9.

 自身の行動にあざとさを感じるが、ゴミを取る素振りをして、さっさと済ませようと思った。

 深緋は彼の間合いに入り、白く滑らかな首筋に目を据えた。


「でも、生憎あいにく。高校生は対象外なんだよねー」


 あんぐりと口を開けた直後。背中に強烈な痛みが走った。


 プス、と何か先の尖ったものが深緋の背に刺さっている。細長い棒状のものだと感じて、苦痛に歪めた顔で彼を見上げた。


 笑顔だ。さっきと変わらぬ、爽やかすぎる笑みで、深緋を見つめている。


 ザッと引き抜かれた異物の感触。続けてもう一度、太い針のようなものが背中に突き立てられる。


「っあぁ……!」


 刺された箇所に熱が生じ、体勢を崩す。凶器が抜かれ、地面に片膝をついた。アイスピックだ。男の手にそれが握られていた。鋭く尖った先端から、深緋の血が滴り落ちた。


「あと十歳、歳をとっていたらばっちりなんだけどなぁ。ほら、ミアカちゃんの目って気が強そうだから、だし」


 クククと笑いながら、男は狂気に歪んだ顔でアイスピックの先端を舌先で舐めている。


 こいつ、もしかして……?


「……あんた、なの?」若干、呼吸が苦しくて、声が途切れた。


「あんたが……あのニュースでやってた、連続殺人鬼?」


 男は愉快そうな笑みを絶やさず「そうかもね」と答える。


「あのニュースがどのニュースを指すのかはわからないけど。多分そうだよ」


 背中からじわりと滲んだ大切な血が、少しずつ深緋の体温を奪っていく。


「っく……!」


 許さない。

 刺された事による怒りで、頭が沸騰しそうだ。口の中でモゾモゾと歯が疼いた。男に気づかれぬよう、深緋は顔を俯けた。


「本当はさぁ、コンビニに向かった女の子の行確をしてたんだけど。良いところで邪魔してくれたから。これはそのってことで」


 男が深緋に近づき、アイスピックを握り直した。


「大丈夫だよ。ミアカちゃんは十代だけど、特例で仲間に入れてあげるか、……ら?」


 そこで男の言葉が途切れた。掲げたアイスピックを振り下ろすことも忘れ、不自然に固まっている。


 深緋がこれまでに経験した、体の異変が訪れたせいだ。


 自身の二の腕や腰周りが細くなり、バストが張るのを感じる。下肢が僅かに伸びて、身長が高くなる。


 ああ、間に合わなかったのか、とがっかりした気持ちで嘆息がもれた。


昨夜のタイムリミットを過ぎて、ついに上限姿から十年老いてしまった。


「……っへ? なん、で??」


 足に力を入れて、深緋が立ち上がる。男はおろおろと後退りをした。

 それまで俯けていた顔を上げると、深緋の両目があかく染まっていた。血の匂いに感化され、意志とは無関係に牙が生えたため、瞳の色が変化している。

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