第2話 デート(準備)

「え、結構唯希って料理できるんだね。お姉ちゃん意外だわ」


「初っ端から失礼だな。俺だって料理くらい出来るわ。そういう姉さんこそ料理できないと結婚なんて出来ないぞ」


「う、うっさいわね。そんなこと分かってるわよ。毎日練習してるっつうの」


「じゃあ今度実家行く時楽しみにしてるわ」


「くっ…」


 姉さんが来ているということで普段より豪華な朝食を作ったというのに姉さんと来たら…相変わらずプライド高いな。


 茜は何やら呆然としている様子である。


 そういえば結局2人はどんな話をしたのだろうか。部屋から出てきた時、茜が顔をすごく赤く染めていたから何となく想像できるが…。


 そんな暇あるなら婚活でもしたらいいのに…あ、言いすぎだな。昔から姉さんは無駄に勘がいいから思考がバレる可能性があるし。


 まあ女子の会話ということだし男の俺が聞くのはやめておこう。


「さあ食べた食べた。茜も起きろー」






「まあ中々美味しかったわ。じゃあ私はちょっと用事を思い出したから帰るね」


「ああ」


 結構早いな。予定では昼くらいまで滞在する予定だったのだが用事ってなんだろうか。


「また来てくださいねお義姉さん!いつでもお待ちしています!」


「いつでも?!本当に?!」


「はい、私たちは家族なんですから」


 茜っていい子すぎるよな…。こんな姉さんに優しくしてくれるなんて兄としては嬉しい気持ちもあるが、ちょっと複雑である。


 茜の言葉を聞いて感動したのか姉さんは茜を自分のそばに抱き寄せる。そして俺の方に睨みながらこう言った。


「私が貰ってもいい?」


 いや冗談でもダメに決まってるだろ。


 俺は姉さんの頭に軽くチョップをかますと茜を抱き寄せた。


 そして上書きするかのように強く強く抱擁する。もちろん力加減はしている。茜に痛い思いをさせるのは俺の倫理に反するからだ。


「ちぇっ、冗談じゃん。じゃ、また来るからね。またねー」


 なんか朝から疲れちゃったな。予定が崩れたし今日は久しぶりに茜とデートにでも行こうか。


「なあ茜」


「…」


「茜?どうした?」


「いや、あの、ちょっと恥ずかしいかな?」








 デートの前からとてつもない攻撃をモロにくらってしまった。姉さんから守るためだったとはいえ愛してやまない嫁と長時間密着しっぱなしってのは精神衛生上良くない。


 落ち着こう俺、今ならデートなのだ。お互い気まずい雰囲気の中勇気を出してデートに誘ったら快く了承してくれた。


「やっぱかっこよくしないとダメだよな」


 茜に恥をかかせるわけにはいかない。世界一可愛い茜の隣を歩くのだ。ヒソヒソと陰口を叩かれてしまったら溜まったもんでは無い。


「これでいいかな」


 我ながら悪くない格好だと思う。これなら茜の隣を歩いても大丈夫だろう。


「俺は準備できたよ。準備できるまで待ってるから急がなくていいからなー」


「すぐ終わりますので!」


 それから数分して茜がおめかしをして部屋から出てきた。


「似合ってるぞ茜」


「うん先輩もかっこいい…けど…」


「けど?」


 なんだろう、変なところでもあっただろうか。


「その服見たことがありませんね。系統的に先輩が買うようなデザインじゃありませんよね。一体誰に買ってもらったのでしょう?」


 これはまずいな。たまに出る茜だ。目からハイライトが消えて目の焦点があっていない。


 なぜこうなるのか結婚してからも分かっていないんだよな。不意に出るから抑える時は苦労する。


「先輩にそんな似合うかっこいい服買うなんてもしかして女の子ですか?別の女の子がいるんですか?」


 圧が強い。圧が強いな。


「この服はこの前姉さんが送ってくれたんだよ。デートの時に着たかったから今まで隠してたんだ」


「そ、そうだったんですね!さすが先輩のお姉さんです。センスの塊ですね!」

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