第54話 わたしはお姫様
地下室から上がって行くとカタリーナはメイドとお話の真っ最中、この年齢特有の早口だけど小さい声でキャキャしている、
「これはミヤビ様」
「あら、良いのよ、久しぶりだからもっとお話ししたいでしょ?」
「わたし、お掃除の途中でした」
そう言うとメイドは逃げるように消え去った、
「どうかしら? カタリーナ」
「聞いた限りでは、売り込みはロットマンと言う男の人が中心になっているそうです、なんでも以前は卸し問屋に務めていた人だそうですよ」
「ふーん、営業は顔が広い人に任せないとね、それで買い取りは?」
「ユーリアかオルガって言う人のどちらかだと思いますよ」
「どちらも女性ね、性奴隷を中心に買い取りをするのかしら?」
「どうなんでしょう」
「ところでカタリーナ、わたしの姿を見てどう思うかしら? どこか変わったと思わない?」
わたしの姿を上から下まで穴のあくように精査する少女剣士、
「あっ、髪が少し短くなりましたよね? それから背が低くなっていませんか」
「他には」
わたしは小さくなった胸を持ち上げようとするが、以前の様な質感はなく、手の平にはむなしい感触、
「お胸が小さくなったのですか? そんな事あるんですか」
カタリーナは本物の15歳、手足は伸び、尻も胸も丸みを帯びて行く最中、胸が大きくなる事はあっても、小さくなる事なんて無いと信じているのだろう。
わたし達はレオポルド商会の廊下に架けられた鏡の前に立つ、二人お揃いの薄ムラサキのセーラー服を着ているけど、これは戦闘奴隷の制服よ、街中に出かける時はパンツルックや革の胸当てを禁止したの、
戦士の前に女の子だからね。
初めてカタリーナに出会った時わたしは20代前半、彼女は10歳、まさに大人と子供の関係だったのだが、
5年の歳月はイカ腹の幼女をスラリとした肢体に変え、わたしもレオポルド様の術により若返り、お揃いの服と相まって同級生状態。
カタリーナは最初鼻が大きく、四角いアゴをした田舎娘丸出しの顔つきだったのに、術の力でシュッとした顔の美幼女に羽化した、
気になるのは、術で顔や姿を変えた後どうなるのか? 5年過ぎた彼女の顔は美幼女がそのまま歳を重ねた状態、鼻がめくれたり、四角いアゴに戻る気配はない、
わたしも今の姿で歳を重ねて行くのだろうか?
「失礼ですがミヤビ様ですね」
20代中盤位の女性がわたしに声をかけて来た、
「はい、そうですが」
「突然のお声かけ申し訳ございません、わたくし当商会で買い取り担当を任されておりますユーリアと申します、
ミヤビ様は次の買い取り遠征にご同道されるとお聞きしましたので、ご挨拶を、と思いまして」
「それはご丁寧に、それで買い取りはどちらに?」
「ダールマイアー領まで足を伸ばす予定です、護衛の件はお受け頂けるでしょうか」
「ダールマイアー領ですか」
▽
ダールマイアー領の領主ルーブレヒト伯爵、彼との出会いは5年前まで遡る、彼の領地での人買い村を壊滅させたわたしに、褒美として白金貨を差し出して来たの、
金貨一枚でだいたい百万円の価値があって、白金貨はその百倍の価値があるのだから一億よ、当時はレオポルド様の奴隷だったわたしは受け取りを拒みたくて、娼館街を作る時の種銭としてルーブレヒト伯爵に預けたの、
伯爵さん、最初は街道沿いに娼館を誘致すれば良いではないか、と考えていたみたいだけど、わたしの提案は柵と言うか壁で囲まれた一つの街、
まぁ、江戸時代の吉原遊郭をイメージしたのだけど、テーマパーク型の娼館街を提案。
門をくぐるとそこは別世界、メインの通り沿いには華やかな娼館が軒を連ね、横の通りに入ると簡単な軽食を提供する屋台があったり、
辻ごとに楽士達がいて音楽を奏で、奥の方には野外ステージまで造って、綺麗なお姉さんが歌声を披露してちょっとした劇まで。
旅の途中に寄る場所から、旅の目的地になるまでになったのよ。
今でこそ一大観光地だけど、その年ダールマイアー領は魔物の大量発生と飢饉に見舞われ資金難、娼館街建設はとん挫しかかったけど、わたしは株式発行を提案したの、
“株式会社”聞いた事無い人いないわよね、ざっくり説明すると株を売ると言う形で出資者からお金を集め、その資金を元手に商売を始めるの、
利息を払わなくても良いけど利益を出すと株主に配当を払わなくてはならないし、株主は会社の役員を決める権限をもっているのが単なる借金と違いかな。
娼館の誘致も大変だったわ、単なる地方領主ルーブレヒト・ダールマイアーに娼館のネットワークなんて有る訳なく、ダ・デーロの美魔女娼館主エステファニア様にはずいぶん助けてもらったわ、
娼館を出すなら株式を優先的に買う権利もおまけして、おかげで娼館主達が株主となり、自分達で街を運営すると言う形になったの。
年二回の配当金の支払いの時に報告は受けているけど、自分の目で確かめておくのも大切よね、ルーブレヒトさんにも挨拶をしておかないとね。
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