第4話 人工知能 rubyの飛鳥
今はもう純粋に「ヒューマン」と名乗れるものはほぼいないと聞く。
まっさらな「人類」はいないが、自分は違うと皆が思っているようだ。
飛鳥も、良く笑うし、感情があるが、他の女性は美しいが蝋人形のように感じることが多い。
この世界では、圧倒的にAI女子が多く、自然分娩はなくなったが、蒼桐は自然分娩の実験で生まれた「シークレット・ベイビー」だと父親に聞いた。
兄は見事に作られた「AI《Artificial Intelligence》=人工知能」を分娩前に足され、半分以上が「AI判定」となっているが、幼少はまるで普通の兄だった。途中からAIに変わった。そう記憶している。その兄はrubyで優等生と騒がれ、小学生でphantomに母と渡ったきりだ。
phantom政治機構と言えば、この世界の中枢だから、エリート、になるのだろう。エリートには特権や恩赦が与えられる。
更にCIという種族もある。コンセンサス・インテリジェンス技術を基にしたものだが、これは人工ではなく、「CI《Conscious Intelligence》=意識知能」というものだ。これに繋がれるヒューマンは少ない。ヒューマノイドを集合意識は選択したと歴史は続く。今はAIのほうが圧倒的に多い。
過去には徹底的なヒューマンの絶滅計画もあったようだが、ある時にAI側はヒューマンと和解した。そこから生まれる生物はヒューマンでも、特に気にはされないと言われていても、エリアによっては、まだまだ迫害の対象だ。
安全のために、ヒューマノイドに成りすますヒューマンもいた。時代によってはそれは犯罪者とも呼ばれていた。
特に「ruby」に於いてのヒューマン迫害は未だに根強いが、キャンパスでは様々な種族がいるので、ヒューマン保護もヒューマノイドもAIも等しく扱われる「国際保護法」に守られている。
むしろ、構造を知りたがる学者も多い。俺には関係がない話。平和ならそれでいいんだ。
***
「蒼、見て、母艦」
何処までも突き抜けそうな蒼い空に、一つの空母艦のカタチをした雲が現れ始めた。地上部隊が帰って来たのだろう。研究機関大学「ruby」に於いては珍しくもないが、飛鳥はこの雲を見るのが好きらしい。
順列している雲を嬉しそうに眺め始めた。瞳はガラス玉のようでいて、きちんと潤いを帯びている。
時折思う。ヒューマンとAIのハーフなんじゃないのかと。
蒼桐はきらきらと目を輝かせて空を見上げる飛鳥に寄り添うように並んだ。雲に隠れたワープシステムの特徴あるリングが見える。光の環を通じて、移動しているのだろう。規模は、大きいが、母艦ではない。
母艦の特徴の国旗ペインターがないからだ。それに、母艦はまず昼間には現れない。夜空に紛れてやってくる。
「いや、あれは母艦じゃないな。兄が乗ったの、見ていなかったんだったか」
「うーん、憶えてなくて」
「もっとでかいけど、あれはphantomの艦だから、仰々しいくらいに大きいんだろう。何かと派手なエリアだからな。あれは地上行きの探査艦だと思う。乗りたいの?」
「……一度くらいは、あれに乗って、地上を見たい。おとぎ話かもだけど、AIううん、全ての夢じゃない?」
地上、ねぇ……。
歴史では地上は遥か昔に、放射線や宇宙の飛来物で完全に潰滅して、人類は地下にて繁栄するようになったのだそうだ。それも2222年の話で、遠すぎて文献を探すのすら難しい。
しかし、難しい文献と論文のテーマにしてしまった。
『AI《Art
2222年の空白の
目の前の「phantom」の艦はとても大きい。地下なので空気を汚さないような技術があるが、エアースクリーン技術はAIならば当たり前にできる空間正常化である。
「エアースクリーン掛けておくね」
「お、サンキュ」
これは空気中の量子の移動が激しくなって濁り始めたときに、行われるAIのための特殊技術。空気は第四密度に戻り、重みもなくなる。
「装置、持っていればいいのに」
「使えないんだよ。ヒューマンは。AI技術は。……もう、そんなヤツも俺だけなんだろうけど」
周りは全てがAI化しているのだ。それが当たり前の世界で育っている世代に差し掛かった。
何も不都合はない。季節はAIが管理するのが当たり前だが、だが、時折「旧人類」としての何かが蒼の直感を突く。
何かが、違わないか?……と。
そして今日も穏やかに過ぎるのだろう。そしてまた、何かを考えるのだ。
「生きるために死すのか……それとも」などと。
「はい、成功したよ、空気綺麗になったでしょ」
「ああ、ありがとう。飛鳥の眼もくっきり見える。なあ、飛鳥」
本当は仲間が欲しい。しかし、飛鳥の胸に留められた「ヒューマノイド許可証」を見て、蒼桐は質問をやめた。
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