アイドルスーパースター列伝

猫寝

第1話 挑戦者

 華やかなステージの上には、大量の屍が横たわっている。

 その全てが若く、可愛く、そして希望に満ちあふれていた少女たちだ。

 夢を追い、そして破れた彼女たちの屍をかき分けるように、1人の少女が歩を進める。

 周囲の少女たちの夢をも背負うかのように、ただひたすら前へと、真っ直ぐ進む。

 そして―――辿り着いたのは、先程とは比べ物にならないほどに屍の積み上げられた、最後の舞台。

 その一角に、小高い丘が有った。

 数え切れないほどの少女たちの屍が、折り重ねるように積み上げられて作られた、小高い丘。

 その頂点には―――玉座。

 全ての少女たちの頂点で、屍の上の玉座に深く腰掛け、新たな挑戦者を見下ろしている。

 ただ座っているだけで、恐ろしいまでの威圧感、オーラを放つ存在を前に、ここまで辿り着いた少女も、一瞬だけ足が止まる。

 しかし、すぐに足は、体は、前進を再開する。

 まるで、何かに背中を押されるように、前へ進み――――覚悟と共に玉座を指差し、叫んだ。

「やっと、ここまで来たわよ……!全ての中心として存在し、あらゆる挑戦者を容赦なくなぎ倒す―――――その名も、ジェノサイド……ジェノサイド アイドル・ユミカ!」

「――ふふ、おいでよ 狂乱の白雪姫!あなたも加えてあげる!この、積み上げられたアイドルの屍……その一片にねん!」


「「さぁ……アイドルバトルの、始まりだ!!」」




 ――――時はアイドル戦国時代。

 新たな勢力が生まれては消えていく。

 生き残れるのは、ほんの一握り。


 その中でも、時代を作れるのは、ただ一組。


 たった一組を決める為に、今、アイドルたちの戦いが始まる――――この、仮想空間「偶像世界(アイドルワールド)」で。



『涙腺破壊の歌声(ハートキャッチボイス)!』

 狂乱の白雪姫・千愛希(ちあき)。

小さな体に可愛い顔の小動物系アイドルで有りつつも、大きな動きで長い黒髪を振り乱しながらの危機迫るパフォーマンスで、アイドル業界以外からも熱い注目を集める新進気鋭の挑戦者だ。

その歌声が空気を震わせ衝撃波を生み、地面をえぐるように周囲へと広がった!

 衝撃は、その勢いを保ったまま、玉座へ!

 だが―――

『心を撃ち抜く瞬き(ショットガンウインク)!』

 パチッ…と音がするほどに、大きな瞳を麗しく片方だけ閉じるジェノサイドアイドル・ユミカ。

 世界各地に支部を持ち、メンバーの数は総計で万を超えるという巨大アイドルグループ、アトランティーナ……いや、もはやグループというよりも、その影響力は国家のそれと同等だ。

 そのセンターメンバー……言うなればそれは、国家元首。


 それが―――ジェノサイドアイドル・ユミカ!


 ビジュアル・ダンス・歌唱力・トーク、全てにおいて完璧なトップアイドル。

 唯一、喋る度に変わる語尾だけが不安定で、そのギャップがまた彼女の魅力をより際立てている。

 そんな、絶対王者アイドル・ユミカの瞳からはハート型のビームが放たれ、千愛希の衝撃派を打ち消した。

「……そんな程度じゃあ、私をこの玉座から立たせることも出来やしないにゃる?」

 深く腰掛け、余裕の笑みで 千愛希を見下ろすユミカ…だが―――

「立たせる事も出来ない……か、じゃあ、無理やりにでも立ってもらおうかしら?」

 千愛希は、指でピストルの形を作り、「ばーん」と撃つマネをする。それは、技でも何でもない、ただの児戯のように見える。

「――?……はっ、なにそれ?そんなことに何の意味が――――っ!」

 その瞬間、ユミカは気付く。

 自分の頬から、僅かに鮮血が流れ落ちている事に…!

「なっ!」

 その傷を意識した次の瞬間――――

「えっ!?きゃあ!」

 背もたれに体重を預けていたユミカは、後ろに倒れそうになるのをなんとか堪えて、地面に両手を付けてバク転しながら起き上がる。

 何が起きたのかと玉座を確認すると―――――玉座の背もたれは、完全に崩壊していた。

 そう、先程の「涙腺破壊の歌声(ハートキャッチボイス)」で、玉座はその形を保てないほどのダメージを受けていたのだ。

「あらら、ユミカさん、可愛い声 出しますね! ――――そして、ようこそ、二足歩行の世界へ」

 ニヤリと、不敵な笑みを浮かべる千愛希。


「――ふ、ふふ…やってくれるっちょ……いいわ、ここからが、本当の勝負なり!かかってらっしゃれ!見せてあげりゅ!頂点に立つ者の強さと覚悟を!越えられるものなら、越えてみるが良いのだわ!」


「そうさせてもらうわ……私は、あなたを超えてアイドルの頂点に立ってみせる!!」

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