第14話:風にも負けず



 水滴型の新しい形状。


 ただし、が不足しているため。


「その小さく切ったをのりでくっつける訳ね?」


 雪人の手元には、同じ低反発ウレタンの切れ端で作った小さな円筒形の


「うん。」

「のり使うってことは、かしゃかしゃして、ベランダ?」

「だね。お願いできる?」

「はぁい」


 アカネがスプレーのりの缶を振りながら、雪人は物体オブジェクトを手に、ベランダへ移動して。


「これだと小さすぎてスプレーだと直接吹き付けるの難しいな……何かいい方法は……そうだ、綿棒で塗ればいいかな? ちょっと取って来るね」


 雪人がリビングに置いてある綿棒を取りにベランダから部屋へ戻るが。


「あ!」


 ベランダに残したアカネと


 が、小さすぎて、軽すぎて。


 風にあおられて、ぴゅーっと。


「飛んでった……」


 はベランダから外へ、見事に落下。


「ただいま」


 綿棒を手に戻った雪人。


「雪人くん、大変だぁ」


「何が?」


 雪人に顛末を報告するアカネ。


「ぉぅ……探して来る」

「わたしも一緒に探すよー」


 ふたりして。


 ベランダから飛ばされた方角の裏庭を、捜索。


「無いね……」

「むぅ……ごめんねー、手伸ばしたけど、間に合わなかった……」

「あぁ、アカネのせいじゃないから、気にしないで。ボクが迂闊だったよ。すぐに作れるから、もう一度作るよ」


 部屋に戻って、再度。


 一度行った作業なので、二度目はそれなりにてきぱきと。


 小さな円筒形を二個制作して、再度ベランダへ。


 今度は、風で飛ばされないように。


「アカネ、ちょっと持っててね」

「はぁい」


 シャカシャカを終わらせたスプレーのりを、一度紙に吹き付けて。


 そののりを綿棒ですくって、円筒形の部品の先端に塗りつけて。


 部品を取り付ける物体オブジェクトの方にも同じようにのりを塗って。


 平面と平面では接合面が弱くなるので、物体オブジェクト側には切れ目を入れて、片側を尖らせた部品をその切れ目に押し込む形で接合させる。


「これで……またオモリを乗せて、と」


 部屋に戻って、本を積み上げて、圧をかけて。


 のりが乾くまで、またまた別作業。


 作業とは言え、制作のみではなく。


 家事やら勉強やらも含めて。


 のんびりとではあるも。


 雪人とアカネ、夫婦(仮)ふたり仲良く。



 そして、のりが乾いた頃合いをみはからって。


 積み上げた本を退かせて、ぺったんこになった物体オブジェクトを取り出して。


 接合した部品を軽くつまんで引っ張って確認すると。


「うん、しっかりくっついてる」

「おぉ、上手く出来たみたいね。よかったー」

「あとは、色を付ければ……」


 バーテンダーアカネの活躍もあり。


 彩色まで終えて。


 完成した物体オブジェクトを雪人が装着。


「どうかな?」


「うんうん。今度のはデコルテ部分にも盛り上がりが付いて、それっぽくなってると思うよー」


「横から見ても違和感ないかな?」


 と、身体を回して、アカネに側面を見せる雪人。


 雪人を横から見たアカネは。


「あ……」


「ん? どうかした? 何か問題?」


「あー、いやー……正面からだと気付かなかったけどさ」


「うん?」


「浮き上がって、身体にくっついてないっぽいね……」


「え?」


 雪人が姿見の前に移動して、自分で横向きになって確認してみると。


「ホントだ……浮いてる……」


 即座に状況を分析する、雪人。


「あぁ……そうか。裏面はほぼ平らだから、ボク自身の身体の形に合ってないのか……ってコトは、裏面も……」


「あはは。まだ改良の余地あり、って感じ?」


「だね……」


「でも、服着てしまえば中の状態はわからないから、とりあえずはそれでもいいんじゃない?」


「だね……」


 実際に服も着てみて確認すると。


「うんうん、イイ感じじゃない? もうこれでも充分オッケーだと思うよ」


「だね……」


 だが、しかし。


 雪人の中では、まだまだの完成度。


 故に、まだしばらく。



 雪人の挑戦は。



 つづく。






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