第18話 勝利は目の前にあり

 この戦いは私にかかっている。


 レイン、ダンクさん、ナルさんは命をかけて漆黒の竜と戦い、時間を稼いでくれている。血を流しながら、歯を食いしばりながら、圧倒的強者の前で。


 懐かしい、いつ以来だろう。これほど、期待に応えたい思ったのは。


 やっぱり、レインがいるからかな。



「…………必ず、期待に応えてみせる」



 心臓を狙うという作戦を聞いたとき、正直、驚いた。

 レインは周りをよく見て、状況を判断し、適切な判断を下せる。でも、心は弱くて、純粋でただ一つの目的のために突き進んでいる。


 そんな彼がまだ二つ星冒険者なのだから、本当に冒険者ギルドは見る目がないと思う。


 でもそんな彼だからこそ、惹かれるものがあって、期待に応えたいと思える。



「詠唱時間に加え、魔法の構築、構成、起動まで30秒…………」



 鱗が剝げていて、防御力が低いからと言って、決して硬くないというわけではない。だから、普通の魔法ではダメ。


 もっと強力で、爆発力のある魔法でないと。



「うぅ…………」



 魔法を作り出す。それは決して難しいことではない。魔法を構築する理論、起動までのプロセスさえ理解していれば、簡単にできる。問題はそれを理解するのに最低でも四元素の魔法を理解している必要があるというだけど。



「これじゃダメ」



 杖を前に突き出し、床に突き刺した。


 大精霊の力を借りて、私の魔力以外に外から流れる魔力を集めて、より強力なエネルギーを…………。


 杖先から膨大な魔力が集約するが、流れが乱れ、風が巻き起こった。

 その現象に漆黒の竜が気づかないはずがなく、ついにテラをその瞳に捉えた。



「あの竜、気づきやがったな!がははははははははっ!!」


「かなり魔力を集めてるみたい」


「ダンク、ナル、休まず攻撃を仕掛けろ!絶対にテラを狙わせるな!!」


「おうよ!!」


「わかってる!!」



 すでに戦闘から30秒が経過、1秒1秒が気が抜けず、ほんの数秒で体力が一気に消費する。まるで1秒が無限に続くかのように。



「くぅ、あと30秒か…………くそ」



 強化魔法ブースト・リミットリリースのタイムミリットが迫り、少しずつ焦り感じ始める。


 この魔法のおかげで漆黒の竜からの攻撃もなんとか耐えられているけど、時間が過ぎれば俺は縦になることしかできない。


 早くしてくれよ、テラ。



「うぅ…………」



 魔法の構築がうまくいかない。八元素をすべて使おうとしたのがダメだった?いや、そうでもしないとあの漆黒の竜を仕留め損なう可能性がある。


 必ず仕留めることができる竜を殺すための魔法を、ここで…………。



「そろそろ、限界か…………んっ!?」



 俺の攻撃をしっぽではじく漆黒の竜は突然、ゆっくりと立ち上がり、テラへと体を向け始めた。



「気をそらすのはもう無理か、しかもテラを標的に…………」



 もはや、ダンクとナルを攻撃を受けてもビクともせず、ゆっくりとテラがいるほうへと体を向ける。そして、現になった。その漆黒の竜の全貌が。



「おいおい、こりゃあ、上位竜ってレベルじゃないんじゃないか」


「おそらく、上位竜のさらに上、神話の生き物、超位竜…………」



 無数の傷、中には深い傷まであり、翼はすでに両翼ともに潰れていたが、その勇ましさ、恐ろしさが見るだけで伝わってくる。



「今まで俺たちはこんな化け物相手に戦っていたのか…………でも」



 これでわかった。あの漆黒の竜は万全じゃない。弱っているんだ。だから、動かなった。でも今こうして立ち上がり、動き始めたってことはつまり、テラのことを自身を殺しうる存在だと認めたということだ。


 ならここを絶えしのぐことができれば勝機はある!!



「…………兄さんならこんなところで立ち止まらない。兄さんなら!!」



 全身から熱を発しながら、体が熱く煮えたぎる。

 強化されていく肉体、視覚、五感、まるで自分の体じゃないみたいな感覚が全身を襲う。



「絶対にテラを狙わせない!!」



 今までにない速度で駆け上がり、一瞬で漆黒の竜の正面をとらえる。



「敵はここだぞ、トカゲ!!」



 限界なんてお構いなし、全力挙げてその剣を鋭利に振るい、竜の片目を切り裂いた。


 漆黒の竜は片目を奪われ、体勢を崩す。



「ダンク、ナル!今だ!!!」


「おうよ!!」


「なんか、口調が変わったような」


「ナルちゃん!今はそんなこと気にしてる場合じゃないぜ!!」



 体勢が崩れたところをダンク、ナルはひたすらに攻撃する。

 その追い打ちがさらに漆黒の竜のバランスを崩した。



「効いてやがるな!」


「そうだね。でも…………」



 ナルはひたすらに攻撃するレインを見た。

 異常なまでの熱量に、血走る瞳、どう見たって普通じゃない。



「はぁ、しぶといな」



 漆黒の竜がこちらを見つめてくる。


 感覚がマヒしたのかな、全然怖くない。それにどうしてまだ強化魔法の効果が続いているんだ。もう、1分過ぎているのに。



「神の御業、奇跡か…………ちょっとだけ神の存在を信じてしまいそうになるな。まあ、今なら信じてもいいかも」



 すでに漆黒の竜はかなりの損傷を受けている。

 問題はテラが思った以上に時間がかかっていることだが、このままいけば、勝てる。


 その時だった。


 漆黒の竜が大きく口を開き、雄たけびを上げた。



「うぅ、またスキルか!?」


「いや、違う!あんちゃん、すぐにその場から逃げろ!!」


「ダンク?」



 俺がひるみ、よそ見をした。その瞬間、漆黒の竜が牙をむき出しにしながらこちらに迫り、そのまま俺の左腕を食らい、引きちぎりながら吹き飛ばした。



「あんちゃん!!くそっ!!」



 ダンクはすぐに、吹き飛ばされた俺を受け止めた。



「大丈夫か、あんちゃん?」


「くぅ、まさか、突進してくるなんてな」



 スキル覇気でひるんだ一瞬を狙っての奇襲。でも、運がよかったのはそこまで素早く動けるわけないということだ。


 なにせ、よける余裕がまだあったからだ。じゃないと今頃、胃袋の中で、ゆっくりと消化されていた。



「それよりこの出血、早く止血しねぇとって止まってる?」


「強化魔法は極めれば、ある程度治癒力を高めることができるからな。それにまだ死ぬつもりはないが、とはいえ、ちょっとやばいな」



 俺の腕を引きちぎった後、漆黒の竜はテラのほうへと向き、ブレスの準備を始めた。



「ここまでか…………」


「いえ、どうやら、間に合ったみたい」



 俺とダンクのもとに引き返してきたナルが指さしたのテラだった。



「お待たせ、レイン。思ったより時間かかっちゃった」



 テラの周囲は膨大な魔力で吹き荒れ、その瞳はすでに漆黒の竜を写した。



「いいさ…………ふぅ」



 俺は大きく息を吸い、合図を送った。



「やっちまぇぇぇぇぇぇ、テラっ!!!!!!」


「うん!!!」



 その時のテラの姿は一瞬だけだが、兄さんを思わせた。



 

 


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