呪い。

 生物が、物理的手段によらず精神的あるいは霊的な手段で、悪意を持って他の生物や社会全般に対し災厄や不幸をもたらさしめんとする行為。でもあり。

 生物の妬み恨み恐れが集まった思念体。でもある。

 災厄や不幸をもたらす思念体(生物に憑依する事により、あるいは自ら創成する事により肉体を持つ思念体もあり)を祓う責務を負う生物を、祓い役と称する。






 鬼は言った。


 遥か昔は確かに、鬼はあらゆる生物の妬み恨み恐れが集まった思念体であった。

 長い月日が流れゆく中で、自ら肉体を創成し、あらゆる生物が自ら産み出したにもかかわらず恐れを抱き、歯向かう事さえ諦める、史上最強にして、史上最悪の呪い。

 だった。


 鬼は言った。


 今は違う。

 この鬼が島に集うあらゆる生物のせいで、鬼は鬼の皮を被った空っぽの存在に成り果てた、体裁だけの鬼である。

 

 この鬼が島に集うあらゆる生物が求める鬼は、史上最強にして史上最悪、冷酷無比な生物、の格好を保った鬼である。

 実際に殺戮を犯すわけではなく、殺戮を犯しているように見せるだけの鬼。

 娯楽のために恐怖を希求するその絶大なる思念が、鬼を作り変えたという。




 げに恐ろしき者たちよ。


 邪悪さとは、呪いとは無縁の微笑を浮かべる鬼は、ゆえにと、言葉を紡いだ。

 しかと、小樂こらくの目を捉えて。


 我が組織から創られしクローンであるそなたに、まことの呪いの王になってほしい。


 嫌です。

 小樂こらくは間髪入れずに断った。

 そうだおまえが呪いの王になれ。

 かいは鬼に賛同した。











(2024.2.5)



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