29.受付

『【上級隊員に学べ!】モンスター解体講座 アンデッド編』


『応急処置の治癒魔法(第五回) 医務局の専任魔法使いがアドバイスします』


『大人気 ベルンハートの皆殺し剣闘術 定員に達し次第、受付終了。急げ!』




いろいろあるけれど、祐太にはどれもレベルが高そうに思える。


「ん? これは? ……ほりだしもの?」




『掘り出し物を見つけよう 魔道具リサイクルマーケット 場所:カルメラン第二会議室』




これは勉強会ではなく、フリーマーケットの案内だ。これも自主開催らしい。


勉強会だけではない。掲示板には隊員が主催するイベントの情報が他にもたくさん貼られている。




『帰ってきた禁書朗読会 ※悲劇を乗り越え、二年振りに復活』


『初夏のダンジョンウォーキング 幽霊谷遊歩道 非業の騎士の最期を訪ねて』


『あなたも魔法でハッピーに! カルメラン美味しい魔法研究会』




こんなの職場の掲示板で募集していいのかな? と思えるような貼り紙もちらほら。


二人組はそんなサークル活動には関心がないようだった。もっぱら勉強会の貼り紙を熱心に眺めている。


「もっと即効性のある魔法はないものかね。……これは攻撃魔法か? 講師シンシア・パルトロゴス──真の魔法使いのための正統魔法講座」


もう一人が舌打ちした。


「いちいち気にさわるヤツらだ。真の魔法使い? 旧魔法の貼り紙なんざ、やぶりすてちまえ」


「そうもいかんだろ。おっと、そろそろ交代の時間だ。遅刻はまずいぞ」


二人組が立ち去った後で、祐太はその貼り紙を正面から見上げた。


薄い皮紙に、仰々しい紋章が描かれている。


流麗な筆致で正統魔法使いテウルギア限定の募集要項が記されている。


(シンシア・パルトロゴス……)


祐太の耳には先ほどの舌打ちの音がまだ残っていた。


「おはようございます、ユータ」


「ん?」


振り返ると、ルシルがスロープを上ってくるところだった。


「おはよう、ルシル。……今日は『豚箱』に乗ってなかったね。休みかと思ったよ」


「心配かけてすみませんでした。今朝は用があって家を出るのが少々遅れてしまったのです。いえ、たいしたことではないです。それより、更衣室へ寄りますか? わたしはローブをはおっていないとなんだか落ち着かないのですが」


「ぼくもそう思っていたところだよ」


二人はいつものように更衣室でローブ、杖、クツの三点セットを身につけると、いつものように大食堂に再集合した。


さすがに今日はヤカンを持っていないルシルだった。


「休みの日に来るってなんだかヘンな気分だね」


「わかります、その感じ」


「それで、資料室ってどこ?」


「案内看板があります」


複雑なカルメランの内部構造をできるだけ分かりやすく伝えようという努力がひしひしと伝わってくる案内看板だった。


二人で二十分くらいながめて、ようやく資料室の文字を見つけた。


「こっちのほうです」


ルシルが床を指差した。




巨大な岩山をうがち、築き上げられた要塞カルメラン。


本部の建物は岩盤の奥ふかくに広がっていて、その全貌を把握している者は少ない。


二人は坑道のような長く暗い通路を歩きつづけている。


行手に光はなく、背後もまた闇だ。


二人の歩みにあわせて、壁に据えられた松明が燃え上がる。そして、通り過ぎるとまた消える。


つかの間燃え上がる炎に照らされて、ときどき扉があるけれど、何の部屋なのか。使われているのか。そもそもここに扉があることが認知されているのか、それさえも謎だった。


通路をぬけて、日の当たる場所に出た。


空き地だった。真四角な広場で、四方はいずれも高い岩壁で囲まれている。


正方形にきりとられた空。祐太は四角い牢獄の底にいるような気分だった。


向かいの壁に、見上げるほどの大扉が堂々たる風格をもってそびえている。


二人は大扉に近づいた。


「これ?」


立派すぎる青銅の大扉だった。王都の大聖堂でもこれほどの扉はなさそうである。


「これってホントに資料室? なんだか悪魔でも閉じ込めていそうな感じだけど……」


そもそも、どうやって開けるんだろうか?


「そちらは閉鎖中ですよ」


はたから声がした。


驚いて振り返ると、右側の壁にも入り口がある。


その入り口の前に、日除けの天幕がはられている。


(いつの間に……?)


今の今まで、そんなものは無かったはずだ。突然、出現したように二人には思えた。


天幕の下にはカウンターテーブルが置かれ、男性がイスに腰かけていた。


日焼けした顔に丸メガネ。痩せていて、頭に布をまいている。


男性はニコニコしながら『受付』とかかれたプレートをテーブルの上に立てた。


「資料室へご用ですかな?」


「ぼくたち、調べ物があって来たんですが……」


祐太は目をぱちくりさせた。一瞬、男性の肩越しに光るものが素早く通り過ぎた気がしたのだ。


「一般書架でよろしいかな? その入り口をくぐって、階段の上へどうぞ」

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