだ。

 とは言え疑似空間は便利だ。疑似時間は……。

 疑似空間を利用すれば魔力は無尽蔵になる。疑似空間はぼくの一部だからだ。空間と言う概念を解析することはできない。時間も同じだ。

 作り上げた疑似空間という魔術の中の空間に、外界から取り入れた魔力を貯蔵する。

 その空間式を脳の記憶領域に文字列として配置する。空間に無意識が直結して魔力をそこから使うことができる。弄っていて気付いた事だけれど、この世界の人間には元々疑似空間が備わっており、その中に貯蔵された魔力を使用して魔術を行使するように出来ている。

 疑似空間の大きさが魔力貯蔵量に直結しており、遺伝により貯蔵量はランダムとなる。つまりぼくはその貯蔵庫を増やしただけに過ぎない。

 ぼくと彼女の脳を解析したデーターから導きだした答えであり、仮説……の域はでないけれど。

 帰って来た彼女は笑顔で、騎士に手を振り別れていた。

 すごくヤキモキした。ぼく以外に愛嬌を振りまかないで。ぼくを一番に優先して。ぼくの事だけ考えてと独占欲が沸く。勝手な物だ。

 彼女の幸せは彼女が選ぶべきものだ。

 とりあえず背後から抱き着いて引きずられておいた。

 やっぱ飯が質素で普通なんよな。これが悪いとは言わないけれど、薄味なんよね。塩味しかないしね。塩味だしね。しおあじ。

 まぁ食えるだけありがいっちゃありがたいし、作ってくれるだけありがいと言えばありがたい。

 市場を見て買い物を経験していないぼくに、素材の良し悪しが判断できるわけもなく、相場がわかるわけもない。

 配給される金額も決まっているだろうし、その中でやりくりしてくれている。

 すまんね。お金まで出してもらって。今度お城に呼ばれたらせめて大人しくしておこう。

 主食はパン……のようだけど、なんだかトルティーヤ食べているみたいだ。小麦粉ではないかもしれない。

 パンに何か挟んで食べるのが主流のようだ。

 皿洗いを手伝っていたら、頭にキスをされてびっくりした。

 視線を向けると彼女は微笑んでいて、少なくともぼくには微笑んでいるように見える。体を少しだけ密着させながら隣にいた。


 その日の夜に事件が起きた。

 男性騎士が夜中に建物内に侵入しようと試みていた。幸い戸締りはしっかりしていたので侵入されることはなかったけれど、ぼくを殺そうとしたのかもしれない。

 早急に身を守る術を手に入れる必要がある。

 次の日から男性騎士が見張りの日は彼女に傍から離れないように言った。彼女はなぜか少し笑って機嫌が良かった。なんだ。なんで笑っているのだ。ぼくは命がかかっているのにー。ぼくの命はその程度だいやっふー。

 エレメントの中で現在解析できたのは火、水、鉄、光、闇だ。

 闇は闇として存在している。影を解析すると解析結果がでる。影は解析できる。意味不明だ。日陰では解析できない。闇と別称をつけた。

 雷とかは身近に無いので解析のしようもない。静電気も視野に入れている。

 魔術書なら風を魔力で直接作る呪文や、雷を直接作り出す呪文が手に入るかもしれないけれど、入手方法を考えるべきなのか。

 とりあえず水から扱う事にした。

 問題はある。水が重力に逆らって宙に浮かぶのかと言う話。超圧縮した水を放出することで切断する魔術はできる。でも相手を殺してしまう。

 超圧縮した水を作ったとして、それを持って投げる媒体が必要なわけで、じゃあ空気を圧縮して作った手で超圧縮した水球を持って投げればいんじゃね。というわけで出来たのが、【千珠水撃】。【千寿】にまで文字列を圧縮した。

