第7話 心の底から笑うレイン

 いつもの場所で一人、薬草採取を行う俺だが、今回は一人ではない。

 なんと、六つ星冒険者のテラさんと一緒だ。



「む、難しい」



 テラさんは頭を傾けながら、薬草採取に苦戦していた。別に薬草をとること自体は難しいことではない。だが品質を確保しつつ、採取するというのは難しく、至難の業。


 それこそ、精密な魔力操作を行う必要がある。



「最初は普通に採取するだけでいいよ、テラさん。魔力のコーティングとか、品質の向上とか、結構難しいから」



 実際の俺でさえ、魔力のコーティングによる品質確保しかできず、品質の向上はできない。もしこの両方ができれば、買取値段は2倍以上に膨れ上がるだろう。



「私は魔法使い、この程度で苦戦するわけにはいかない」


「そ、そう」



 エルフは生まれつき、高い魔力量を保有していると聞く。そのためか、エルフのほとんどが魔法使いであることが多い。魔法使いであり、六つ星冒険者、プライドが高くなるのも、うなづける。



「できた」


「マジかよ。たった数時間で、完璧に魔力コーティングを…………」



 魔力コーティングは精密な魔力操作を求められる技術だ。


 俺でさえ習得するのに3か月はかかったのに、それを短時間で習得するなんて、さすがだな、エルフは。



「でも、まだまだ君には及ばないみたい」


「そ、そんなことないと思うけど」


「いや、全然だよ。もっと練習しないと」



 六つ星冒険者が”練習”だなんて、変な人だ。


 こうして、薬草採取は順調に進んでいき、たった2時間で依頼内容を完遂した。



「たった一人増えるだけで…………やっぱりパーティーを組むのは大事なんだな」



 一人でこなせば6時間かかる作業を二人いれば、たったの2時間。もちろん、テラさんが優秀だったのもあるが、それでも早く終わった。


 ソロで冒険者をやるのはやっぱり、無謀だったのだろうか。



「どうしたの?」


「うん?あ、いや、ちょっと考えごと。それより次の依頼だ」


「オーク10体の討伐だね」



 本来なら、三つ星冒険者がいないと受けられない依頼だが、今回は六つ星冒険者のテラさんがいる。この機会に魔物討伐を少しでもこなそうという俺の策略だが、一つ問題がある。


