第4話  五稜郭入城

十月二十六日 

十二月九日

      五稜郭入城の際、大鳥軍に所属している新選組隊士野村利三郎と土  

      方軍所属陸軍隊隊長春日左衛門の間で抜刀して切り合いになりそうな 

      騒動があった。理由はどちらの隊が先に入城するかだった。

      結局、額兵隊が先頭で入城することで決着した。


森常吉   「先生、三好殿ですが申し訳ありませんでした。先生は三好殿に親身 

      になっておられていたのに。」

土方歳三   「森君、君が責任を感じることなどありゃしねぇよ。松前に出張る準備 

      を頼む。


土方の日記

       明日、松前藩藩士の渋谷十郎なる者と会うことになっている。

       場所は、箱館市中大町にある松前藩定宿の亀田屋藤兵衛方。


十月二十七日

十二月十日

      午前中は、五稜郭で大鳥君と松前戦に関する軍議を開いた。

      参加者は以下の通り。

      守衛新選組隊長  島田魁

      彰義隊先方隊長  渋沢誠一郎

      衝鋒隊隊長    永井蠼伸斎

      陸軍隊隊長    春日左衛門

      額兵隊隊長    星恂太郎

      仏軍事教官    カブヌーブ ・    ブッフィエ

      諸隊       砲兵隊 ・ 工兵隊

      総数 八百名


大鳥圭介   「土方君を総督とし、明日正午出発。有川で宿営する。それからの軍

      事行動に関しては土方君に一任する。春日さん、先発隊を出して宿舎の 

      手配を頼みたい。」

春日左衛門 「承知。」

大鳥圭介  「以上。解散。」

土方歳三  「島田君、森君に今回は出番なしと伝えてくれ。それから、市村と渡辺 

      は連れていく。お前のところに入れてくれ。」

島田魁   「了解しました。」


      土方は指示を出して大町に馬で向かった。新選組大野右仲と相馬主計を 

      同行させた。

      亀田屋藤兵衛方に着くと既に渋谷十郎と安田純一郎は到着していた。

      部屋に通され席に着くや


土方歳三  「副長の土方である。大野と相馬が同席いたす。」 

渋谷十郎  「お越しいただき申し訳ありません。同席いたしているのは安田純一      

      郎です。」

土方歳三  「早々ですがご用件は。」

柴田十郎   「去る八月、松前藩京都邸と江戸邸において、私が隊長をしている松前

      胖正義隊(反幕派)が松前藩親幕派の家老一派を粛清致した。その報告を 

      藩当局に報告するため十月二十五日箱館港に入港しました。既に貴軍

      が松前方面の街道を閉鎖しているので松前に行くことは困難、もし途中

      で捕縛でもされたら武門の恥。何卒、ご理解いただき通行手形を出して

      頂けないでしょうか。」

土方歳三  「内容は理解致した。しかし、貴藩とは既に戦端が開かれている。私

      の一存で決められるものではない。渋谷殿の武士としての心情は武士の

      鏡だと思う。

      我が軍隊長松平に決済してもらう。明日、十時五稜郭まで来ていただき 

      たい。」


      双方、亀田屋を後にした。

      五稜郭についてその足で松平太郎の部屋を訪ねた。

      松平は通行手形を書こうと言ってくれた。


土方の日記

      松前城を落とすことは容易だ。大鳥が「土方に一任する。」と言ってく

      れた。彼に出しゃばれると面倒だった。明日、渋谷十郎が来たら松前

      藩の回答期限を十一月十日と言おう。   


十月二十八日  

十二月十一日

      十時、渋谷十郎、安田純一郎ほか三名でやってきた。 

      松平太郎を中心に右に土方が立った。兵士が二列縦隊で道を造った。


松平太郎  「隊長の松平太郎です」

渋谷十郎  「松前藩士渋谷十郎です。この度は無理を承知で土方殿にお願いした次

      第です。」

松平太郎  「通行手形用意いたしました。」

      土方が渋谷に通行手形所を手渡した。渋谷は目に涙を浮かべている。

渋谷十郎  「松平殿、土方殿、このご恩は生涯忘れません。中を拝見してよろしい

      でしょうか。」

土方歳三  「どうぞ。」

     渋谷十郎は確認し、頭を深々と下げた。他の松前藩士も同様に頭を下げ

     た。

渋谷十郎 「松平殿、土方殿、一刻も早く帰城致したくこれにて失礼します。」

土方歳三 「渋谷さん、回答期日を十一月十日とする、よろしいですね。」

渋谷十郎 「かたじけない。これにて失礼いたす。」

松平太郎 「渋谷さん、仮に敵味方になったとしても武士の習い、存分に戦いましょ

     うぞ。」

 

     渋谷一行は松前へと足早に去っていった。

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