 この文字列を思い浮かべて魔力を通すと体の周りに無数の空気の手と圧縮した水球が出来て、投擲する。

 現象を魔力で再現したとして、それを射出する構造や機構が無ければ威力は生まれない。

 そして飛んでいる小鳥を見ていて考えついた。

 小鳥を解析して現れた文字列から、鳥として最低限の情報を抜粋し、それを圧縮した水で再現する。水の鳥の完成だ。この鳥は鳥の記憶を元に羽ばたいて飛ぶ。イメージはツバメだ。

 結果、無数の水で出来た鳥が対象へ飛翔してアタックする魔術が出来た。【千鳥】と命名する。重さと圧縮率と浮力の均衡が一番大変だった。


 この時ぼくは浮力という項目と推進力という項目に気が付いていなかった。


 雨粒ほどの大きさでも水は空気より重く落ちる。

 同じ要領で猫の爪を水で再現した【キャットネイル】を作る。

【キャットネイル】と頭に思い浮かべ、手を軽く振る事で発動する。ネイルは一瞬のみ発動しすぐ消えた。足でも出せる。顎でも出せる。顎でも出せるんよ。ふっふっふっ。

 動物を運動エネルギーとしてエレメントを操るのが便利だ。

 アニマルマジックだ。

(アニマル……マジックだ?)

 合っているはずだ。

 このガワを使った生物の生成は面白くて、彼女の彼女を作ってみた。材料は水なので、水で出来た彼女なのだが面白かった。

 生物自体を再現するわけじゃないので人間も作れる。形だけだけれど。

 夜、何時も通り愛で愛でしていて、彼女が口にキスしようして手で防いだ。彼女は驚いていて。

「口はダメ」

 そう言うと、手を抑えられた。

「君は嫁入り前だから、口へのチューはダメ」

(えっちょっえっ力つよ‼)

 手を掴んで引き寄せられると、口に唇が付いてしまった。

「だっダメっダメだってば‼ 口はダメ‼」

 唇を舐められて気持ち良かった。

「あっ‼ ダメッ‼ ダメッ‼」

 抵抗虚しくタガが外れ唇を重ねてキスをしていた。試すように色々唇を重ねた。上唇を両唇で挟まれてハムハムされたり、唇の淵を舌でほじられるように舐められたりした。

 色々やっていたけれど、最後の一線だけは守って来たつもりだし、これからも守るつもりだけど初キスを奪ってしまった。奪われたが正解だけど。

 今更か……。

 膝の上で眠る彼女。

 ぼくは【依存して】を発動し、【継いで補修する】、略して【補修】を使って快楽に傷ついた脳や体を癒した。

 ついでに彼女の脳を解析、データーを抽出して記憶領域に疑似空間を複数形成、ぼくが開発した魔術、【中空で踊れ】や【依存して】、それと【キャットネイル】を入れておいた。

 これで理論が正しければ使用できるはずだ。

 気が付くと回復を果たした彼女が喉にキスしていた。

 そのまま押し倒され、お互いを愛撫して夜を過ごした。

 キスをしたのは良くなかった。

 次の日、朝、目が覚めてキスをされて、息が荒くなった。もっとキスがしたいと彼女の顔を掴んでキスや唇、舌を舐めた。息をするために離れて、目を合わせる。ひと時の間。お互いがお互いの目を見ていた。息が触れ合うその距離と目の中に映っている彼女が時間の中で止まっていた。ずっと見つめていたいかもしれない。

 彼女が顔を押さえてキスしてきて、【依存して】、【継いで補修する】を使用していたら夕方になっていた。夕方になってもお互いが回復するがゆえに求め続け、最後の発散がないゆえにぼくが求め続けてしまった。残った材料の料理を食べて、口移しをして。お互いの唾液を絡めるように喉へ流しこみ、お風呂では体を洗いながらキスをした。

 救いは彼女に性知識がないこと。危なかった。股間に触れられていたら即死だった。辛うじて致命傷で済んだ。あぶなかったー。

 最初は【順応して】を使用してお互いの快楽耐性を高める算段に出たけど、快楽耐性を高めると彼女が今後夜に満足できなくなるかもしれない可能性に気づいて難を逃れた。危ない危ない。

 お互いの頭にストッパーを付ける事にした。スイッチが入らないと欲情しないようにした。

 でもおかしい。彼女のスイッチがすぐ起動する。

(なんで? なんでなんで?)

