悪夢を見る俺と夢改善士の夢野さんが出会う話

あかせ

第1話 良い夢見れた?

 「来るな、こっちに来るな~!!」


俺は夢の中で逃げながら叫んでいる。“黒いもやがかかった謎の存在”が追いかけてくるのだ。


この状況を夢と自覚してるが、正体がわからないものに追いかけられたら誰だって怖いし逃げるよな。



 俺は何故か知らないが、小さい頃から悪夢を見てばっかりだ。今のような追いかけられる夢や高いところから落ちる夢・大切な何かを失くす夢とかをよく見る。


そんな睡眠だから、ほぼ毎日寝不足だ。授業中は何とか我慢するが、昼休みは耐えられない。弁当を食べ終わったら即寝ている。


うたた寝程度の短い時間だと悪夢を見る事はほとんどないが、満足度は低い。睡眠にはどちらも欠かせない。


巷には睡眠改善の方法はたくさんあるものの、夢の内容を何とかする手段は俺が探した限りでは見つからなかった。


ガチで探してこれだぞ。俺は一生悪夢を見続けるのか…。



 そんなある日。朝のホームルーム中に担任の柴田先生が言う。


「今日はお前達が待ち望んでいる“席替え”を行う!」


周りから嬉しそうな声が聞こえるが、俺はどうでも良いな…。うるさい人が近くにいなければそれ以上は望まないぞ。


「前を希望する人以外はで決めるからな!」


後ろの方にいても黒板は見えるし、前を希望する理由はない。俺のくじ運頼むぞ!



 くじの結果、窓際の一番後ろの席をゲットした。良いところになったが、問題は隣の席だ。相手によっては前言撤回しないといけない。


先生が手書きした座席表によると、隣は“夢野ゆめの 咲夜さくや”さんらしい。俺の知る限りうるさい人じゃないし、前言撤回せずに済みそうだ。


全員新たな席が決まったので、素早く移動を完了させる。…後ろに人がいない解放感・窓から入ってくる新鮮な空気。やはりここは最高だ!


なんて思いながら、窓の外を眺めていると…。


暗城あんじょう君」

隣の席の夢野さんが声をかけてきた。


「ん?」

何の用だ?


「これからよろしくね♪」


可愛らしい笑顔とキレイなミディアムロングの相性は抜群だな。


「ああ、こちらこそ…」


会話する機会はないと思うが、わざわざ挨拶してくれたのか。彼女も良い人そうで一安心だ。


「席替えは終わったから、ホームルームの続きな」

柴田先生は話し始める…。



 それからというもの、俺と夢野さんはまったく話す事なく授業・休憩時間を過ごしていく。そして、昼休みの時間になった。


俺にとって昼休みは、腹ごしらえと同時に昼寝の時間だ。少しでも長く寝るために、早く弁当を完食しないと。


夢野さんは友達を自身の机周りに呼んで弁当を食べている。当然おしゃべりしているが、俺の昼寝を邪魔するレベルじゃないな。


……よし、食べ終わった。眠気と満腹感のダブルパンチにより、机に伏せた俺はすぐ意識を失う。


zzzz


 普段寝る時の格好をしている俺は、自室のベッドに寝っ転がりながら漫画を読んでいる。そんな時、カーテンをしている窓から突然コンコンという音がした。


何かが窓に当たったのか? そう思ってカーテンをめくると…。


「今日こそ殺す! 暗城智久!」


窓越しにいる“黒いもやがかかった謎の存在”が、ボイスチェンジャーで加工されたような声で俺を脅す。うたた寝なのに悪夢を見るのかよ!


「うわぁ~!!」


早く逃げないとヤバい! 俺はいつものように足を動かそうとするが、ベッドの脚につまずいて転んでしまった。


謎の存在は、窓をすり抜けて俺との距離を縮める。もうダメだ、そう思った時…。


「そこまでよ!」

部屋の扉が開き、夢野さんが入ってきた。


「夢野さん? どうして俺の夢の中に?」


「話は後! 暗城君から離れなさい!」


彼女が手を上にかざすと、温かい光が現れて部屋中を明るくした。まるで俺の部屋に太陽があるかのような明るさだ。


「ぐあぁ~!」


謎の存在はもがき苦しみ、そして少しずつ消えていく…。夢野さんが出した光は俺を癒す効果もあるようだ。リラックスできているのがはっきりわかる。


「夢野さん、どうして俺の夢の中にいるんだ?」


「話すと長くなるから、覚えていたら教えてあげる」

彼女はそう言って、俺の部屋を出て行く。


夢野さんがいなくなったと同時に、温かい光は消えて部屋は本来の明るさを取り戻す。一体何だったんだ? 俺の意識は、ゆっくり覚醒し始める…。


zzzz



 意識が完全に戻った俺は、顔を上げてから教室にある掛け時計を見ようとした。だがその前に、背中に触れられてる感触を確かめるのが先だ。誰かのイタズラか?


感触の正体は、夢野さんの手だった。彼女は起きたての俺に微笑みながらこう言った。


「暗城君、良い夢見れた?」

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