第7話:描くはアカネの……


 立体マスキングでグラデーションの再現は。


「おぉ、なんかそれっぽくてイイ感じ?」

「うーん。疑問形だよねぇ、やっぱり……」


 それっぽいと言う意味ではそれなりに良く出来ているんじゃないだろうか、と、思いながらも現物と比べるとどうしてもと言えるが。


「まぁ、雰囲気出てればいいかな?」


 と。


 この日の休日作業はここまでで。


 平日はさすがにこまごまとした作業はできず。


 ざっくり大ざっぱな作業を少しづつ。


「今日はソレ?」

「うん。色の塗り方はなんとなくわかったんで、次は新しい形状を試してみようかと」


 カバーを剥かれ、低反発ウレタン素材がむき出しになった元・クッション。


 すでに一部が切り取られていて元の形状からは変化している。


「切り分けるのが難しいんだよね……まっすぐ切れなくて」

「確かに、ガタガタになってるねぇ」


 最初の試作分を切り離した断面がまっすぐではなく、段差があってしかも斜めに歪んでいる。


「カッターで『すぱーっ』て切れないの?」

「素材が柔らかすぎて、カッターが上手く入らないから、ハサミで少しづつ切り目を入れていく感じじゃないとダメなんだけど……」

「カッターじゃないから、少しづつズレてしまう、と?」

「そうそう、そんな感じ……」

「難しいのねー」


 言いながら、雪人が元クッションにハサミを入れて行けば。


「お? ちょっとづつ切れてる?」

「うん……確認しながら、少しづつ、ね」


 チョキチョキ。


 四角形のクッションを、薄く上下に二分割しつつ、左右にも二分割。


 最初に四分の一を切り離していたので、その下部を分離すると、残りはちょうど半分になったクッション。


「切れた……」

「うん、ガタガタだね……」


 慎重に、と言いながらも、勢いあまっての部分も多々。


 断面は、ギザギザになってしまうが。


「まぁ、この面をそのまま使う訳じゃないからね」


 実際には中央部分をさらに切り抜いて行くため、外側になる部分は多少歪みがあっても問題はない、と、雪人は判断。


「さて、この切り取った部分におおまかな形状をサインペンで書いていくよ」

「はーい」


 と言っても、アカネは特に何をする訳ではなく。雪人の作業を眺めて、時々突っ込みを入れる。


 百円ショップで買ってあった四十センチメートルの定規を当てて寸法を測りつつ、先ずは直線でガイドラインを引いてゆく。


「その線の交わってるところが、になる訳ね?」

「そうそう。こんな感じで」


 答えながら雪人がその交点に十円玉程度の円を描く。


「コンパスを使えばきれいな円を描けるけど……そこまで正確じゃなくてもいいから、こうやって……」


 中心となる頂点から、少しづつずらして均等な長さになるよう測りながら点を描いてから、その点と点を繋ぐ線を描けば。


 左右に大きな円がふたつ。その円と円を接続するように少し細い弧を描く。


「おぉ、前回のより大きくてボリューム感あるね」

「うん。前回のは小さかった上に切り間違えてどんどん小さくなっちゃったからね……今回は大きめに」

「ちょっと待ってね……えっと、ブラはこのクローゼットか」


 アカネがクローゼットから手ごろなブラジャーを取り出して来て。


「ほいっと」


 雪人がウレタン素材に書いたサインペンの図形に取り出したブラを当ててみる。


「うん、いい感じじゃない?」


 円形がブラのカップにピタリと収まっている。


「測った?」

「いや……目分量」

「すごっ! そこまではっきりとわかるぐらいに見てるねっ!」

「あ、いや、まぁ、その……はい……」

「あ……そうか……」


 夫を照れさせるのが得意な妻が、何かに気付く。


って……って事かぁあ!?」

「あぁ、そうだね……ブラも共用シェアできるように、アカネのサイズに合わせてるから……」

「ぉぅ……」


 改めて図形と胸元を見比べて。


「ちょっと小さめに作ってね? わたしよりユキちゃんの方が大きいとか、無しで」


 そこは、乙女心を理解して。


「はいはい、了解」


 さてまた休日に、細かい作業が。




 つづく。




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