第14話 女騎士、シャルロット・ベルトロン騎士爵。

 僕の勘は半分は外れ、半分が当たってしまった。

 けれど。


「お前には暫く病気になって貰う」


『父さん、どうしてですか』

「お前の為、果ては国の為だ」


『まさか、国家転覆を』

「父を信じられないか、この国に尽くし、民を思う私を、信じられないか」


『なら説明して下さい』

「お前はまだ子供だ、そう事に巻き込みたくは無いんだ、すまないガーランド」


 僕は実家で監禁される事になってしまった。


 しかも、僕の為だから、と。

 誰も協力してくれない、兄も、弟でさえも。


《兄さんは、その子が好きなの?》

『2人共、友人としてね。だからこそ、何とかしたいのに』


《でもでも、大人が何とかしてくれるんでしょ?》

『そうやっていつまでも自分を子供扱いをしていられない、それが学園って場所、僕の年なんだよ』


《でもまだ子供でしょ?》


『そうだね、悔しいよ、凄く悔しい』


 大人と子供の中間で、しかも国を揺るがしかねない事態だと知っているからこそ。

 何も出来無い事が、凄く悔しい。


《お父様を信じられないの?》


『信じてる、信じてるけれど』


 時に大人は狡い事もする。

 そして親は神でも無いし、完璧でも無い。


 盲信はいけない、けれど疑い過ぎても。


 分からない、父が何を考えているのか。

 王室が何を考え、何処まで知っているのか。


《大丈夫、もしお父様が間違ってたら、僕が怒ってあげるから》

『ありがとう』


 こんなに優しい弟を育てた父を、疑いたくは無いのだけれど。

 友人を守る為にも、僕は全てを疑わなくてはならない。


 それが例え王室たっだとしても。




「えっ、王宮へ、ですか?」

『はい、護衛しなくてはならない状況になりましたので、お迎えに上がりました』


 ミラ様の護衛である女騎士が、私の部屋に。


「あの、なら書簡か何かは」

『緊急事態ですので、お支度をお願い致します』


「いえ、でも」

『気絶させてでも王宮へと。ですのでお選び下さい、ご準備なさって王宮へ向かうか、気絶させられるか』


 痛かったり苦しいのは嫌ですし、気絶しては逃げ出す機会も失ってしまう。

 状況をしっかり把握するので有れば。


「準備させて下さい」

『直ぐに終わりますので、大事な物だけをお詰め下さい』


 大事って、全部大事なのですが。


 いえ、ココはモタモタしていたら気絶させられてしまうかも知れません、落ち着いて最低限だけ。


 本と、いえ、本だけにしましょう。

 王宮で奪われるより、寧ろココの方が安全な筈なんですし。


「失礼しました、伺います」


『本だけ、ですか』

「はい」


『分かりました、では、お急ぎを』


 コレって、軽い誘拐ですよね。

 本ではもっと脅したりだとか有りますけど、抵抗しないとこんなモノで済むんでしょうか。


 あ、そう言えばガーランド侯爵令息からの連絡を受けられない。

 でも、きっと私が受けられない事で、ミラ様が異変に気付く筈。


 大丈夫、私よりミラ様が優先です。

 優秀でお優しいんですから。


「あの、この方角は」

『失礼致します』


 ぁあ、こうして眠らせる薬って、本当に有るんですね。


「ぅう」

『口周りが火傷してしまうだけです、大人しく薬品を吸い込んで下さい』


 あぁ、火傷は嫌です。




《あら、この道は》

『はい、第1王子の元へ向かわせて頂いております』


《そう》


 王宮では相変わらず王妃様とお茶をし、どんな本を読んだか、だけ。

 いつも通りで安心していたのだけれど、まさか帰り道で攫われるとは。


 けれど第1王子は未だに病弱でらっしゃるし、そもそも王都に来られる程お元気だとは。


 まさか、本当に、それ程迄の事が起こっているのかしら。

 ガーランド侯爵令息からの連絡は、父に動くなと厳命された、との手紙だけ。


 しかも直ぐに燃やされてしまった。


 侯爵家も信じていたのに。

 まさか。


『覚えてらっしゃいますか、第1王子のご尊顔を』

《勿論よ、女の子みたいに可愛らしくて、儚げで》


 病に伏せってしまった事にも納得が。


 まさか、それこそ嘘だと。

 でも、なら何故、どうしてそんな嘘を長年。


 もしかして、貴族の腐敗を暴く為?

