第16話 初めての男女混合茶会。

「お世話になります、宜しくお願い致しますバスチアン様、ガーランド様、シャルドン様」

『いえ、コレは経験が物を言う問題ですから』

『僕もまだまだですから教わる側ですし、一緒に頑張りましょう』

《うん、一緒に頑張ろうね》


「はい」


 今日は男女混合のお茶会へ参加する事に。

 バスチアン様は念の為に裏方へ、私はガーランド様とシャルドン様と一緒に回る事に。


 そしてルージュ様は、メナート様と一緒に。


 この組み合わせを考えたのはシリル様なんですが、一体、何を。

 いえ、凄いですね流石は根っからの貴族令嬢でらっしゃる、嬉しそう。


 あ、でも睨まれてしまいました。


 そんな、何故コチラへ。

 文句は後でお伺いするので、ココは穏便に。


《何ですかルージュ嬢》


 立ち塞がって下さったのは、シャルドン様。

 私やルージュ様より小さいのに。


《ふん、アナタには》

《アニエスさんは僕の大事な人だから守るんです、文句なら後にしてルージュ嬢、お茶会はまだ始まったばかりなんだから》


《私は、別に》

《違ったならごめんね、でもそんな顔をしてたよ》


 ココで引いて下さいませ、ルージュ様。


《ふんっ!後で覚えてらっしゃい》


 この捨てセリフは私へ、でしょうか。


《うん、やっぱり僕、あの子は嫌いです》

「まだ何か誤解が有るかも知れませんので、もう暫く最終評価はお待ち頂けませんか?」


《うん、分かった、行こうアニエス嬢》

「はい」


 この小さな可愛い紳士に守られている事も有り、全く読めない会話は発生せず。

 ですので今度は、アーチュウ様と。


《不手際が有れば遠慮無く言って欲しい、慣れていないんだ》

「私もですので、宜しくお願い致します」


 コレは序章で助走だそうで、幾ばくか一緒に居た後、私は単独で行動する事に。




『素敵な男性とお知り合いなのね、どうやってお知り合いになれたのかしら。まぁ、成り上がり男爵のご令嬢、どおりで。あぁ、騎士様でらっしゃるの、相当のご負担でしょうね。等々、ですねベルナルド様』


《シャルロット騎士爵》

『あぁ、文言は全て違う方からです』


《殺しても構わんだろう》

『そうですね、戦下ともなれば真っ先に前線で的にさせますが。生憎と戦争らしい戦争は起きてはおりませんので、非常に難しいですが』


《他に策が有るのか》

『次回で効能を発揮するそうです』


《まだ、次も有るのか》

『何事も下準備は必要ですし、今回は特に一筋縄ではいきませんので。不憫ではありますが、今後の事を思えば、まだ手緩い段階かと』


《そこまで腐っているのか》

『寧ろ一部の者が、ですね。実際に爵位を持っているのは相手であるにも関わらず、自らの功績かの様に振る舞う者が居る。確かに実際にお相手が居てこその場合も有りますが、その殆どは当主の功績、ですが自らの立場を誤解し、果ては子も影響されてしまう。次のお茶会で本星に留めを刺すそうですから、暫し堪えて下さい』


《次で、終わるんだな》

『露払いは、ですね』


《はぁ》


 私はアナタに憧れ騎士になったのですが、やはりアナタも人間なのですね。

 清廉潔白で真面目、騎士として、男として憧れていたんですが。


 私と同じ、本当に感情が有り、揺れ動き悩み苦しむ。

 本当に、男も女と同じなのですね。


『私に助言は全く不可能なのですが、思い悩んでいる事もお伝えになるべきでは。きっと、何も思っていないかどうかも、もしかすれば考えていらっしゃらないかも知れませんので』


