第19話 始祖の印
【前話までのあらすじ】
ペドゥル国からマイルが帰ってくるまでリジとライスの特訓は続いた。ライスはルシャラから式神の本質を教わる。その過程でライスが霊力持ちであると気が付くと、ルシャラはライスに霊力のみで召喚した式神の召喚を試みる。霊力を安定させる印を手に書いたライスが呼び寄せたものは不気味な少年の影だった。
【本編】
あの日以来、ルシャラはライスに式神の訓練をせず、ただロスが使っていた自然力を使う式紙の練習をしていた。
まだ不慣れなライスは白虎や黒豹をだすことはできず、白いテンや白い狐もしくは白い犬などの小動物しか出せずにいた。
ルシャラが言うには白虎などの大型獣を出すのはそんなに難しいことではない。ただの慣れということだ。
ライスは白テンを召喚すると、向こうで座禅をしているリジの胸に飛び込ませた。
「きゃ! うわっ、何よこの子。可愛いじゃない!」
「そうでしょ? ロスさんみたいに長い時間は無理だけど、10分くらいなら出しておけるよ」
「でも、凄いじゃない。凄い上達だよ」
白テンはリジの脇に顔をうずめている。
「うん。なんか式神の方の練習をしていたら、式紙はその応用なんだってわかった」
「そうなんだ。で、式神はもう習得できたの?」
「いや、それが式神を使うのは、しばらく禁止だって」
「何でなの?」
「どうやら私の力が安定しないからだって。力の消耗も激しいから、訓練が必要なんだってさ。今、もし闘いで使う状況があったなら、それは死を覚悟することらしいよ」
「え!? 死って.. 」
その時、店のポーチからライスを呼ぶキース・レックの声が聞こえた。
「どうしましたか、キースさん? あっ、もしかして伝説の何かをくれるとか!?」
「伝説の武具は食品店に並ぶ調味料じゃないんだ。そんなに頻繁に出たらありがたみもないだろ」
「えへ。そりゃそうだね」
「そんな伝説の武具よりも役に立つものを君にあげよう。昨夜、君の先生に注文を受けたんだ」
——
昨晩のキース・レックの店
「やぁ、キース。久しぶりね」
「そうだな。620年ぶりだな。昼に君の姿を見た時は、驚いてしゃっくりが止まったよ」
「ふふ、相変わらずね。ただ、私には当時の記憶でしか話せないから、久しぶりな気はしないんだ。でも、さすがのハーフエルフも少しは年取ったようね」
「まぁな。俺たちはエルフと違って人の血半分だからな、ところでこんな時間になんだ。今更、俺に会いに訪れたわけでもないだろ」
「そうでもない。さっき、言ったでしょ。私の記憶は、リベイルが幼い頃の私。私には、あの時からまだ数年しかたっていないのだから.. 会えてうれしい」
ルシャラはキースの手に触れた。
「 ..ああ、そうだな。俺もだよ。 だが、何か用もあるのだろ?」
「ええ。実は作って欲しいものがあるの。これを刻んだものが必要なの」
「この印は、お前たちの始祖が刻んでいたものだな」
「あのライスは霊力持ちよ。間違いない。あの子は本当の式神使いの力を持っている」
「だが、おまえの始祖はこの世界に使える本当の式神はいないと言っていたぞ」
「そう..まさに、それが問題よ。あの子はそれではない何かを呼び出した。それも凄まじい力を持つ者を」
「だが、式神として呼ばれたというなら、敵ではないのだろ?」
「たぶん。でも、ライスの霊力には魔力という雑味が混ざってしまう。だから魔力とは別の霊力用の出口を作りたいのよ」
「なるほど、純粋な霊力の出入り口か。わかった。だが、霊力をもつあの子は何なのだ?」
「わからない。でも、懐かしさ.. リベイルはそう感じていたようだ。だからこそ、彼女の為に私を式紙として残したんだと思う」
「そうか.. それで、君は、あとどれくらいだ?」
「ごめんね、キース。もう、そんなに長くはないと思う。リベイルが込めた力は最低限だから」
「そうか。なら、もうこれが最後かもな」
「そうね、だから..」
店の窓には2人の影がランプの明かりに揺れていた。
——
キースの店から出て来たライスの耳には耳飾りが付いていた。小さな銀の飾りには六芒星が刻まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます