第37話 2人、それぞれ..
【前話までのあらすじ】
キャスリンの街までの道中、スレイは自分がこの国に来た理由をマイルに打ち明けた。自分の身勝手で窮地に追い込んでしまったルーナ国の月の巫女ルナを救うため、「月の涙」を見つけ出さなければならなかったのだ。奇しくもそれは「形のない宝石」と同じものだった。マイルはそのことをライスたちに相談することを勧めた。
◇◇◇
【本編】
3班の中で一番怪しまれずに自由に動くことができたのはアシリアとギガウだった。
2人は砂の王国ユウラ王からの書簡を持参しているからだ。いざという時はそれを見せればいい。
そんな2人が選んだのは西の森の険しい獣道だった。森のエルフのアシリアにとっては砂漠や海の旅の疲労を癒すための森道であった。
本調子に戻らなければ、森の巫女として精霊フラカをギガウのタトゥに帰す儀式も行えない。
当然、森でアシリアが姿を消そうともひとり、キャスリンの街に向かうことなどギガウは考えなどしなかった。
倒木を見つけると、早速それを骨組みに簡易的な小屋を作った。その中で寝そべりながら森の声を聞く。微かな動物の声や足音、その静かな空間を感じると心が落ち着いた。
やはりギガウも大地の子供なのだ。
いつしかギガウは眠りについた。
やさしい花の香りの後に、少し冷たい手がギガウの髪に触れたのがわかったが、ギガウは眠ったふりをして、その甘いひとときに酔いしれていた。
その間、そこには2人だけの時間だけが流れていた。
***
—その頃、キャスリンの街では....
「まったく、あいつらは何だ!? いつになったら着くんだ」
先に宿屋モンタジュに入っていたマイルが夜になっても到着しない他の連中にやきもきしていた。
—ライスとリジにいたっては..
「ちがうよ、リジあっち、あっち、絶対あっち」
「そっちはさっき来た道じゃない! 何回間違えるのよ、ばっかじゃないの!」
完全に道に迷っていた....
***
「レミン、寂しいものだな。もう昔のような花々を見ることは叶わないのだろうか」
風になびいた白い髪を耳に掛けなおすとレミンはこたえた。
「はい、残念ながら。まるで私があの国へ行くのを阻むように、木が謎の病気で絶滅して60年。私もあらゆる手を尽くし、チャカス族の精鋭をも呼び寄せましたが叶いませんでした」
「だが、この広大な畑を残しているということは、お前はまだ木の復活を諦めていないのだろう?」
「はい.. ですが、たとえそれが叶わなくともお父様が帰ってきてくださいました。私はそれだけで十分です。もうキャカの木など無くてもかまいません。リキルス国に行くことなど二度とないのですから」
2人は丘の上から枯れ木さえも朽ち果てた虚しいだけの広大なキャカ畑を眺めていた。
「これももう必要ありませんね」
「 ..」
キャスリン国のレミン王が触れた石。そこにはこのように記されていた。
[—偉大なるキャスリン国の父。アアルク王の魂、ここに眠る—」
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