 べったりなのは嬉しいけれど。

 彼女に魔術を記憶させたので、魔術起動試験を行う。

 魔術の無詠唱は可能だけれど、頭の中で文字列を唱えるのは変わらない。

 彼女は見事に魔術を発動させ、なぜだかその場に膝から崩れて泣き出してしまった。彼女は言葉を話せないので理由を聞くことはできないけれど、泣き止むまでベッドで膝枕をして彼女の頭を撫で続けた。

 それから買い物に行った彼女が魔術書などで魔術を覚えて帰ってくることが多くなった。

 火を起こす魔術とか、水を温める魔術とか、体を綺麗にする魔術とか生活に必要な魔術を覚えてきた。ムダ毛を剃る魔術とか。

 段々生えて来た下の毛を剃るのだけは断固拒否した。

 柔らかいブロンドに、頬ずりしたり鼻をムグムグしたりするとぼくが幸せになる。

 下の毛を剃るのだけは断固拒否する。

 魔術を覚えて彼女が嬉しそうにしている反面、自分から離れていくような気がして心にトゲが刺さった。ぼくは矮小な人間だ。嫉妬深くてしょうがない。

 それを口に出して言えばいいのに、力を込めて引き寄せたり、仕事の邪魔をして行動を阻害して構って貰おうとしたり、本当に子供みたいな行動しかとれなかった。

 それでも彼女はニコニコしていて、何をやっているのだろうぼくは。

 ある日、買い物に行った彼女が勢いよく帰って来て、ぼくを見つけるなり抱き着いてきた。

 体は震えていて、涙も零れていて、何があったのか、でも声を出せないから伝えられないのがもどかしいのか、ただ泣いて縋って来た。

 崖の入り口を見ると、男性騎士と女性騎士が普通に談笑していて、何かあったとは察せられなかった。抱えてベッドまで連れて行き、【依存して】を発動して落ち着くまで傍にいた。

 彼女は泣き止んだ後じっとぼくを見ていて、甘えるように胸に埋もれた。汗の臭い。息が体に触れて、寄せられたおでこからは熱を感じた。深く息を吐き、心の底から安堵するように体を預けて来て、頼ってくれているのがわかる。

 ぼく絡みか。ぼくの今後の何かが決まったのかもしれない。

 それとも男性騎士絡みか。暗殺命令でも出たのか。

 それとも別の何かかな。彼女の貞操関連に何かあったのかもしれない。

 事の真相は夜中になってわかった。

 騎士が家にやってきてドアを叩き、応対したぼくを見ると騎士は告げた。

「俺は彼女を、メイリアを愛しています。彼女を解放してください」

 おっおう。なんだ。急に。それはおいらに言っても無駄なんだが。彼女の配属を決めたのはそもそもぼくではないからだ。

 彼女はぼくの背中に隠れており、メイリアって名前であることも初めて知った。最低だな。何年も一緒にいて今更名前を知った。

「一緒に行こう?」

 これで騎士と一緒に行ってしまったら、相当ショックなんだけど。あんなにセクハラしていたぼくに止める権利なんかない。さっきもしてたし。

「どうする?」

 そう聞いて振り返ると彼女は首を振った。

「どうして!?」

 そして矛先はぼくに向いた。

「貴方が彼女に何か吹き込んだのですね? 俺を遠ざけて」

「えっ……いやってっきり、君がぼくを殺すのかと……だから」

「そんなわけないでしょう‼ メイリア‼ こっちに来るんだ‼」

 騎士の伸ばした手に彼女は反応して魔術を放った。【中空で踊れ】。

 それは洗濯魔術なんだけど、騎士は吹き飛んで水の中に入り、グルグル回った。改めてみると【中空で踊れ】と言う魔術は理論的におかしい。ぼくが良く理解していなかったからこそできた魔術なのかもしれない。同じような物を二度とは作れないだろう。頭硬いからね、しょうがないね。偏差値95の天才だからね。仕方ないね。