《確かに、言わなければ何も伝わらない場合が殆どだからな》

『はい』


《助かった》

『いえ、では失礼致します』


 アーチュウ様が光なら、彼は闇。


『シャルロット騎士爵、良い助言をしますね』


『あぁ、そうですか』


『どうして君が素っ気ないのかシリル様に尋ねたんですが、どうやら誤解なさってるみたいですね』


 私の親友に手を出した男、メナート辺境伯令息。


『誤解も何も無いのでは』

『女騎士様は、男が襲われる事など無い、と今でも本当に思ってらっしゃるんですか』


『さぁ、どうだろうな、私の管轄外だ』


『それはシリル様が止めて下さってるからですよ、アナタの為、繊細なアナタの為に』

『今度、その言葉を言ったら潰すぞ』


『繊細は本来なら褒め言葉なんですが』

『死ね、家庭の複雑さが何だ、全員が全員捻じれるワケじゃない、捻じれたのはお前の弱さだ他人に当てこするな下衆が』


『日頃の行いから悪しざまにいわれるのは致し方無いとは思いますが、誤解は解きたい、誓って僕からは合意を得ての事ですよ』

『ほざいていろ、近寄るな病原菌が』


 どうしてアーチュウ様にあんな者が一緒に居るのか。

 分からない、全く。


 シリル様には便利でしょうが。

 アニエス嬢に利は無い筈、なのに何故、彼を表舞台に引きずり出したのか。


 あんな者、一生日陰で腐っていれば良いものを。




『あぁ、まだ誤解していたんだね、シャルロット』


『殿下、ご冗談は』

『本当だよ、いい加減に誤解が解けていると思っていたんだけど。そう、医師の診断書だよ、はい』


 こうした情報を完全に塞いでいた事が、却って目を曇らせてしまったままだったんだろうか。

 やはり難しいね、人も物事も動かすのは。


『そんな』

『無傷ではいられないんだよ、男も女も、受け入れる側は特にね』


 今回は3名を直ぐに確保し、医師に見せる事が出来た。

 病気を持っていなくて幸いだったけれど、彼はこの件で更に歪み、捻じ切れそうになっていたんだけれど。


 アーチュウの真っ直ぐさに、何も尋ねない姿勢に、気が付いたら矯正されていた。


 捻じ切れたら捻じ切れたで、使い道は有ったんだけれど。

 シャルロットが未だにこうして誤解したまま、誤情報に惑わされたままは困る。


 敵味方の判別はしっかりしてくれないと、少し困るからね。


『何故、こんな』

『養子でも辺境伯令息だったし、今もそうだからね、子種だよ子種。そんな事をしなくても彼なら分けてくれていただろうに、ただ無駄に自分達の立場と地位を捨てる事になっただけ、バカだよね本当に』


 あぁ、手紙のやり取りをしているんだったっけ。

 まさか嘘を延々と続けるなんて、普通は思わない、けれどバスチアンを見れば分かる筈。


 守るべき者を守る為、自分の身を守る為、人はいつまでも嘘をつく事が出来る。


 例えバレて全てを失おうとも。

 バレないだろう、と、虚構に縋る。


『そんな』

『大丈夫、彼は全く気にしてはいないから、君の為に言っただけだと思うよ。あまり見誤る様なら、切るしか無いからね』


『大変、申し訳』

『良いよ別に、僕も過保護過ぎたと思ってるし、君に対しても期待が大き過ぎたみたいだからね』


 人の嘘に付き合うって事は、幾ら嘘だと知らなかったにしても、時と場合によっては自らの身を滅ぼしかねない。

 時には敢えて断言を避け、判断を先送りにする必要も有る。


 アニエス嬢は既に理解し、シャルドンに忠言していた、だからこそシャルロットにも期待していたのだけれどね。




『すまなかった、メナート、明らかに一方の言葉だけを鵜吞みにしていた。助言、感謝する』


 あぁ、もう邪険に扱ってはくれなくなるかも知れないんですよね。

 つまらないな、実につまらない。


『あぁ、そうですか、どうも』


 コレから先、一生、自分に振り向かないだろう相手を探して。

 落として、飽きて。


 そんな無益な事を、一生続けるしか無いんだろうか。


『償いはさせろ、好きなだけ殴れ』


『いや、僕は子女には手を上げない主義なので』

『なら蹴れ』


『それも』

『分かった、手を下せないなら』


 自分の手を、短剣で。


『そんな』

『両利きだ、心配無い』


『それだと護衛の仕事が』

『許可は得ている、格下げされた、侍女見習いからやり直せと。すまんな、コレは自己満足とケジメだ、失礼する』


 あぁ、アーチュウみたいに真っ直ぐで。

 だからこそ守られる側にならずに、守る騎士に、王子様になろうとしたんですね。


『せめて手当をさせて下さい』

『いやこのまま医務に行くから問題無い』


『ですけど』

『子供じゃないんだ付き添いは必要無い』


『それは分かりますけど』

『付いて来るな、ルージュ嬢に邪険にされるのは面倒だ、散れ』


 全然、邪険にされている。

 もしかして、男嫌いはそのまま。


 でもアーチュウには憧れているのだし。

 いやまさか、アーチュウの事が。


『アーチュウの事』

『誰しもが憧れるだろう、だからこそルージュ嬢の気持ちも分かるが、お前は無理だ』


『誤解は解けた筈ですよね?』

『だけだ、他は誤解でも何でも無いだろう、何でも食い散らかす節操無しのだらしないクソ野郎が』


 あぁ、この男嫌いは僕のせいですね。

 うん、今度は僕が誤解を解かなければ。


『そこにも実は深いワケが』

『近寄るな妊娠する病気が移る無節操淫乱猥雑濫りがましい下半身尾篭男』


『おぉ、練習の成果が出てらっしゃいますね』

『褒めるな喜ぶな反吐が出る近寄るな変態淫奔淫猥詐欺師』


『語彙も豊富でらっしゃいますね』


『消え失せろ不埒者が』


 本当に僕が疎ましいんですね。

 中には知って尚、興味本位で近寄る者すら居ると言うのに。


『それには深いワケが有るんですよ、本当に』


 あぁ、無視。

 気配や存在を消している時だけしか味わえないんですが、不思議ですね、この高揚感。

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