婚約破棄されましたが、初恋の人に求婚されました

有栖悠姫

第1話


「すまないカティア、君との婚約を破棄してニナと婚約することにしたい。彼女を愛してしまったんだ」


「ごめんなさいねお姉様。けど仕方なかったの、本当に愛する人と出会ってしまったから。まあお姉様には一生分からないでしょうけど」


申し訳なさそうに肩を竦める婚約者、だったはずの男ダニエル、その隣に寄り添うように座っている異母妹ニナは自分が姉の婚約者を取ったことなど微塵も感じさせない、勝ち誇った顔でニヤついている。


悲惨な目に遭った筈の彼らの向かいに座るカティア・クラウナーは眉間に皺を寄せつつも、硬い表情で唇を結んでいる。


すると急にニナはダニエルの腕にしがみついた。


「きゃっ、お姉様が私を睨んでるわ…そうされても仕方のないことをしたのは事実だけど…また殴られたら怖いわ…」


父と同じ緑の大きな瞳をうるうるとさせて上目遣いで見上げるとダニエルがきっ、と婚約者だった筈のカティアを睨む。


「カティア、恨むのなら俺だけにしてくれ。ニナは血の繋がった妹だろ、どうしてそんなに嫌うんだ。聞いたぞ、俺が彼女と話してると後で愛人の子の癖に図々しいと罵倒しながら殴っているんだろ?…いつか改心してくれると思ってたがもう限界だ、君のような冷酷な人とは共に人生を歩みたくない」


(ニナはそんな見え透いた嘘を吹き込んでたのね。私とは長い付き合いの筈なのに、簡単に騙されるくらいには私のことを見てなかったということ)


そもそも愛されなかった女の娘の癖に図々しいと罵倒しながら殴るのは、かつてニナがカティアに行っていたことだ。カティアに跡を継がせるために父が適当に選んだ婚約者が出来てからは、見える部分に傷が出来るような体罰は無くなったが。



(お母様とお爺様達が立て続けに亡くなって直ぐにこの邸にやって来て、私の部屋もアクセサリーもドレスも全て奪い嘘を吐いて私を貶め続けた異母妹をどう好きになれと言うの)


カティアは侯爵家の長女として生まれたものの、両親は完全なる政略結婚。父には平民の恋人がいたが当然前侯爵夫妻に反対され結婚することは叶わず。伯爵令嬢だった母と半ば無理矢理結婚させられたそう。


そしてカティアが生まれると義務は果たしたとばかりに父は家に全く寄りつかなくなった。カティアが13歳の時、病気で母が、事故で庇護してくれていた祖父母が立て続けに亡くなった途端戻って来て、祖父母の代から仕えていた使用人を全てクビにして自分達に従う者を雇い入れたのだ。


それからカティアの生活は一変した。ニナを溺愛する父はカティアのものは全て取り上げ、ニナに与えた。カティアは日当たりの悪い部屋に押し込められ、食事も質素なものしか与えられなくなった。


父は祖父によって無理矢理結婚させられた母と同じ、亜麻色の髪に青灰色の瞳を持つカティアを疎み、気に入らないことがあると鬱憤晴らしにカティアを殴る。「母親と同じくさっさとくたばれ」と吐き捨てた顔は、とても父親とは言えない程醜悪だった。


義母も自分と父を引き裂いた母を大層恨み、その娘のカティアを虐げた。そんな両親を見ていたニナも、カティアはぞんざいに扱っていい存在だと思い込む。


何もしてないのに「お姉様が叩いた」「階段から突き落とされそうになった」「愛人の子の癖に忌々しい、いつか追い出してやると脅された」等と嘘泣きして父に訴えるのだ。


それを間に受けた父により激しい折檻を受けるのは日常茶飯事だった。


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