第3話:ホムセン DE デート



 教訓を活かし。


 『擬パイ』の左右の円錐を繋ぐ中央部分の脆弱性を担保するために。


 今日は、夫婦(仮)揃ってホームセンターで素材探し。


 一般的かどうかはさておき。


 ホムセン・デート。


「ねーねー、雪人くん、この枕も低反発クッションだよ?」


「あー……枕だとちょっと高さ……厚みが無くて加工するともっと小さくなりそうでさ」


「ふむふむ」


 寝具コーナー付近。


 以前にもアカネの抱きマクラを探した事もあったが、今日は。


「こっちこっち、このクッションだよ」


「へー、確かに、こっちの枕のより、安いね」


「サイズ的にも厚みがあって、幅もちょうどいい感じだしね」


「なるほどなるほど」


「っと……もうひとつ追加で買っておこうかな……まだまだ失敗しそうだし」


「あはは」


 買い物カゴに、クッションひとつ。大きいが軽いので邪魔ではあるが重くはない。


「あっちのDIYのコーナー、行ってみよう」


「でぃーあいわい?」


「ドウ・イット・ユァセルフ。自分で作ろう、みたいな」


「へぇ……あ。ドゥ・イット・ユセルフ?」


「いや、そうは言わない……」


 いわゆる、日曜大工コーナー。


 ご家庭でも簡単な大工仕事を、と。


 実際にはプロ向けにも充分使えるものもあり、プロの方もよく来られるコーナー。


 様々な工具や治具、素材、それに作業用の衣装などもある。


 家屋や家財の補修。簡単な家具ならば自作できる材料や工具。


 ドライバー、ノコギリ、ペンチ、ニッパー、メジャー、やすりなどの工具類に電動のものも多数。


 それから材木や金属、プラスチックやウレタン、ゴムなどの素材。


 そして、雪人の今日の目的は、と言えば。


「うぅん……ゴム素材で両側を繋ぐって考えてたんだけど……色が黒かこげ茶色しか、無いな……手ごろなのは黒しか無いし……」


 DIYのコーナーには、他にも、接着剤や塗料、それにネジ、ボルトナットなどの消耗材もあり。


「とりあえず、こっちのウレタン用のスプレーのりは買っておこう……どっちにしても、のりで接着する必要あるしね」


 一応、妻のアカネに語り掛ける風の、独り言をぶつぶつ、と、零しながら。


 店内の棚を一通り、見てまわる夫婦(仮)


「へぇ、手袋はわかるとして、靴下とか……下着とかも売ってるのねー」


「まぁ、男性用だけどね……あ!」


 作業用衣料品の棚付近を見ている中、雪人が何かに気付く。


「これっ!」


 雪人がかけよった壁際のコーナー。


 靴底に入れるクッション。足裏の形をした薄いクッション材だ。


「これ、これ、ほら、これ、見て」


 そのクッションをひとつ、横にして自分の胸元に添えると。


「ね? 大きさ、長さもちょうどいい感じじゃない?」


「うんうん、確かに。ちょうどいい大きさだね。左右非対称になるけど」


「これ、もともと切って使うようになってるから、加工は楽だと思う。それに、靴底に入れて使うものだから、そこそこ丈夫だろうし……値段も……」


 約二百円。


「手ごろだね」


 くすくす、と、夫のはしゃぎ具合に苦笑を禁じ得ない、妻。


「二種類あるなぁ……両方買って試してみるかな」


 クッション、スプレーのりに続けて、買い物カゴへ投入。


「あと、何かあるかなぁ……あ」


 また何かに気付く、夫・雪人。


「今度は何かな?」


 まるで、子供を連れ歩く、母のように、アカネは。


 もとより、とことん、夫に付き合うつもりで。


 見ていて、面白い、楽しい。夫が何かに打ち込む姿は。


 たとえそれが、女装のためであっても。


 疑似オ〇パイを作るためであっても。


 犯罪や、悪質な行為でなければ。


 微笑ましく。


 何より、夫がアルバイトとは言え、仕事に全力で向かう姿は。


 まぁ、苦笑する部分もありはしても。


「あ、いや、ほら、クッションが真っ白だし、やっぱり最終的には肌色にしないとなぁ、って」


「あー、そうだね。確かに。真っ白だと、違和感あるよね」


 妻も、同意。


「模型用のコーナーもあったはず……こっちかな」


 すたすた、と、店内を移動する夫に追従する、妻。


 ほんと、まるで、子供みたい、と思いながら。


「あったあった、これこれ」


 到着したのは、模型用の塗料のあるコーナー。


 様々な色のスプレー缶が並ぶ。


「うーん……ボクの肌の色に近いのは……この色かなぁ……」

「え? それだと、白すぎない?」


 夫が手にしたスプレー缶の色を見て、妻が指摘する。


「そうかな?」

「うん。どっちかと言うと、わたしの肌の色に近いかな? ユキちゃんも肌白いけど、もうちょっと濃い感じだよ?」

「そっか……じゃぁ……これかな?」


 先の色とは別のスプレー缶を手に取って見せると。


「うんうん。まだそっちの方が近いかな? でも、最初のとの中間ぐらい、かなぁ」

「なら……」


 ぽいぽいっ、と、ふたつのスプレー缶を買い物カゴへ投入。


「両方?」

「重ねて塗れば、それっぽくなるかも、って」

「なるほど……あ、じゃあ……」


 今度は、妻が……アカネの方が何かに気付く。


「もう一色、色が要るんじゃない? ほら、用に」


 そのアカネが、自分の胸元の左右の頂点付近を指で夫に示す。


「あ……なるほど、じゃあ……これだな」


 もう一本、別の少し濃い茶色のスプレー缶を手に取る。


「うーーん、もうちょっと赤っぽいと言うか、ピンクっぽい?」


「んー……そう言われると……でも、そんな色、無いなぁ……」


「ピンクはほんとにド・ピンクだね……」


「これも混ぜて使ってみるかな? でも、使う量を考えたら……」


 ピンクのスプレー缶を棚に戻し、少し横に移動して別の棚へ。


 こちらはスプレーではなく、ビンに入った液状のタイプ。筆で塗るタイプの塗料だ。


「量的にはこっちでも多いぐらいだけど……洗浄用にこっちのうすめ液も要るな……」


 ぽいぽいっ、と、ピンクの塗料に透明なうすめ液も買い物カゴへ投入。


「ふむふむ」


 などと。


「後は……」


 クッション加工用のハサミも、クラフト加工用の少しいいものを新調して。


「アルバイトしてるから買えるけど、結構な値段になるねー」

「うん……」

「わたしのブラなら三枚くらい買えそう……」

「ぉおぅ……」



 素材や資料、工具も揃え、ユキちゃんの女装は。


 加速する……?



 いずれにせよ。



 まだまだ、つづく。




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