 何もなしに宙に浮いていられるわけがない。

 実際【千寿】や【千鳥】に殺傷能力はない。精々水風船を勢いよくぶつけられた程度の威力だもの。名前負けしている。


 さすがに何事かと女性騎士が来て、話せないメイリアと男性騎士の仲介をすることに。

 話を要約するに、買い物に付きそう内に男性騎士がメイリアの事を好きになってしまったようだ。男性騎士は、自分の事が好きだから彼女は何時も笑顔で買い物していたのだろうと心をときめかせてしまったらしい。男の子だものね。仕方ないね。

 ゲジゲジ眉毛で垂れ目だった彼女の容姿は、ぼくの魔術である程度整えられている。確かに昔と比べると美人かもしれない。ぼくはゲジゲジ眉毛も気にならなかったけれど。そして肌には染み一つなく、触れると沈みこむほどに柔らかくムチムチ。化粧もしていないのに普通に整っている。

 メイリアとしては女性男性問わず、同じ対応をしていたらしい。

 こないだ泣いて帰って来たのは男性騎士に迫られて怖かったのが理由のようだ。女性騎士と一緒に買い物に行くよう配慮していたけれど、今回男性騎士が女性騎士に交代を申し出て、女性騎士がそれを了承してしまった。

 ぼくが男性騎士を忌諱していたから、男性騎士は強引な手段に出たのだそうだ。

 しかし敢え無く惨敗し、こうしてぼくにメイリアを渡すように言ってきた。

 前夜中に侵入してきたのって夜這いだったのか。

 メイリアはぼくの前で男性騎士に平手打ちした。すごく嬉しいと思ってしまって嫌だった。

「なっ……」

「あんたフラれたのよ」

 女性騎士にそう言われて、男性騎士は震えていて、あっこりゃヤバいなと思って男性騎士が怒って手を挙げそうになったところで【千鳥】を放ってボコボコにした。水風船並みの威力だと軽く考えていたけれど、結構速度が出るみたい。

 女性騎士は少し驚いていたけれど、夜だからよく見えていなかったようだ。

 気絶した男性騎士は女性騎士に担がれて連れていかれ、女性騎士は。

「あんたが無駄に愛嬌を振りまくからこんな事になったんだよ。少しは自業自得だってこと理解しなよ」

 そうメイリアに言った。

 ていうかですねぇ。貴方達任務放棄ですのよ。と言おうとして、それを判断するのはおいらじゃないしね、と考えなおした。雇い主もおいらじゃないしね。そもそも恋愛するためにお前らここにいるわけじゃないじゃない。でも恋愛は個人の自由でプライベートだからね。仕方ないね。男ってこういう生き物だからね。ぼくだってメイリアに会うたびに微笑まれたら勘違いしちゃうからね。しょうがないね。

 女騎士に何か言い返してやろうかと考えて、彼女が口に指を当てて来て、止められてしまった。

 考えていたより【千鳥】の威力はあった。


 その夜。落ち込む彼女をベッドの上で【依存して】を発動し癒しながら膝枕でナデナデした。

「本当は嫉妬してたんだ。君が騎士と買い物行くと嬉しそうだから」

 そう告げると彼女は少し驚いて指の間に指を通して握って来た。

「あの騎士さんは少し言い過ぎだと思うけれど……」

 口に指を当てられて、遮られてしまった。

 頬に優しくキスされて、鼻先で頬を突かれて、そのまま彼女がのしかかって来て、彼女はぼくを敷布団にして眠りについた。

 相手を無力化するための魔術を覚えていた方がいいかもしれないと、眠る彼女の脳を解析して相手を強制的に失神させる【眠眠(みんみん)】と、ついでに彼女が喋れなくされている枷を解析し、脳の条件を楔として打ち込むことのできる【遊び】と言う魔術を作って、彼女の脳に入れておいた。


