第16話 パーティーリーダーとして預かる命の重さ

 策と言っても何の準備もせずに安全で完璧な策を練ることは不可能だ。

 だから、あくまで勝つ確率を上げる策を俺は提案する。



「ナルってたしか、双剣使いだったよな」


「そうだけど」


「…………それじゃあ、ダンクは」


「俺は斧を使う戦士だ!体の硬さには誰にも負けんぞ!!」



 双剣使いと斧使い、冒険者の中では珍しいがこの策においてはとても重要な位置になる。それにダンクはとにかく、ナルは四つ星冒険者、その時点で勝算はぐっと上がる。



「そんなこと聞いてないんだが」



 ダンクは相変わらず、筋肉を見せびらかす中、ナルの口が開く。



「それでさっさと策を教えて」


「まあ、そう焦るな。まだ竜が目覚める様子はないし、しっかりとすり合わせよう」



 堂々としろ、俺。少しでも不安な様子を見せれば、ダンクはとにかくナルは疑いを向けてくるだろう。


 兄さんは決して弱いところを見せない。それにリーダーの様子、雰囲気、それが変わるだけでパーティー全体に影響を及ぼすことだってある。


 威厳を保て、気を引き締めろ。俺が弱気になったら、このパーティーは終わる。



「策はそこまで難しくない。俺、ダンク、ナルが一斉に攻め上がり、漆黒の竜の傷跡を狙い、時間を稼ぐ」


「傷跡?」


「鱗をよく見てみろ。黒くてわかりにくいがかなりの数の傷があるだろ?鱗は確かに硬いが傷ついたところなら俺の強化魔法で強化した武器の刃が通るはずだ」


「時間稼ぎ…………てことは決め手は」


「ああ、テラだ。テラには竜の心臓に今使える最大火力の魔法を使い、漆黒の竜にとどめを刺してもらう」



 この策はテラという六つ星冒険者、そして時間を稼ぐ俺、ダンク、ナルがいてこそ成立する。無謀と言われても仕方がない策だが、決して不可能ではない。



「レインの作戦はわかった。でもどうして、心臓なの?」


「竜の胸あたりを見てほしい」



 テラは竜の胸あたりを見て、気づいた。



「あれ、鱗が…………ない?」


「そう竜の胸あたり、いわば心臓あたりだけ、完全に鱗が剝げてるだろ?つまり…………」


「そこに一点集中、最大火力の魔法を打てば、あの竜を倒せる」


「そういうことだ。問題は俺たちができるだけ竜の意識をテラから逸らし、かつ時間を稼げるかにかかってる」



 聞くだけなら不可能じゃない。むしろ、勝算は全然あるほうだ。でもこの策には致命的な弱点がある。それは冒険者としての実力を問われることだ。


 下手をすれば普通に死ぬ。何よりあのブレスを食らえば即死だ。



「いいんじゃねぇか、あんちゃん、その作戦!燃えてきたなぁ、ナルちゃん!!」


「ええ、久しぶりに冒険をしているみたいで、ゾクゾクする」



 ニヤリと静かにダンクとナルが笑っていた。



「お前ら、壊れてるな」


「壊れてなきゃ、冒険者なんてしてねぇよ、がははははははっ!」


「冒険者にまともな人なんていない。そんな人がいたら、いつか壊れる。それにレインも笑ってる」


「俺が?」



 自分の頬を触るとたしかに口角が少しだけ上がっていた。

 そうか、俺も笑っているのか。こんな状況で、死ぬかもしれないのに。



「この作戦でもっとも重要なのはテラを漆黒の竜から意識をそらすように立ち回り、時間を稼ぐことにある。もし、漆黒の竜がテラを狙おうとすれば、積極的に攻撃し、阻止。それが失敗したら…………」


「最悪、自分の命を投げ売ってでもテラを守れってことでしょ?」


「そういうことだ」


「策はだいたいわかった。後は行動に移すだけ…………その覚悟はある、レイン?」



 この作戦、この策は言うなれば、囮である俺たちがどれだけ時間を稼げるかにかかっており、テラが死ねばすべてが無駄になる。


 一人一人の命がこんなにも重いなんて、ゲニーや兄さんはいつもこんなに重いもの背負って戦っているのか。



「私たちは全員、あなたに命預けてる。レインが前を向かなくてどうするの?」


「テラ…………そうだな」



 兄さんの背中を追いかけて、追い越すまで死ぬわけにはいかない。だから、生きるために覚悟を決めた。



「ナル、さっき俺に覚悟があるのかって聞いてきたよな…………俺を舐めるな!!俺は冒険者で、いずれ兄さんを超える男だぞ!!覚悟なんてとっくにできてる!!」


「テラに慰めてもらっておきながら、まあギャアギャアと叫べるね。でも、悪くない」


「あんちゃんの意気込み、確かに受け取った!!さぁ、その覚悟をたたえ、喝采をあげようじゃないか!!がははははははっ!!!」


「うるさい、ダンク」


「おっと、怖い顔をするなよ、ナルちゃん。美人顔が台無しだぞ」


「うっさい」



 ダンクとナルって本当に仲がいいんだ。ダンクは接しやすいし、ナルも最初は関わりづらいなって思っていたけど、いざとなったら頼もしいし、まるでこの4人が残ったのが運命みたいだ。



「はぁ、久しぶりに声を張りすぎた…………それで、レイン。いつ始める?私はもう準備できてる」


「俺もいつでもいけるぜぇ、あんちゃん!!」


「レイン、いつでも…………」



 3人が俺を見つめた。


 本当にどうして、みんなはこんなに強いんだか。


 俺の合図でみんなが動く。口が重い、言葉にしようとするだけで心臓が締め付けらる。



「テラ、ダンク、ナル…………」



 一人一人、名前を呼びながら目を合わせた後、ゆっくりと立ち上がり、剣を引き抜く。



「いこう、竜討伐だ」



 こうして、本格的に漆黒の竜討伐の幕が上がったのだった。

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