8.死闘(リモート)

三人組は地下へ降りる階段を発見した。ここを下れば、その先は地下回廊だ。


「『星くずナイフ』……だっけ? 宝箱に気づくかな?」


祐太は前のめりになって鏡を見つめている。


「たとえ気づいても、問題はその後です」


ルシルはソファにもたれながら、


「宝箱を開けるどころか、大あわてで逃げ出すことになるかもしれません。ふふふ」


と不敵にわらった。


地下回廊に到達すると、三人組は探索を開始した。


奥へ進めば、例のギミックが作動し、全身甲冑の大鎧が彼らの前にたちふさがるだろう。


ここまでナイフ投げの練習ばかりしていた三人組だけれど、はたしてその実力は?


「さぁ、ショウの始まりです……!」


ルシルは湯飲みを高らかに掲げた。


……が、大鎧は姿を現さない。


「何も起こらないね」


祐太は首をかしげた。いっこうにギミックが作動する気配がない。


ルシルは黙って鏡を見つめていたが、


「もーっ!」


とあきれたように叫んだ。


「またですか!」


「また?」


「動作不良もいい加減にしてほしいです! まったく、ここの魔法ギミックはポンコツばかりです! ちゃんとメンテナンスしてないから、こういうことになるのです!」


三人組はなんら妨害を受けることなく、とうとう回廊の最奥へ到達した。小さな宝箱が置かれている。


ルシルはスックとソファから立ち上がった。


「しかたありません。マニュアルに切り替えます」


「まにゅある?」


ルシルが書棚から持ってきたのは、石板タブレットだった。十二個の正方形のパネルが埋め込まれていて、それぞれに記号がついている。


「みすみすレアアイテムを取られるわけにはいきませんっ」


バン! とルシルは勢いよく左上のパネルを手でたたいた。石板に魔力が注入され、パネルが輝きはじめる。


「鋼鉄の死神、始動!」


とつぜん、巨大な影が鏡の中を横切った。


砲弾のごとく突撃してきた大鎧だった。勢いあまって転倒し、柱にタックルして粉々にした。


三人組がぼう然としている。


驚いたのは祐太も同じ。


「い、いまの動きは何?」


「失礼……魔力を注入しすぎました。調整が難しいのです。……起き上がれです、鋼鉄の死神!」


パネルからパネルへ、ルシルの手が素早く移動すると、それにあわせて鋼鉄の死神は、命を吹き込まれたように軽快に動き始めた。


体勢をとりもどした鋼鉄の死神は、巨大な斧をブンブン振り回し、三人を宝箱に寄せつけない。


「労せずしてアイテムが手に入ると思ったら大間違いです!」


手動マニュアルというか遠隔魔法リモートだな、と祐太は思った。


パネルのひとつひとつが命令コマンドになっていて、それらの組み合わせで次々と攻撃アクションが繰り出される。


けれども、なかなか命中しないのだった。空振りばかりだ。三人の動きの素早さは、鋼鉄の死神を上回っている。


「ええい、なぜ当たらないのです!? ちょこまかと!」


「っていうか当たったらケガするんじゃ……」


「心配いりません、致命傷はあたえない魔法がかかってます。こうなったら……必殺! 無限稲妻斬りエターナルサンダースラッシュ!!」


鋼鉄の死神がシッチャカメッチャカにやっぱり斧を振り回した。


しかし、それでもあたらない。


三人組は短剣を手に反撃してきた。鋼鉄の死神は足もとをねらわれて、ふたたび派手に転倒した。


「ひ、ひきょうです!」


べつにひきょうではないと思う祐太だった。


それにしても、この三人、普通に戦うとめっぽう強い。どうやら手練れの冒険者らしい。ルシルの大鎧が一方的にほんろうされている。


「やむを得ません……」


ルシルは書棚からもうひとつ石板を持ってきた。


「ガーディアン二号、血染めの聖騎士を投入します! ユータ、お願いします」


「えっ?」


メモ用紙もわたされた。


「これは?」


「エミリィと協力して開発した技コマンドです。説明している時間はありません。実戦で覚えてくださいっ」


こうして、鋼鉄の死神と似たような感じの血染めの聖騎士が出現した。


祐太の石板もルシルのものと同型だ。十二個のパネルがアクションコマンドになっている。腕輪をした人間が触れると、魔力によってギミックの大鎧に命令が伝わる仕組みだ。


新手のガーディアンが出現したことで、三人組は動揺した。そこにわずかなすきが生まれた。


「いまです! ユータ! 合体技、双竜剛戦斧ダブルドラゴンストロングバトルアクスをたたきこむのです!」


「なんて!?」


奇跡が起こった。イチかバチか、祐太がメモを見ながら入力したコマンドは、完璧なタイミングで味方同士の合体技を発動させた。


「これで決まりです! はさみうちです!」


だが、完璧すぎるタイミングゆえに、それはかえって動きを読まれる結果となった。


三人組は完璧なタイミングで合体技を回避した。


二体の大鎧が振り下ろした斧は、完璧なタイミングで向かい合う味方の甲冑を互いに粉砕した。


「あああーっ!?」


「あ、相打ち……?」


見事、二体の大鎧は完璧に大破した。


「ふにゃー……。ま、負けました……」


ルシルはソファに突っ伏した。


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