 次の日、彼女は風邪を引いた。

 この世界にも病気はあるらしい。額に額を当てて熱を触診する。だいぶ熱いな。熱ですね。

 台所に転がっていた果物を一通り齧ってみて味を確認し、それぞれを擦り下ろして割合し混ぜ合わせてひんやり程度に冷やしたものを与えた。温度を下げるには気圧を下げれば良い。空気の圧を下げれば温度は下がる。全部魔術でやった。

 出来た半シャーベット状の擦り下ろし果物をスプーンにすくって彼女に食べさせた。

 あむあむして食べていた。

 あむあむ食べさせたら水分をいっぱい取らせる。

 精神的に落ち込むと風邪を引くと聞いたことがある。【依存して】を発動して頭痛を弱め、枕元でトンビ座り、膝枕しながら彼女の頭を撫で続けた。

 そしてぼくは気が付いた。自分が使っているスプーンが金属であることを。

(あれ? これ金属じゃね?)

 なんで今まで気づかなかったのか、これがわからない。

 それもそのはず、ぼくの身の回りの物のほとんどが木製や布製だったからだ。

 このスプーンは街で彼女が買って来たものなのだろう。

 スプーンを解析して、強度の秘密を探る。元素記号を示した一文を見つけ、結合を記した文字列も同時に抜粋する。

 闇を解析した時、この闇が興味深かった。この闇と言う物体は視認できるけれど、触れても透過する。透過するがちゃんと揺らぐ。魔力で闇を作ることはできる。その闇の分にスプーンより抽出した文字列を加え、さらに【キャットネイル】の文言を添える。

 そうして鉄の強度を持った【キャットネイル闇】ができた。

 あーこれ。最強魔術が出来てしまうかもしれない。あーこれ、最強魔術出来ちゃうわ。

(そうして出来た呪文が【キャットネイルファンタジア】だ‼ 【キャットネイルファンタジアだ】だ‼ だから何って話。【キャットネイルファンタジア】だ‼ あー‼ あっ……あぁあああっあー‼ もうこれ……ああああああああ‼ 最強だああああ‼ 股が痺れてきたあああ‼ ああああああ‼)

 最強魔術が完成してしまった。もうこれぼくに勝てる人間はいないね。

 今日から猫魔法使いを名乗ることが許されそう。許されないか。そうか。

 指を鳴らして【キャットネイルファンタジア】を発動する。

 闇から無数の黒猫が現れて徘徊した。

 かわいー。黒猫かわいー。

 ただそれだけだ。残念ながらモフモフの毛並みは再現できていない。形だけだ。あーもう天才だね。自分の才能が恐ろしい。

 と言うのはまぁ冗談で、と思っているか、冗談ではありません。

 この【キャットネイルファンタジア】は説明通り、無数の黒猫が闇から現れて敵をヤツザキにする魔術だ。我ながら恐ろしい魔術を編み出してしまった。

 まぁ……本当に八つ裂きに出来るかどうかは試していないわけだけれど。だけれども。

 部屋の中に黒猫のいる生活。猫と言う生き物がいるのか不明だけれど、似たような動物を王室で見かけたことがあったのでデーターだけはもっていた。だから若干本来の猫の挙動とは差異がある。