 けれど、なら、だからこそ早期決着を図るべきで。


 どうして、今まで。


『ミラ様、お名前は覚えてらっしゃいますか』

《勿論よ、シリル様だわ。一体何を疑ってらっしゃるの、それとも何の確認なのかしら》


『もし、バスチアン殿下を』

《どうしても王室から支えろとの命令でしたから婚約者としてお守りする事は有りましたが、情は全く御座いません》


 しかも扱い難い私より、扱い易そうなアニエスだけならまだ良いモノを、あのマリアンヌまで囲おうだなんて。

 性欲が勝ち過ぎですわ、おぞましい。


『ふふふ、流石に長年会わないと、僕の顔は分からないか』


 女騎士の横に居た護衛が、何処か懐かしい話し方で。


《そんな、まさかシリル様は》

『どう、証拠を出そうか』


《証拠も何も、お体が》

『元気なんだよね、ずっと前から、凄くね』


《だとして、何故》

『色々とね、その前に先ずは本物だと信じて欲しいのだけれど、何が有るかな?』


《ホクロが有った筈ですわ》

『刺青で何とかなると思わない?』


《怪我を、確か右肘に》

『似た傷を付け育った後なら、分からないよね』


《確かに、難しいですわよね》

『思い出話はどうかな』


《もしシリル様の親しい方なら》

『間違ってもバレてはいけないなら、居ないんじゃないかな』


《それを信じるには》

『アーチュウだね、毎週末、僕に虐められに来てたからね』


《アーチュウは》

『アレは嘘が下手だからね、子供の頃から訓練も兼ねて僕の相手をさせてたんだよ』


《どうして私にも》

『君が好きだからだよ、ずっと会いたくて堪らなかったんだミラ。全てが片付いたら結婚しようね』


 何も分からないままに連れ去られ、いきなり懐かしい方に求婚され。

 流石の私でも、面食らうどころの騒ぎでは無いわ。




《ぁあ、アニエス》

「ミラ様、どうしてココへ、と言うか一体ココは何処なのでしょう?」


《シリル様》


 あぁ、ミラが僕を見てくれている。

 と言うか睨まれているのだけれど、コレもコレで初めての体験だ、大事な思い出にしよう。


「あ、の、お知り合いでらっしゃいますか?」

『そうだね、古馴染み、大昔に幼馴染だったんだよ。僕とアーチュウとミラはね』


「はい?」

《シリル様》


 まるで子供を守ろうとする狼の様だ、実に勇ましくて愛情深いねミラは。


『先ずは、何処から話そうか』

「あの、アーチュウ様とお知り合いだとは」

《アニエスが驚いている理由から、ご説明願えますかしら》


『良いよ、僕が近衛に馬を暴れさせ、敢えて怪我をさせたんだ』

「敢えて」

《何故ですかシリル様》


 ずっと、ミラに名を呼ばれたかった。

 こんなにも呼んでくれるなんて嬉しいけれど、もう少し上機嫌に呼ばれたいね。


『そうなると、事の発端から話さなければならなくなるんだけれど、君に聞く気は有るかな?』


「出来れば重要な部分を避けて頂く事は可能でしょうか、既に相当な事に巻き込まれているのは承知しておりますが、私には守るべき家族がおりますので。出来るだけ危険は避けたいので」

『うん、下位貴族令嬢とは思えない賢さだね、悔しいけれど君を見る目はアレにも有ったらしい』


《私が責任を持って聞かせて頂きます》

『コレでも本来なら僕が王太子なんだ、君に危険が及ばない様に話させて貰うよ』


 ミラと早く仲良く過ごしたいからね。


「はい、宜しくお願い致します」


『先ずは、お茶にしようか』

《シリル様》


『長くなるからね、大丈夫、出来るだけ簡潔に話すよ』


 ミラと僕の為にもね。

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