 それはテラさんがあっという間に片づけてしまうのではという問題だ。せっかく、受けられない依頼を受けたのに、テラさんが討伐してしまっては俺のレベルが上がらない。


 なんとかして、テラさんが攻撃できない状況を作らないと。





 こうして、オーク10体が目撃された場所へと向かった二人。最初は探すのが難しいと思われたが、テラさんの巧みな魔法により、一瞬にして見つけることができた。



「これが六つ星冒険者の実力…………遠い、遠すぎるよ、兄さん」


「兄さん?」


「んっ!?い、いや、何でもない。それより、すごいな、テラさんの魔法は。え~と、たしか」


「探知魔法、魔力を探知、判別する魔法」


「そうそう、本当、便利すぎる。ほしいぐらいだ」



 探知魔法さえあれば、どんな状況でも瞬時に状況を理解し、行動できる。


 羨ましい、俺にも探知魔法があれば…………。



「おっとあまり雑談していると、帰りが遅くなるからな。そろそろやるか」


「…………それじゃあ、指示をちょうだい」


「わかった…………うん?指示?」


「だってパーティーのリーダーは君でしょ?」



 そうか、パーティーを組む時、必ずリーダーを決める。俺がいたパーティーのリーダーがゲニーだったように。


 これは好都合だ。テラさんが俺の指示に従うのなら、俺とオークが戦う場を作り出すことができる。



「わかった。それじゃあ、テラさんは俺の指示に従ってもらう」


「うん」


「なら、作戦はこうだ…………」



 現実的に考えてオーク10体相手に俺が一人が太刀打ちできるはずがない。なら欲張って5体、最低でも2体は俺が倒し、他はテラさんに任せる。


 これがもっとも現実的な策だ。


 問題はどうすれば、その状況に持っていくかだ。オーク10体の討伐、群れとして行動している魔物を引き離すのは簡単じゃない。


 と、一人だったら悩んでいただろう。だが、今回はテラさんがいる。


 俺は早速、テラさんに指示を出した。



「ウィンド・スパラーク!!」



 テラさんはオークが群れる中心に風魔法ウィンド・スパラークを放ち、オークたちをかく乱する。



「す、すごいな」



 魔法は本来、詠唱を必要とし、強力な魔法ほど詠唱が長くなるものだ。なのに、テラさんは詠唱をすることなく、風魔法ウィンド・スパラークを打った。



「さすが、六つ星冒険者だな。さて、俺も仕事をするか」



 テラさんの魔法でオークをかく乱。その間に俺は5体のオークの気を引くために回り込み、攻撃を仕掛ける。


 いくつか石を拾い、オーク5体を目にとらえる。



「よし、ブースト!…………ブースト・エンチャント!!」



 拾った石を強化し、さらに自身にも強化魔法をかける。そして、いつも通り、思いっきり石を投げた。


 凄まじいスピードの石は外すことなく、5体のオークにあたり、こちらに気づく。



「狙い通りだな。あとは任せた、テラさん!!」



 そういって俺は森の奥へと走り出す。


 そして、風魔法の範囲外に出たオーク5体は初めて、群れから離れしまったことを知る。



「ふぅ、こう見るとやっぱり大きいな、オークっていう魔物は」



 上から見下ろされるその眼は俺を餌としか捉えていない。


 はなから敵とさえ認識していないのだ。



「後悔させてやる。なにせ、最近の俺は調子がいいからな」



 バカみたいに5体一気に迫りくるオーク。俺はすぐに強化魔法をかけ、加速し、よける。



「大きく体が重い分、迫力はあるけど遅い。特徴通りだな」



 オークは大きく、力がある代わりに動きが鈍く、賢くない。そのため、群れで動くことが普通だと言われている。だが、実際それが本当がどうかは見てみないとわからないものだ。



「ブースト…………」



 強化するのにはかならず限界というものがある。俺は自身に限界ギリギリまで強化した。


 そして、オークたちに一気に攻め上がる。


 一体目のオークに向かって強化した石を投げ、瞳をつぶした後、足の筋を切り裂き、行動不能にさせた。



「よし!っておっと!?」



 すぐにほかのオークが反撃に出た。

 仲間のオークをかばうように動き出し、手のひらで叩き潰そうとするが、難なくとよける。



「仲間思いだな。でも…………」



 すぐに石を取り出し、投げつけ、二体目の視界を奪う。

 そして、さらに石を取り出し、さっきよりも速く、鋭く、強く投げ、オークの頭蓋を貫通した。



「マジかよ…………でもこれで一体目…………」



 仲間の死に驚くオークたち、その隙に行動を不能にしたオークの頭蓋も貫き、殺した。



「あと3体か」



 しかし、オークたちも見ているだけではない。



「やっと、敵としてみてくれたか」



 オークたちから凄まじい殺気を感じ取った。

 仲間を殺された怒りか、そのまた復讐心か、その敵意は間違いなく俺の心を奮い立たせる。



「俺は今、冒険者だ。勇敢に立ち向かい、魔物を薙ぎ倒し、決して挫けず、前を向いて突き進み戦う、あの兄さんのような!!…………冒険者だっ!!!」



 これほど、苛烈に戦ったことはない。いつも後ろで雑用、たまに戦ったりしたけど、満足のいくものでもなく、弱っている魔物を殺すだけだった。


 でも、今は違う。


 魔物が俺を敵として見てくれる。俺は今、こうして、戦うために魔物も前に立っている。


 きっと兄さんはもっともっともっと強大な魔物を前にして戦っているだろうけど、それでも少しだけ兄さんに近づけているような気がした。


 心の底から笑う。それは喜びから溢れる笑顔だった。



「オーク共、兄さんに近づくための糧になってくれ」


 


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