第2話 モンスター娘の新しい家族
「はあ、はあ、はあ……!!」
「リリス、大丈夫か? よく頑張ったな……!!」
女神ルシエル様の導きを受け、異世界転生を果たした私が最初に意識を取り戻したのは……多分だけど、私が生まれたタイミングだった。
私の前にいるのは、多分私の母親であろう若い女の人と、その付き添い……かな? 医者には見えないから、恋人か友人か、若い男の人がいた。
母親の方は、銀色の髪を汗でぐっしょりと濡らし、疲労困憊といった様子で横になっている華奢な人。
実際の年齢は分からないけど、小柄で顔にもどこか幼さが残ってるせいで、十代だって言われても信じちゃいそう。
頭に被った三角帽子もあって、魔法使いみたいに見える。
一方、その友人の方は比較的がっしりした体付きに短い赤髪も相まって、何だか強そうに見える。
腰に剣を提げてるし、剣士って奴だろうか?
そんな二人が、見るからに仮設テントって感じの布張りの空間で、簡易ベッドの上でお産をしてる。
明らかに出産するには不向きな場所だけど……何か理由があるのかな?
「教会の連中がリリスのことまで異端認定なんてしなければ、こんな苦労もしなくて済んだのに……」
「いいよ、コーラス……最悪の環境だけど、何とか死なずに済んだわけだし……後は、この子をどうにかするだけ……」
「……ああ」
二人でそう話した後、剣士……コーラスが、腰の剣を抜いた。何に使うんだろう?
「ひと思いにやってやる……悪く思うなよ」
よく分からないけど、生まれた時にやる儀式か何かがあるのかな?
この人はまだどっちか分からないけど、そっちのお母さんは間違いなくこれから家族になるわけだし、第一印象は大事にしないとね。
「うぁ……あぅぁー」
そう思って、私は
抱っこして! みたいな気持ちを込めて手を伸ばすと、剣を構えていたコーラスも、お母さんも目を丸くして動きを止めた。
「……ねえ、コーラス……この子、やっぱり私が育てちゃダメかな……?」
「な、何を言っているんだリリス、この子は魔物のハーフだぞ、そんなことをしたら……」
「だけど……どうせ私は、もう異端認定されちゃってるし。どうせ殺されるなら、最期はこの子と過ごすのも悪くないかなって……」
「リリス……」
「もちろん、これは私の我が儘だから、コーラスまで巻き込むつもりはないよ。私と違って、コーラスは異端認定されてるわけじゃないし、今戻れば……」
「バカを言うな、ここまでお前を連れ出して来た時点で同罪だ。……付き合うよ、最期まで。村を出た時から、そう決めていただろう?」
「ありがとう、コーラス……」
いや本当に、何の話をしているのかさっぱり分からない。唯一分かるのは、この二人が仲良しってことだけ?
まだ首も上手く動かない状態で、心の中で疑問符を浮かべていると、体を起こしたお母さんが私の体を抱き上げる。
「おい、まだ無理するな」
「大丈夫。それより……この子の名前を考えてあげないと……そうね、ミリアでどうかな?」
「ミリア……ミリア・サーペントか。いいんじゃないか?」
ふむ、どうやら私の名前はミリアということになったらしい。
お母さんがリリスで、そっちの……コーラスがお父さん、でいいのかな? なんかそういう雰囲気なんだけど、会話だけじゃ確証が持てない。
まあ、細かいことはいいか。今は新しい家族と仲良くなるほうが大事だ。
「あぅ……あぅぁー」
「ふふ……可愛い。魔物の血が入ってるからかな? 全然泣かないのに元気そう」
「良い子に育ってくれればいいんだが」
「何言ってるの……良い子に育てるのよ、私が。ね、ミリア?」
「あぅー」
良い子になるよ! とアピールするつもりで笑顔を見せ、甘えるように身動ぎをする。
すると、お母さんは「ふふふっ」とようやく笑ってくれた。
「見て、良い子になるって。うちのミリアは賢いわね、天才かも」
「その子はまだ何も言っていないぞ。全く、親バカになるには少し早くないか……?」
「私には分かるの、母娘だもん」
そうそう、私にはちゃんと分かってるよ、お母さん。
そんな時、お母さんが急にふらりと貧血でも起こしたみたいに倒れていく。危ない!
「リリス……!!」
「だ!!」
お父さんも咄嗟に手を伸ばしてるけど、間に合いそうにない。
お願い、怪我だけはしないで……! そんな思いで私も精一杯手を伸ばすと……突然、私の髪から触手が伸びて、お母さんの体を受け止めた。
これにはお父さんも、私自身もびっくりである。
「これ、は……」
「あぅ、あー」
さっき言ってた魔物の子がどうこうって、こういう意味? 私が魔物の血を引いてるってこと?
じゃあ、やっぱりコーラスがお父さんってわけじゃない……??
「ミリアが助けてくれたの……? ふふ、ありがとう、ミリア」
「あぅー!」
ともあれ、お母さんに怪我も何もなくて良かった。
一度使えることが分かると、後は意識すれば自由に動かせるのか、触手を操ってお母さんの体をゆっくりと横にする。
あんまり柔らかくない、草木で出来た簡易ベッドだから、いっそこのまま私の触手を布団代わりにした方がいいかもしれない。なんかこう、ぷにぷにしてるし。
「温かい……」
そう思ってお母さんを包んでおいてあげると、そのまま力尽きるように眠りについた。
疲れてるみたいだし、今はこのままゆっくり休んでね。私を産んでくれてありがとう、お母さん。
「……俺が心配するまでもなかったな。よくやったぞ、ミリア」
「あぅー」
そんな感じで、お父さん(?)のコーラスにも褒められて、ご満悦になりながら。
転生直後の時間は、これ以上ないくらい平穏に過ぎ去っていく。
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