第4話 強化魔法の心得

 聖女様が訪れたことで街は活気に満ち溢れるようになった。

 毎日のように聖女様をこの目で見ておきたいと教会に訪れて、祈りを捧げる。

 これでこの街の人々の半分ぐらいはティルミナ聖教の信徒になっただろう。



「さすが、聖女様だな」



 俺はここ数日、薬草採取の依頼にいそしみ、お金を稼いでいた。

 ゲニーから2か月分の資金があるものの、冒険者というのは基本的には1日分の稼ぎをする毎日が普通だ。それに、せっかく、ゲニーが俺のことを配慮してくれたお金だし、大事に使いたい。



「今日はどんな依頼にするんですか?」


「魔物討伐の依頼はないか?」


「ま、魔物討伐ですか…………う~ん、ちょっと待ってください」



 二つ星冒険者に魔物討伐の依頼なんて、そうそう舞い込んでくる依頼ではない。それをわかっていても、魔物討伐ができなければ、兄さんに近づく以前の問題だ。


 当面は三つ星冒険者を目指すけど、果たして何年後になるのやら、気が遠くなる。



「レインさん、ちょうどいい依頼がありました。なんとティルミナ聖教側の依頼なんですが、ゴブリン3匹の討伐依頼です」


「たった3匹?しかも、ティルミナ聖教って」


「ええ、場所はレインさんが薬草採取しているところから近い、洞窟付近なので、レインさんにちょうどいいかと」



 ゴブリンたった3匹の討伐に依頼を出すティルミナ聖教。

 そんなことが果たしてあるだろうか?いや、考えすぎか。今は運良くも魔物討伐の依頼があることを喜ぼう。普通は1年に一つあるかどうかなんだし。



「わかった。それじゃあ、この依頼にするよ」


「はい!では、手続しますね」



 こうして、俺はゴブリン3匹の討伐依頼を受け、すぐに依頼場所へと向かった。



 薬草採取をしているところの近くをしばらく歩いていると、洞窟を見つけた。



「ここらへんだよな」



 見渡した感じ、特に魔物の気配は感じられない。

 とりあえず、俺は戦闘に備えて強化魔法を自身にかけた。



「ブースト」



 強化魔法はすごく繊細で、魔力操作次第では、視野角や反射速度を強化できたりもする。だが、基本的には、身体能力強化のブーストのみを用いることが多い。


 その理由は、強化魔法を極める人なんてほとんどいないからだ。


 ついでに俺は視野角拡張のブースト・フィールドや反射速度強化のブースト・リィフレクションなどが使える。


 まあ、魔力消費量が多すぎて、あまり使う機会はないんだけど。


 しばらくして。



「結局、夕方まで姿を現さなかったな。もしかして、依頼ミスか?でも、ティルミナ聖教がそんなミスするとは思えないけど、仕方がない。ブースト・フィールド」



 仕方なく、俺は強化魔法ブースト・フィールドを用いて、視野を通常の5倍に引き上げ、周りを観察する。


 すると。



「いたな」



 洞窟から南東2キロ先に3匹のゴブリンを見つけた。



「意外と近かったな。というか、こっちに近づいてきてる」



 俺はすぐにゴブリンを出迎える準備をはじめた。

 と言っても確実に殺すため、草むらに身を隠せるだけだ。


 なにせ、俺は二つ星冒険者、ゴブリンとの戦闘ですら命を落とす危険がある。



「そろそろか」



 近づいてくる足音、そしてゴブリンの不気味な声が聞こえてきた。


 ゴブリンは見た目が醜悪で嫌悪感を感じるが、構造は人と同じだ。つまり、弱点も酷似こくじしている。



「狙うは頸動脈けいどうみゃく



 ゴブリン3匹を確認した後、俺は一番後ろにゴブリンに襲い掛かる。

 短剣を首に押し当てながら、空いている手でがっしりと頭をつかみ、一気に引き抜く。



「ぎゃぁああああああ!!」


「一匹目」



 紫色の血が飛び散り、残った二匹のゴブリンは一瞬、硬直した。

 その隙に二匹目に向かって走り出す。


 混乱している間に二匹目を仕留める!



「ぎゃぁ!?ぎゃぁぁああああああ!!!」



 こちらに気づくゴブリンは棍棒を構えたが、その時にはすでに、仕留めるのに十分な距離を止めていた俺はすかさず、ゴブリンの両手を切り裂く。


 そして、流れるように二匹目の首を切り裂いた。



「二匹目」



 今日はなんだか、すごく調子がいい。頭がさえているというか、なんというかとにかく体が思った通りに動くぞ。


 二匹もやられたゴブリン、最後の一匹は怯える様子を見せ、後ろを向いて走り出した。



「逃がさねぇよ」



 俺はそこら辺の転がっている丸い石を手に取り、力を込める。


 強化魔法は二通りの使い方がある。一つは自信を強化する際に使う。もう一つは触れたものを一時的に強化する使い方だ。



「ブースト・エンチャント!」



 強度を上げた丸石をゴブリンにめがけて、強く投げつけ、頭を貫通し、即死した。



「ふぅ、やっぱり今日は調子がいいな。強化もなんだが、一段と仕上がっている気がする」



 今までの俺なら、強化した石を投げたとして、ゴブリンの頭を貫通させることができただろうか?いや、できなかった。



「日課は特に変えてないし…………まさか」



 ふと思い出す。聖女様に祝福されたあの日を。



「まさか、神の御業的な?まさかな…………」



 ゴブリン3匹の討伐が終えた俺は素材をはぎ取り、冒険者ギルドへと戻った。



□■□



 冒険者ギルドに到着し、すぐにメルトさんに確認をしてもらった。



「確認終わりました。依頼お疲れ様です、レインさん。これが報酬金です」


「ありがとう」



 久しぶりの魔物討伐。ゲニーたちのパーティーにいたころは後方支援が多かったから、少しだけ達成感がある。


 でも、兄さんはゴブリンよりも遥かに強く脅威な魔物と戦っている。こんなところで満足しているわけにはいかない。


 こうして、俺は報酬金を受け取り、泊まる宿屋に向かった。


 その矢先に、俺は目撃してしまった。



「おいおい、まじかよ」



 街中の大通りで、ゲニー率いる元パーティーメンバーを。



「どうして、こんなところに、しかもよりによって俺が今日泊まる宿の近くに…………」



 見た感じ、宿屋の近くのお店でご飯を食べるような雰囲気。

 ここは少し時間を空けてから宿屋に戻ろう。



「うん、そうしよう」



 こうして、俺は少し寄り道することにしたのだった。


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る