 この猫たちは実際生きているわけではなくて、単純な命令を繰り返しているだけに過ぎない。ガワだけで中身もないしね。

 適度にモモへ【継いで補修する】を発動し、痺れを緩和する。

 ていうか本当に風邪なのか不安になってきた。

 申し訳ないけれど早急に治って欲しいので【順応して】を発動して病気に強制的に順応して貰う。

 寝ている彼女の顔を眺めていて、早く起きて元気な姿に戻って欲しい。

 それは別にモモが痺れて痛いからというわけじゃなくて、構ってほしかったからだ。意識を向けて欲しい。

 体のエレメンタル化に関してはどうなるのか興味がある。

 ぼく自体が火になれるのか、水になれるのかは興味があった。

 今は無理だけれど、後で試すつもりだ。

 後は【シストラム】という魔術と【ドッペル】と言う魔術を作った。【シストラム】は一匹の猫が追従する魔術で、対象に起こる物理攻撃を【キャットネイル】で迎撃する機能を持っている。

 彼女の脳に【シストラム】の魔術を刻んでおく。

 【ドッペル】は、水でメイリアを作る魔術だ。ガワが本人のデーターなのでまるっきり一緒だ。光の透過率を弄ってなるだけ肌の色も一緒だけれど、如何せん水だ。

 まだ起きないか。

 彼女はぐっすりと眠りについていた。時折動き、よりモモに擦り寄って来る。顔においらのお粗末様が当たってはいけないと尻側へ引っ込めておいて正解だった。あぶなかった。

 手で足の裏を掴んできて、擽ったかった。

 ついでだから【ドッペル】の呪文も彼女に挙げた。

 ぼくが勝手に彼女の分身を使うのはよろしくない。自分の【ドッベル】は内容を書き換えて自分の分身ができるように改良した。

 うとうとしていたら彼女が起きた事に気が付いた。猫のように背伸びをし、ぼくを見上げると甘えるように登って来て鎖骨辺りで微睡みはじめた。

 やっぱり人間だし、代謝はあって、女の子と言っても汗の臭いはした。

 うがいをさせて、水分を取らせて、お凸にお凸を当ててお熱をチェック。熱は下がっていてお風呂で体を綺麗にする。

 何時ものように体を洗っていたら、彼女に股間を凝視され手を伸ばされた。

「ちょちょちょ‼ 何処触ろうとしてるの‼ ダメだよ‼」

 急いで手でガードする。

 彼女の目は愉快そうに歪んでいた。なんだ。何を間違えたんだぼくは。

「ちょちょちょ‼ ダメ‼ ダメダメダメ‼ ダメだってば‼ ダメ‼」

 ぼくの抵抗は虚しく、心の奥底では発散したい欲望もあって無理やりにでも、そんな期待も相まって結局はダメだった。

 暴発して顔を両手で覆っていたら、顔をこじ開けられて頬を舐められた。

 なんか、ぼくのストッパーも何処かへ飛んでいってしまったような気がした。

 ぼくと彼女は異なる。

 ぼくが彼女にしたことを彼女にお返しされてしまった。

 このままだと彼女と最後の一線を越えてしまう事の顛末が見えてしまって、それを期待している自分がいて、喉が渇くようにぼんやりするぼくは何もかもを握られてしまって困った。

 それからしばらく彼女と発散と回復を繰り返し、お互い息の荒い犬のように求めあった。

 それでも最後の一線だけは超えないように努力した。

 数日後、息の荒い犬から発情時の雌猫ぐらいになったぼくは彼女の手を抑え、股間に触れさせないように頑張りながら彼女に使える魔術が増えている事を伝えた。

 使える魔術が増えている事を伝えると彼女は喜んだ。

 二つの魔術を早くも発動し、概要を理解しようと努める。

 特に【ドッペル】は彼女のお気に入りで意外だった。【シストラム】の方が気に入ると思ったのに……。

 【ドッペル】が好きな理由はルーティーンを【ドッペル】にお願いできるからのようだった。【ドッペル】は彼女の思考回路データーを元に動く。家事全般をこなしてくれて、その間、ぼくは彼女から全力で股間を死守しようと努力した。

「ダメッダメ‼」

 腕を抑えても彼女は止まらなかった。【ドッペル】に仕事をさせ、ぼくが嫌がるのが面白いのか、擦ったり弄ったり、ぼくの反応から探っているようだった。キスされた時はびっくりして。

「それに口付けちゃダメ‼ 汚いから‼」

 そう言っても彼女は聞かなかった。ぼくも似たような事していたから、彼女が望むなら甘んじて受け止めなければならないかもしれない。

 ぼくと彼女はとてもエッチだった。

 舐め合うことをすぐに覚え、彼女はこれが大好きだった。

 終わった後は体勢を変えてお互いを愛で合う。彼女と見つめ合うのが好きだった。お互いをずっと見つめ合っていた。

 心臓から手が出て来て彼女を掴んでいるかのようだった。

 また軽く唇が触れて、何度もチュッと鳥が鳴く。まつ毛が触れ合って流れて。

「ねぇぇええええ‼ ダメだってば‼」

 果てて痛いのに逆立つのが嫌。脳が嫌がっているのに体が求めている。もう出ないのに彼女を求めている。


 よく考えたら、ぼくたちは、デートとかそう言うのをしてない。


 愛が欲しい。でもどうすれば愛が手に入るのかわからなかった。

(愛って何?)

 どうすれば彼女はぼくを愛してくれるのだろうか。どうすればぼくは満足するのだろうか。彼女が欲しいと望むほど、何が欲しいのかよくわからなかった。

(満たされてないの? 充足は感じるけれど、愛が手に入っているの?)

 もし魂と言うものがあるのなら彼女の魂が欲しいと望んでしまった。

 くっつくのに体がもどかしかった。

 悪魔は人間の魂を求めると言うけれど、もしかしたら、悪魔は人間を愛しているのかもしれない。それは一方通行ではあるけれど。


 次の日、一緒に外を散歩した。家の周りだけれど――手を繋いで、一緒に土を握り、草に触れて、指の間に指を通して、意味もなく衝動的に頬に唇を寄せた。

 一緒に魔術を発動させて遊んだ。

 水の鳥をぶつけ合って、両方ずぶ濡れ。水の猫や動物を作ってぶつけ合ってびしょ濡れ。

 ぼくは鳥と猫しか作れないけれど、彼女は他にも動物を作っていた。彼女の魔術センスが伺えた。

 ……時間を共用している。触覚で共感している。同じものに触れて、感覚をすり合わせるみたいに。

 彼女が【ドッペル】を使用したのでぼくも【ドッペル】を使用した。

 彼女はもう一人のぼくに驚いて、それも欲しいと身振りで示して来たので脳に刻んでおいた。

 意味もなく、彼女の唇が頬に触れて来る。自分だけ求めるのではなく求められる。同じ事を真似して返してくれる。

 スカートを絞る彼女の太ももが露わになっていて、跳ねるように体がビクリとした。

 何度も見ているはずなのに、触れているはずなのに。

 気づいた彼女が、スカートをたくし上げてくる。

 モモの造形。スカートから覗くモモはどうしてこんなに心をときめかせるのだろう。すごくエッチだ。

 矢が穿たれるように瞳孔が開くのを感じ、興味と羞恥と欲求と欲望が走る。

 彼女はそんなぼくを見て笑っていた。ぼくの手をとって摺り寄せ傍に来て、唇同士が触れて、体勢が崩れて、二人して倒れて、唇をつけて、お凸を合わせて、そのままお昼寝。

 予想よりも虫が多くて、それは寝転がらなければ見られない風景だった。

 彼女の口が動いていて、ぼくに繰り返し何かを言っていた。音が無いし、ぼくに読唇術の心得は無いので何を言っているのか。不思議そうに見返していたら、彼女は微笑んで触れて来る。閉じた目、しっとりと少しだけ湿って、自然と重なる。離れるのがもどかしく、離れると音がする。

 垂れて来た髪を耳の横へ分ける仕草。和らいでいる目。吐き出す息の音。風の音が不快じゃない。顔を横へ反らすと、手で顔を元の位置に戻される。ダーメと言っているような。

 フレームにしっかり収めてほしい。みたいな。

 写真とか、あるのかなぁ。

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